第27話 実験、そして戦い

 しばらくダンジョンの奥を歩いていると、やがてひらけたエリアに出る。


 そこには、複数の灰色ローブの不審者たちがいた。


「……? 誰だ、貴様は」


 灰色のローブの中でも特に階級が高そう……な雰囲気を醸している老人が、俺に気付く。


 唯一服装が違うのだ。そりゃあ気にもなるよな。


 俺は老人の言葉に返事を返してあげた。


「侵入者だよ。さっきの連絡が聞こえなかったのか?」


 ここは洞窟型のダンジョンだ。それなりに音は響いたと思うが……どうやら、一番奥までは届かなかったらしい。


 それなら道中の配置は完全に無意味だろ……。ただゲームみたいに雑魚を置いただけだ。


「侵入者だと? ここはダンジョンだぞ。一体なんの用だね」


「随分と落ち着いているな。道中、お仲間がどうなったのか興味ないのか?」


「どうせ死んだのだろう? でなければお前はここまで来ていない」


「へぇ……意外と肝が据わってるね」


 目の前に明らかな危険人物がいるにも関わらず、灰色ローブの老人は特に動揺する素振りを見せなかった。


 両手に液体の入った瓶を持ちながら、拘束されたモンスターを眺めている。


 今更だが……あれはなんだ?


 見るからに魔物っぽいが、俺が知る魔物とは微妙に外見が異なる。


「まあいいや。その魔物はあんたのペット? 可愛いじゃないか」


「ふぉふぉふぉ。そうだろうそうだろう。お主、侵入者のくせに話がわかるじゃないか」


 魔物を褒められて老人が上機嫌に笑う。


 嘘に決まってんだろ。めちゃくちゃ気持ち悪いぞそいつ。


「コイツは私の実験によって生まれた実験体八号じゃ! これまでの実験体に比べ、素体の状態がいい! ほぼほぼ合成実験は成功したと言っても過言ではないのう」


?」


 聞き覚えのある単語が出てきた。


 たしか原作だと……。


「興味あるかね? 話がわかる君には特別に語ってやってもいいぞ。研究者とは、己の成果を語りたくなるものだからな」


「ぜひとも聞きたいね」


 俺はできる限り老人から情報を得るために、あえて攻撃も何もしない。


 他の、周りを囲む灰色ローブたちも、リーダー格? の老人から指示があるまでは動かなかった。ジッと俺を見つめたまま固まる。


「ではレクチャーしてやろう。まず、合成実験とは何か」


 老人が話を始めた。




「合成実験とは、その名の通り、魔物同士の合成実験じゃ! もちろん、この技術が確実な成果を得た暁には、今度は人間と魔物を合成しようと考えておるがの」


「魔物の合成実験……ね。頭のおかしい科学者が考えそうなことだ」


「人類の技術の進化とは、その頭のおかしい科学者のおかげで進んでいるのだ。むしろ感謝してほしいのう」


「自覚ありかよ……」


 本当に気持ち悪いな、この老人。


 つかマジで、このタイミングで魔物の合成実験が出てくるのか。


 原作だとで登場するはずの設定だったが……まだ序盤もいいとこだぞ。そもそも原作が始まる時期ですらないんだが。


「おほん。話を戻そう。その合成実験だが、こやつに複数の魔物の細胞を移植してみた。魔物とは通常の生物とは違い、呪いに等しい力を持っているからの」


「呪い?」


「お主は不思議に思ったことはないのか? 魔物はどうしてそうも強いのか、と」


「その原因……というか、力の源が呪いだと?」


「うむ。私はそう仮定した。まあ便宜上の名前であってなんでもよい。問題は、魔物にあるその呪いが、他の細胞を侵食して広がる、ということだ」


「まさか……それを利用して合成実験を行っているのか?」


「正解じゃ! お主、なかなか賢いではないか」


 この男の話を噛み砕いて自分なりにまとめると、魔物の細胞には特殊な効果がある。それはあらゆる細胞を侵し、特別な力——呪いを与えるもの。


 ではその魔物の細胞を魔物同士でも組み合わせたらどうなるのか。最も強い細胞が他の細胞を侵食してより強まる。


 だから魔物を合成すれば強い個体が人為的に作れるのではないか、と。


 原作で出てきた説明も含めると、だいたいこんな感じか。


 もっと簡単に言うと、魔物の細胞は強烈すぎる。他の細胞を蝕み、宿主に特別な力を与える。その細胞を増やせば、魔物を強くできるじゃん! ってことだ。


 やがては人間で試し、知能を持った魔物を作ろうって魂胆でもある。


 ちなみに、人間の細胞は魔物に比べると弱い。絶対に侵食されてしまう。


 その結果、原作ではかなり悲惨な事件が起こるわけだが……それより今は、目の前の狂人を止める必要があった。


「なるほどな……それなら、俺がやるべきことは一つだ」


「どうした? 仲間に加わるか?」


「いやぜんぜん。お前はここで捕まえる。逃がしはしない」


 コイツは多くの人間の人生を狂わせる。だからここで捕まえる。もしくは——殺す。




 鞘から剣を抜き、殺意を飛ばした。


 すると、周りを囲んでいた灰色ローブたちも武器を構える。


 最後に老人が、


「やれやれ……結局、お主は愚者だったのか。私の研究が理解できないとは……な」


 と言い、続けて後ろに立った魔物の枷を外した。


「であれば、ちょうどいい。お主を実験体の訓練相手に指名してやろう!」


 合成された魔物が——今、解放された。

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