第30話 奮闘、そして企み

 アイリスが地面を駆ける。


 一番近くにいた魔物に肉薄すると、その体に刃を振るった。


 銀閃が煌く。


 アイリスの動きを捉えることができない魔物は、驚愕を浮かべながらも首を斬られた。




 これで合計五体目の討伐になる。


「ッ!」


 魔物が倒れるのとほぼ同時に、アイリスは地面を蹴る。後ろに跳躍すると、先ほどまでアイリスが立っていた場所には、極太の腕が振り下ろされていた。


 地面を叩く音は鈍い。


 腕力だけならアイリスを凌駕するかもしれない一撃だ。


 地面に着地するなり、アイリスは愚痴のように呟いた。


「数が多い……」


 すでに五体もの魔物を倒したアイリス。


 にも関わらず、アイリスを囲む魔物の数に変化はない。


 増殖しているわけではなかった。ただ単純に、後から後から魔物が姿を現すのだ。


 実にタイミングが良いことに、アイリスが魔物を倒す度に追加の魔物が現れる。


「どうして急にこんな数の魔物が……ユウさんが仰ったように、近くのダンジョンが?」


 考えられるのは、ユーグラムがアイリスに言った可能性のひとつ——ダンジョン。


 アイリス自身はまだ半信半疑だったが、これだけ魔物が姿を見せるということは、ダンジョン以外に考えられない。


 村の近くの森は、定期的に騎士が見回って魔物を討伐している。そう簡単に魔物が増えるようなら、王都以外の土地には誰も住めないことになる。


「もしくは……考えたくありませんが、人為的な手で……?」


 脳裏を過ぎるのは、王国に対して敵対行動を繰り返す帝国。


 ユーグラム曰く、アイリスを恨んでいる帝国の人間はごまんといるらしい。それを考慮すると、王国を滅ぼすために、遠回しに魔物を連れてくる手はありだと思った。


 アイリスの個人的な意見で言えば最悪中の最悪だが、戦争を考慮した作戦であればこれほど効率的な戦法もない。


 自分たちは被害を出さずに、一方的に王国を攻撃する。


 納得できる話だ。


 しかし、証拠がない。


 帝国の兵士が近くにいるわけでもないし、仮に近くにいても姿を出さなきゃどこにいるのかわからない。


 今もアイリスは必死に迫る魔物たちを駆逐していくが、やはり魔物が増えるだけで人の姿は見られなかった。




「本当に……何が起こっているというの?」


 剣を振りながら、内心でユーグラムの心配をする。


 恐らく、今頃ユーグラムはダンジョンを見つけているだろう。


 なかなか帰ってこないし、ユーグラムは自分より色々なことを知っている。


 その秘密を明かそうとしないし、何かを隠している素振りこそあるが……アイリスはユーグラムのことを信じていた。


 彼なら絶対に自分の味方でいてくれると信じている。


 逆に言えば、——ユーグラムが敵対したとき、アイリスは何もできなくなる。


 根本的に能力差が違いすぎる。どれだけ本気を出してもユーグラムには届かない。


 間近で見てきた彼女だからそれがよくわかる。


「ユウさん……もしも私がピンチになったら、あなたは駆けつけてくれますよね?」


 そして、助けてくれますよね? と内心で呟いた。


 初めて顔を合わせたあの日のように。アイリスはそれを密かに望んでいる。




「グルアアアアア!」


「ッ!」


 魔物の叫びを聞いて意識が現実に引き戻される。


 クマのような大きな魔物が、腕を振り上げていた。


 横にステップして攻撃を避ける。同時に、相手の懐を剣で薙いだ。


 肉を断つ感触が手元に伝わり、クマの腹部が裂ける。大量の血を流したクマは、しかしそれでも止まらない。


 大きな口を開けて、勢いよくアイリスへ噛み付こうとした。それを、


「はあっ!」


 魔力で強化された右足が打ち抜く。


 顎を下から蹴り飛ばされて、クマは一撃で後ろにダウンした。


 これで八体目。


 まだまだ魔物は増える。


 村の近くでこれなら、ユーグラムのほうはどうなっているのか。


 やはり、そればかりが彼女の脳裏を過ぎった。


「ユウさん……信じてますよ」


 剣を構えて、アイリスは何度も地面を蹴る。


 他の誰でもない、ユーグラムの帰るべき場所を守るために。




 ▼△▼




「——よっと」


 真っ直ぐに突っ込んできたワニの攻撃を剣でガードする。


 狭い洞窟内では驚異的だった魔物の速度も、ひらけた場所ではただの的だな。


 攻撃力も大したことはない。俺の魔核から供給される魔力があれば十分に防げる。


「ひひひ! いいぞいいぞぉ! どんどんその男を追い込め! その後は村人たちを駆逐じゃ!」


「やらせねぇよ。もう少し俺と遊んでいこうぜ」


 剣に魔力を込めてワニを攻撃する。


 それなりにダメージを入れられるかと思ったが、強化された魔物はそれなりに耐久力があった。


 俺の一撃を受けても、


「グガアアアア!」


 叫び声を上げながら吹き飛び、ごろごろ転がって体勢を整える。


 皮膚はほとんど斬れていない。頑丈な奴だな。


「どんな合成したらそんだけ硬くなるんだよ」


「ひひひ。気になるか? 教えてやろう。先ほどの話が途中だったからな」


 科学者だか帝国兵だかわからない老人が、嬉々として自分の実験結果を話し始める。


 今頃……アイリスのほうも頑張ってるのかね?


 これもいい経験になる。少しばかり彼女に花をもたせられないかと考えてみた。




———————————

あとがき。


本日の20時3分に新作を投稿します!

よかったら見て、応援していただけると幸いです!


そのため、本日から投稿時間が少しだけ早くなるよ!同じ悪役転生ものだからぜひ、新作をよろしくお願いします!!!

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