第24話 探索、そして狂人

 アイリスと別れて村を出る。


 目的地は特にない。適当に周辺をぐるぐる歩くことにした。


「ダンジョンの場所、原作だと細かく書いてないんだよなぁ……」


 森の一角とは描写されていたが、どこどこの方角! とか。村から数百メートル先! とかは書いてなかった。


 それゆえに、前世の記憶を持つ俺でも、さすがに行き当たりばったりで見つけなくちゃいけない。


 唯一、希望があるとすれば……。


「ダンジョンは村の割と近くにあるってことかな」


 それがどれくらいを指し示しているのか俺にはわからない。


 もしかすると百メートルかもしれないし、一キロかもしれない。


 数字にすると大きいだけで、一キロって歩いてみると意外とあっという間だったりするからね。




 そんなわけで俺は、意気揚々と出かけたはいいが、のんびりとダンジョンを探すハメになった。


 すでに村にはアイリスがいる。仮に俺がダンジョンを見つけられなくても、彼女がいればモンスターが村を攻め滅ぼすことは不可能だ。


 こういうとき、主人公がいるのって大きいね。


「にしても……この辺りは定期的に騎士たちが来て、魔物たちを間引いてるから平和だなぁ」


 それなりに歩いたが、今のところ一匹も魔物と遭遇していない。


 近くでは小鳥の囀りが聞こえる。動物くらいなら、放し飼いしても平気そうな感じではあった。


 ——しかし。


「こういうとき、口にすると出てくるもんだよなぁ……?」


 ぴたりと足を止めた。


 少しして、茂みの中から灰色の狼が姿を見せる。


「三体か……少ないな」


 ダンジョンがどこかに出来ているなら、もっと魔物が襲いかかってきてもおかしくない。


 これは……。


「まだダンジョンが生まれたばっか? いや、それなら中型の個体が平気で外をうろつくのはおかしい……普通、最初に小型の魔物が出てくるはず……」


 考えてみると、答えはひとつしかなかった。


「ふむ……もしかすると、すでに帝国の人間がダンジョンを見つけたあとか?」


 単純な考察だ。


 原作のシナリオだと、帝国の人間が違法な薬品を魔物に注射し、オリジナルの魔物を作ろうとした。


 結果的には狂化させるくらいしか効果はないんだが……そのせいで、人が密集してる村が襲われる。


 そこには帝国の人間の思惑もあり、俺の考えが正しければ……帝国の人間がある程度使えない魔物を間引いてる可能性がある。


 それなら、イベントが始まってるにも関わらず、魔物の数が少ない説明にもなる。


「そもそも、なんでイベントは始まってるんだろうな。そこが一番の疑問だ」


 目の前の狼たちに話しかけてみるが、返事はない。


 鋭い視線が深々と俺の体を貫く。殺意ましましって感じだ。


「はいはい。動物と会話できるとは思ってないよ。……さっさとこい。すぐに殺してやる」


「グルアアアア!」


 俺の挑発を受けて、三体の狼が一斉に地面を蹴った。


 こんな雑魚に剣を使うのも馬鹿らしい。ゼロ距離まで接近した三体の魔物たちを——素手で切り裂いた。


「手刀、てね」


 体を切断される魔物たち。


 辛うじて一匹だけが軽傷だった。


 地面に着地するなり、学ぶことなく再び俺に飛び掛る。


 その狼の首を掴み、


「また来世で頑張ってくれ」


 と告げると、容赦なくその首をへし折る。


 ゴキッ! という鈍い音を立てて、それ以上、魔物は動くことはなかった……。


「……やれやれ。この近くにダンジョンあるといいんだけど……」


 殺した魔物を放り捨てて、俺は歩みを進めた。


 できる限り早く帰りたいな、と考えながら。




 ▼△▼




「ひひっ……ひひひ!」


 薄暗い洞窟の中、鎖に繋いだ魔物を前に、灰色のローブをまとった男性が下卑た笑みを漏らす。


 拘束されている魔物は、洞窟——ダンジョン内で発生したモンスターの中でも、そこそこ強い個体だった。


 四足歩行のワニ。真っ赤な瞳が、正面に立つ男性を捉える。


 本当なら今すぐにでも大口を開けて噛み殺したい気分だったが、魔物はそれができなかった。


 忌々しい鎖に、口を封じる器具。おまけに男は、魔物を弱体化させる特殊なアイテムを持っていた。


 それらを使い、魔物を動きを極限まで鈍らせている。


「ようやく……ようやく完成じゃ! まさかあの薬の使用許可が下りるとは思わなかったが、これもユーグラム様がいなくなったおかげかの? ひひひ。最初はただ狂わせるはずが、他の魔物と合成する実験まで試せるとは……最高じゃ! 最高ですぞ、第一皇子殿下ぁ!」


 ローブの男は感極まって昇天しそうになる。


 それは、お気に入りの玩具が見つかった子供のようであり、モルモットを前に薬品を持つ科学者のようでもあった。


 要するに……男は狂っていた。


 地面に散乱するいくつもの薬品を入れていた瓶が、男の狂気をよりいっそう際立たせている。




「ああ……楽しみだ! 実験を行い、その実験を試せる場まで用意してもらったんじゃからなぁ!」


 狂った科学者の脳裏では、苦しむ人間たちの姿が過ぎっていた。




 少しずつ……何かが壊れ始めている。その音に……誰も気付かない。


 ユーグラムでさえも。




———————————

あとがき。


そろそろ一章が終わりますね……

二章では物語もさらに動くかも?


※最近忙しくてコメント返しが遅くなってごめんなさい!しっかり目を通して返します!

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