第46話 的中、そしてナナとともに

 国王陛下の誕生祭。


 それは、この物語におけるイベントのひとつだった。


 イベントの内容は大規模な襲撃。


 主に王都が大量の魔物たちに襲われる。


 当然、その魔物たちを従えていたのは帝国の人間だ。


 とある遺跡で発掘された超凶悪な魔物を操るアーティファクトの効果で、大小様々な魔物を操って王都にけしかけた。


 同時に、このイベントでは都内の対人戦闘も行われる。


 相手は盗賊だ。


 それなりに名のある盗賊たちが帝国に手を貸した。


 その結果行われたのが、王国民の大量虐殺。


 アイリスは盗賊たちと魔物、その両方を相手にしながら上手く立ち回らねばならない。


 そのどちらを優先しても被害は出る。


 結果だけを言うと、アイリスは国民を優先した。魔物たちと戦う騎士たちを信じ、数名の部下とともに街中を駆け巡った。


 それにより多くの国民を助ける。盗賊を倒し、国に平和を導いた。


 だが、その裏では魔物に殺された多くの兵士の陰が。


 アイリスは憂う。自分にもっと力があれば、こんな非道な作戦に屈することもなかったのに、と。


 そこで悲しみをバネに彼女はさらに強くなる。——そんなイベントだった。




 しかし、このイベントは本来数年後に発生するイベントだ。


 毎年のように国王の誕生祭は行われる。別に今年の誕生祭に問題が起こるとは決まっていない。


 それでも気になってしまうのは、全ての未来を知っているからか。本来よりも早くイベントが行われてしまったからか。


 ハッキリとは言えなかった。だが、やはり見逃すことはできない。


 いまや俺も王国民。アイリスの味方である以上、このイベントをそのまま進行させるわけにはいかない。


 アイリスには秘密でこっそり調べる必要がありそうだ。


「ユウさん? 私の声、聞こえていますか?」


 目の前にアイリスの顔があった。


 俺がしばらく沈黙したことで彼女が心配したのだろう。申し訳ないと謝罪する。


「あ……ごめん、アイリス。ちょっと考え事をしてた」


「いえ、別に大事な話があったわけではないので。何か心配事がありましたら私に言ってくださいね」


「それじゃあひとついいかな?」


 お言葉に甘えて訊きたいことがある。


「はい。なんでしょう」


「ここ数日の間でいいんだけど、黒い球体のようなものを見つけなかった? たとえば盗賊たちが持ってた、みたいな」


「え? なんでそれを……ユウさんには言ってませんよね?」


 アイリスのその反応が全てを物語っていた。


 俺は嫌な汗がじんわりと出る。


「その反応……もしかして本当にあったの?」


「はい。別に秘密にしている話ではありませんから教えますね。三日ほど前ですね。王都近隣にいた盗賊たちを捕まえた兵士が、その賊から奇妙なアーティファクトを押収しました。黒い球体——水晶玉のようなものを」


「やっぱりか……」


 どうやら俺の予想どおりに物語は動いているらしい。


 その水晶こそが、このイベントのキーアイテム。恐ろしい数の国民を殺した最悪のアーティファクトだ。


 帝国の人間が魔物を引き寄せるのに使ったアイテムとは違う。だが、その効果はより最悪な結果としてアイリスの記憶に刻まれた。




 アイテムの名前は〝レメゲトン〟。


 普段はなんの変哲もない水晶玉に見えるが、その水晶玉を破壊することで中に封印された凶悪な魔物が解き放たれるというもの。


 いわば封印系のアイテムだ。


 作中では盗賊が保管庫からそのアイテムを盗み出し、アイリスに追い詰められて使用した。


 封印から解き放たれた強大な魔物は、アイリスを無視して国に壊滅的な被害をもたらす。


 それを倒し、なんとか国を救ったのがアイリスとその仲間だ。


 この件のせいでそれに付随するイベントがまた起こるわけだが……いまはそれより、その水晶玉をなんとかしないといけないな。


「その水晶玉、俺にくれない?」


「ダメに決まってるでしょ。鑑定系のアーティファクトで確認した結果、あれはかなり凶悪な魔物を封印しているものと判断されました。宝物庫の中でも一番奥に、厳重に保管されています。二度と日の目を見ることはないでしょう」


「そこをなんとか!」


「ダメです。あんな危険なもの……」


 くそっ。やっぱりダメか。


 最初から断られることは解っていた。あのアイテムはそれだけ危険な代物。


 破壊したら効果が発動するという性質上、廃棄も破壊もできない。厳重に保管しておくのが精一杯だ。


「そうか……残念だ」


 しょうがない。アイリスがダメだって言うなら、彼女には秘密で宝物庫に忍び込み、あのアイテムを奪取する。


 そのためには、必要な力があった。


 ちらりとナナを見る。


 ナナは俺の視線に気付くと首を傾げた。


「どうしたの、パパ?」


「いや……ナナにあとで大事な話があるんだ。時間いいかな?」


「ん、構わない」


「ありがとう」


 ナナ、——彼女だ。


 彼女は鍵開けのプロ。俺がやったんじゃゴリ押しになって犯人だと自白するようなもの。


 だが、彼女がいればたとえ宝物庫であろうと開けられるはず。


 決行は——今夜にしよう。




———————————

あとがき。


作者、風邪を引きダウン……

苦しいですが頑張って更新します。できなかった時は察してください←


よかったら反面教師の新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を見て『★★★』などで応援してくれると、体調がよくなるかも⁉︎(バカ言ってないで休め)

でも面白いですよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る