第25話 オーク、そして発見
森の中を歩く。ひたすらに歩く。
帰ったらアイリスにばぶばぶ攻撃でもしようかと考えながら歩く。
そんな折、ふと生き物の気配を感じた。
「…………魔物か」
なんとなくそんな予感がする。
茂みを越えてそちらへ向かうと、俺の予想通り一体のオークが木の幹に背中をあずけて休んでいた。
お互いにお互いの存在に気付く。
「……ぐお?」
「うん?」
なぜか首を傾げるオーク。俺も首を傾げると、数秒の間を置いて、
「グオオオオオ!?」
オークが大きな声で叫んだ。
表情から驚いているのがわかる。
だから俺も、
「なにいいいいいい!?」
と驚いたフリをしておく。こういうのは最初の掴みが大事だと前世で教えてもらった。
だが、オークに俺の冗談に付き合うほどの余裕はない。
地面に置いておいた棍棒を握り締め、すぐにでも俺に攻撃を仕掛ける。
振り下ろされた一撃が、俺の頭蓋骨を砕こうとする。
しかし、それを片手で受け止めた。
「出会って早々、殺意の高い奴だな……お前、俺のこの紳士的な対応がわからないのか?」
なんでわざわざお前の反応を待ったと思ってやがる。
攻撃を受けるためでも、ターン制の勝負を演出したかったわけでもない。
ひとえに、コイツにダンジョンの場所でも聞こうとしたのだ。
やっぱりダンジョン産の魔物をボコッて居場所を吐かせたほうが早いだろ? さっき思いついた。
——え? オークは人間の言葉が喋れるのか? 当たり前だが喋れない。モンスターにはモンスター固有の言語がある。
人間が、国や住む地域で言語が分かれるように、魔物の中にだってそういう種族間の言語みたいなものはある。
だから会話はできない。いくら拷問したところで、目の前のオークが日本語を喋ってくれるわけじゃない。
ではどうやってこのオークにダンジョンの場所を聞くのか。
簡単だ。ある程度ダメージを負わせれば、ビビッてダンジョンのほうへ逃げる。
遠くにダンジョンがある場合は別の方向へ逃げるだろうが、近くにあればダンジョンほど安全な場所はない。自分以外にも仲間がいるしな。
そんなわけで……バキィィッ!
掴んでいたオークの棍棒を素手で、それも握力で砕く。
ぱらぱらと欠片になった一部を見て、オークが衝撃を浮かべる。
「グオオオオオオ!?」
……なんだかコイツ、妙に人間味があるっていうか、ちょっと殺しにくい感じがする。
だが魔物だ。人類に敵対するバケモノだ。俺に攻撃を仕掛けてきたのがその証拠。だから容赦はしない。
グッと拳を握り締めて攻撃——しようとしたら、それより先にオークは一目散にその場から逃亡を始めた。
「……えぇ?」
あまりにもあっけない光景に、思わず数秒間放心する。
まさか武器が壊されただけで戦意を喪失するとは……魔物のくせに妙に知能が高い。
本当にオークか疑いたくなるが、ひとまず作戦は上手くいった。このままオークを追いかければ、ひょっとするとダンジョンへ辿り着けるかもしれない。
一縷の期待を抱いてオークを追いかける。
▼△▼
「グオオオオオ!」
オークは必死に俺から逃げようとする。
「待て待て~☆ お兄さん、逃がさないゾ☆」
つかず、離れずの距離を保ちながら走る。
気分は、さながらホラー映画の殺人鬼にでもなったかのようだ。
追いかけられているのがバケモノで、追いかけているのが人間なわけだが。
そのままオークが数分間走り続けると、やがてひらけたエリアに足を踏み入れた。
不自然に周りの木々が切断されている。まるで、見晴らしとよくするために伐採されたかのようだった。
そして、その予想は的中する。
なんと、そのひらけたエリアには崖があり、その一角にぽっかりと大きな穴が開いていた。
おまけに穴の入り口には、二人ほどの灰色ローブの不審者がいる。
「な、なんだっ!? なんでオークがこっちに……!?」
オークが全力でダンジョンに帰ろうとする様を見て、二人の不審者は露骨に動揺する。
その後ろからオークを追いかける仮面の不審者こと俺を見て、さらに衝撃を受けていた。
「あれは……魔物か!? 仮面を付けた人型の魔物なんて見たことないぞ!?」
「しかも装備を持ってやがる! すぐに撃退するぞ! 俺はオークを。お前は後ろの魔物を狙え!」
「お、おう!」
勝手にモンスター認定された件。
二人は俺が人間であることに気付かないまま、魔力を練り上げて——魔法を撃ちだした。
手にしていた杖が光り、その先端から炎の球体が放たれる。
——アーティファクトか!
よくある武器型のアーティファクト。
魔力を注ぐだけで不思議な力が使える代物だ。どんな雑魚でもお手軽に魔法と呼ばれる力を行使できる。
「ブモオオオオオ!?」
オークは醜い雄叫びを上げて炎に包まれた。
オークは炎が弱点だ。あの様子ならすぐに死ぬだろう。対して俺は、
「誰が魔物だごらあああああ!」
素手で魔法を弾き、勢いをあげて二人の不審者を蹴り飛ばす。
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