第43話 ガキ、そして発見
ナナとともに王宮を抜け出す。
向かったのは、城下の一角にある酒場だ。
アルコールに酔ったガラの悪い連中が多くいるが、怪しい仮面をつけている俺に絡んでくる者はいない。
カウンターの席にナナと並んで座る。
「マスター、エールを。あとは肉料理を頼む。彼女にはミルクを」
「ここは子供のくるところじゃないぞ」
声色から俺も子供だとバレた。ですよねぇ。
「ははっ。冗談冗談。適当にジュースをくれ。彼女には本当にミルクをね」
「飲み物の問題じゃねぇ。ここは酒場だ。お子様は別の店に行くことをオススメするぜ」
「いいから出せって。俺は客だ。大丈夫。別に暴れたりしないよ。絡んでさえこなければね」
わずかに魔力を放出する。
本当にわずかな量だ。しかし、こちらが魔力を操れることを理解したのか、四十代くらいの男性は表情を変えた。
「お前さん……なかなかにできるな」
「そういうマスターこそ。強いね」
この人、いまのやり取りだけで俺の力量をかすかに感じ取った。それだけでもすごいことだ。
「ますたー。私も肉料理。ジュース早く」
「……はいよ」
ナナの注文を受けて、微妙にぴりついた空気も霧散した。ナイスアシストだ、ナナ。
しばらくすると、酒場のマスターがジュースと料理を並べてくれる。
それをナナとともに食べた。
ちゃんと仮面は口元ズラしてね。
「もぐもぐ……うん、美味しい!」
「美味しい。温かいご飯を食べるの、久しぶり……」
ぽろぽろ。
思わず感動したのか、ナナの双眸から涙がこぼれる。
たまにナナはこうして過去を振り返って泣くことがある。ここ最近は毎日ね。
「おいおい、お前さん……一体どういう教育してんだ。いかんよ、子供は大事にしないと」
「おっさんの顔で説教されたくねぇ……まああれだ、多感なお年頃なんだよ」
「お前は反省しろ」
「俺のせいじゃねぇよ。前の家族が問題児だったの。ちゃんとボコボコにしといたから安心しろって」
ヤクザみてぇな顔しながら優しいおっさんだな。
意外とこういう顔が怖いタイプに限って優しいんだよなぁ。逆に俺みたいなイケメンタイプは腹の中で何考えてるかわからん。普通に乱暴とかする。
人は外見じゃ測れないってね。
「そうかい。それならいいんだ。ほら嬢ちゃん、デザートもお食べ。果物は体にいいぞ」
「ロリコンかよ……」
「ぶっ殺すぞガキ」
おおこわっ。冗談で言ったら本気で殺意を向けてきた。
子供に優しいとかほんといいマスターだ。
「いいの?」
ナナは他人の厚意に慣れていない。マスターの顔を見上げ、首を傾げる。
「ああ。そこのガキと幸せになれるようにプレゼントだ」
「そのガキにはくれないのかい、マスター」
「てめぇは肉でも食ってな」
「へーい……」
そりゃそうだ。俺とナナじゃ対応に差がある。
そもそもこの仮面のせいで印象最悪だしな。
「——うん? なんだか今日は外が騒がしいな。兵士たちか?」
「んー?」
マスターに言われて気づく。
たしかに外でいくつもの声が聞こえた。ガチャガチャと鎧の音も。
街中で鎧をつけるやつなんざ、冒険者か騎士くらいなものだ。
……なんだか嫌な予感がした。
「なぁ……ナナ」
「もぐもぐ。なに?」
「猛烈に嫌な予感がするのは俺だけか?」
「王女様、きた?」
「まだ見つかってはないと思う。けど、探してるっぽくね?」
俺もナナも耳を済ませて外の音を探ってみる。
外が気になったのか、酒場の空気もしんみりとしていた。
おかげでよく音が拾える。
「おい見つけたか?」
「まだだ!」
「あの風体ならすぐに見つかるはずだ。探すぞ!」
「おかしな仮面の男を捜せ!」
「…………」
おうっ。
確実に俺のことを探しているようにしか聞こえなかった。
眼前のマスターも、
「お前さん……お尋ね者か」
と冷ややかな視線を向けてくる。
「失礼な奴だな、マスター。俺はお尋ね者じゃない。ちょっと可愛い女の子に追いかけられているんだ」
「どんな女の子だよ。騎士を動員するなんて貴族か?」
「そんなとこ」
もぐもぐ。
普通は王族と結びつけるのは無理か。あながち間違ってもいないし、まあ口にするほどでもない。
「早いとこ自首したほうがいいぞ。罪が重くなる」
「だから違うって」
「いやいや、女関係でもだよ。相手の機嫌を損ねるだけだ」
「でも見つかったら拷問されちゃうからなぁ……ナナもそう思うだろ?」
「うん。あれは、キツい」
肉を食べながらナナが答える。
香辛料系とかドカドカだったしなぁ……胃が死ぬだろ。
「でもまあ大丈夫だよ。すぐには見つからない。いくらアイツでも——」
「アイツでも?」
ひやっ。
後ろから聞こえてきた声に、俺はびくりと肩が震えた。
正面のマスターなんて目を見開いて硬直していた。
無理もない。なぜならいま、俺の後ろにいるのは……。
「ご、ご無沙汰ですねぇ……アイリス王女殿下……」
ぎぎぎ、と首を回して後ろを向くと、やっぱりそこには青筋を浮かべたアイリスの姿が。
——俺、終わったわ。
———————————
あとがき。
明日、新作投稿予定!
初日は2話だゾ☆
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