第22話 扱い、そして諦め
村に入ろうとしたら、なぜか俺だけ止められた。
「なんでやねん」
思わず突っ込む。すると、門番の二人は、
「どこからどう見ても怪しい奴め! 貴様は何者だ!」
「よもや……アイリス殿下に連れて来られた犯罪者か!?」
「なんでやねん!!」
俺の扱いがあまりにも酷すぎる。
前方ではアイリスが、
「ぷぷっ……! ユウさんいつも止められますね、こういうとき……」
と笑っていた。
この野郎……笑い事じゃねぇぞ。
なんで仮面付けてるだけで毎回毎回こうやって止められるんだよ!? 理不尽すぎるだろ!
責任者出てこい! おらぁ!
溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させ、赤子のようにおぎゃってやろうかと思ったが、その前にアイリスが割って入った。
「ふふふ……お二人とも、そちらの男性は私の知人です。人見知りするので仮面を付けてはいますが、安全ですよ」
「動物か何かなの、俺?」
安全ってなんだよ。
「あ、アイリス殿下がそう仰るなら……くれぐれもおかしな行動はしないように! というかその仮面を外せ」
「断固として断る!」
これは俺のアイデンティティだ。外したら俺はただのユーグラムになってしまう。
門番の男性にキツく言われても仮面を外すことはなかった。
ひとまず、その場はアイリスのおかげでなんとなった。
門をくぐって村の中に入る。
▼△▼
「まったく……ユウさんが一緒だと騒動に事欠きませんね」
「俺を止めるほうが悪いと思うんだが」
「どう考えてもユウさんの問題でしょう」
やれやれ、とアイリスは肩を竦めた。
現在、俺とアイリスは村長の自宅へ向かっている。場所は門番の男性から聞いた。
あの野郎、俺とアイリスとで露骨に態度が違う。
アイリスに対してはデレデレするくせに、俺が話しかけるとチンピラみたいになりやがって……ゆるせねぇ!
後で俺の本気のおぎゃりを見せてやるぜ……!
「——あ! どうやらあの大きな家が村長さんのご自宅のようですね」
「一軒だけやたら立派な建物だな」
「村長ですからね。明確に他の村民と格を分けなければなりません。その分、役割と責任も増すのです」
「そんなもんか」
「そんなもんですよ、元皇子様」
「俺が皇子だったの、ごくごくわずかな期間だしなぁ」
「それでも皇子であれば、あなただって理解できるでしょう?」
「まあね。けど……俺は節制する派だ」
お金は最低限使えればそれでいい。ワガママなど言わない。
「この前、魚が食べたいと言って暴れてませんでしたか?」
「はて? 何のことやら」
「……まあいいでしょう。それより、村長さんに挨拶とお話を伺いにいきます」
「ああ。俺は先にダンジョンの調査に向かおうか?」
「いえ。情報の共有は迅速に行うべきでしょう。まだユウさんが仰ったことが確定したわけでもありませんし」
「んー……それもそうか」
俺の予想が正しければ、この村は近日中にモンスターの大群に襲われる。
ぱぱっと探すより、村長の話を聞いた上で、この村の防衛力を強化したほうが手っ取り早いか。
俺、ダンジョンがどこにあるのか知らんし。
原作だと、村から少し離れた場所に出来たとか書いてあったが……。
俺が考えている間に、アイリスが村長宅の扉をノックする。
少しして、四十代くらいの女性が扉を開けた。
「はい? どなたでしょうか」
「突然の訪問、まことに申し訳ありません。私はアルドノア王国の第二王女、アイリスと申します」
「第二王女……——って、えぇ!? あ、アイリス殿下ぁ!?」
アイリスが名前を名乗ると、わかりやすく村長の奥さん? は動揺する。
その叫び声が聞こえたのか、中からもうひとり、四十代くらいの男性が姿を見せた。
「お、おい? 急にアイリス様がどうしたって?」
「こんにちは。あなたがこの村の村長さんでしょうか」
「え? あ、はい……えっと……あなたは?」
「アイリス・ルーン・アルドノアと申します」
「アイリス……ルーン……あああ、アルドノアぁ!?」
おいおい、大丈夫か村長。腰が抜けそうになってるぞ。
驚きすぎた男性は、勢いあまって後ろに倒れて尻をつく。
「な、なぜアイリス殿下が……こんな小さな村に……?」
「この村で起きている異変の調査に来ました」
「そ、それは……昨日、私が冒険者ギルドに依頼した……?」
「はい。今回、私が担当させてもらいます」
「ええええええ!?」
さらに村長さんが驚く。その声は村中に響き渡り、話が聞こえていた何人かの村民から、アイリスが来ていることが広まった。
ざわざわ騒然としている。
「ひ、ひとまず……狭い家ではありますが、我が家にあがってください。アイリス様をいつまでも外に立たせてはいられません!」
「ありがとうございます。お言葉に甘えてお邪魔しますね」
奥さんと村長が揃って恭しく頭を下げてから、家の中にアイリスを案内する。
俺も彼女の後ろに続くと、
「…………あれ? あなたは……誰ですか?」
「怪しいわね……」
俺だけこれだよ。ケッ! どいつもこいつもそんなに仮面が不気味か!? そうだよなぁ! ごめんなさい!
諦めて、俺は仮面を外すことにした。
———————————
あとがき。
ユーグラムくんの仮面はかなり怪しい模様……?
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