第21話 嘘、そしてなんでやねん

 アイリスをお姫様抱っこした状態で、外壁を飛び越えて外に出る。


 落下時、アイリスの叫び声が響き渡った。


「おいおいアイリス……さすがに耳元で大きな声を出されるとうるせぇよ」


「こここ、殺しますよぉ!? 本当に!!」


 地面に着地したあとは彼女を下ろしてあげる。


 すると、アイリスは腰に下げた剣の柄に触れる。マジで怒っていた。


「落ち着けアイリス。理由を今から話すから」


「最初に! 連れて行く前に話してください!」


「ごめんって。急いでたんだ」


 必死に彼女をなだめると、なんとか矛を収めてくれた。


 じろりと睨まれながらも説明する。


「まず、最初に話しておくと……下手に時間をかけると村人が全滅する」


「——は?」


「驚くのも無理はない。普通に考えたら、ダンジョンが発生してもすぐにはモンスターは出てこない。それなりに時間がかかる」


「は、はい……だから我々は余裕を持って……」


「けど、そのダンジョンに第三者が関わっているとしたら?」


「第三者?」


 アイリスは首を傾げる。


 さっさと俺は答えを告げた。


「例えば……帝国の人間とかな」


「ッ!? そんな……ありえません。どうやってダンジョンに……あ」


「気付いたか? ダンジョン自体には干渉できないが、ダンジョンで生まれる魔物には干渉できる。要するに、魔物を外へ引っ張り出せばいいだけなんだからな」


「……なぜ、そんなことをユーグラム様が?」


「ユウな。俺もナナに情報を調べさせて最近知ったんだよ。アイリスの……王国のことを探ってる間者がいるかもしれないって」


 もちろん嘘だ。でたらめだ。ナナにそんなこと頼んじゃいない。


 しかし、今は適当な嘘でもいいから、俺の言葉に少しでも真実味を帯びさせる必要がある。


「それがどうして今回の件と関係が?」


「勘……と言ったらお前は俺に協力してくれるか?」


「勘、ですか」


 ここまできて勘で押し通すのは無理があったかな?


 けど、あんまり適当なことを言い過ぎるといつかボロが出る。なあなあで問題を提示したほうが、人は気になるってものだ。


 それはアイリスも変わらない。


「…………いいでしょう。どうせ村には行く予定でしたからね。今の話を聞いて、確かに私も嫌な予感がします」


「ありがとう! アイリス。お前はやっぱり最高の女だな!」


 信じてくれた彼女に感謝の言葉を送る。


 アイリスの顔が赤くなった。


「ッ~~~~!? べ、別にユーグラム様のためじゃ……」


「ユウな」


「私は自分でも怪しいと思ったから行くだけです! 勘違いしないでくださいね!」


「急にツンデレが出るじゃん」


「なんですかツンデレって!」


「可愛い今のアイリスのことだよ」


「ユウさん!」


 アイリスが俺に近付いて肩を叩いてくる。


 いたた。いたっ。魔力を帯びてるやんけぇ! 普通の人間なら骨にヒビが入りそうな威力が出ている。


 俺には効かないが、なかなかいい攻撃だった。


「まったく! ユウさんはすぐに女性に可愛いって言いますよね! 勘違いされても知りませんよ!?」


「そうかな? 俺が可愛いって言うのはアイリスだけだよ」


「嘘ばっかり……」


 ぷく~、と頬を膨らませるアイリス。


 その顔が可愛くてくすりと笑った。耳が若干赤いのもポイント高いな。


「さて、それじゃあ話も決まったことだし、さっさと村に行こうか。今日を逃すと村が壊滅してる可能性もあるしね」


「あんまり不吉なこと言わないでください。村の人たちに失礼ですよ」


「はいはい」


 事実なんだからしょうがないだろ。


 たしか原作だと、依頼があって数日後にアイリスは村へ向かう。


 その頃には村人が全滅してたってことは、ここ数日の間に問題が起こるってことだ。


 上手くいけばダンジョンに侵入した帝国の人間も捕まえられるかもしれないな。


 そう思いながら、アイリスと共に森の中を走る。


 魔力を使って走れば、俺とアイリスなら一時間もかけずに村へ到着するんじゃないかな?




 ▼△▼




 道中、魔物に遭遇することなく村に到着した。


 やや魔力は消費したが、魔核の供給量が多いので一瞬で満タンになる。


 アイリスは外から魔力を引っ張っているため、魔力切れはほとんどない。その分、出力も俺より圧倒的に低いがな。




「あなた方は……誰ですか?」


 急に現れた仮面の不審者こと俺と、絶世の美少女たるアイリスを見て、門番の男性のひとりが困惑する。


 しかし、隣にいたもうひとりの男性は、アイリスの顔に見覚えがあったらしい。


「……ん? その金色の瞳……まさか!?」


 すぐに答えに行き着いた。


「あ、ああ……アイリス様!?」


「アイリス様って……王女様!?」


 門番二人が揃って驚愕する。


 アイリスはややぎこちない笑みを浮かべて、


「急な来訪、まことに申し訳ありません。この度は村の近くに現れるモンスターの討伐のために来ました。村の中に入ってもよろしいでしょうか?」


「ももも、もちろんでございます! ささっ! どうぞ、アイリス様!」


「ありがとうございます」


 キレイに左右に割れた二人の間を、アイリスと俺が通って——。


「おい、待て。あんたは誰なんだ。怪しいぞ」




 俺だけ止められました。なんでやねん。




———————————

あとがき。


イベントがくるっていうのにイチャイチャするな!

あとユーグラムくんは普通にどこでも不審者です


※またレビューが増え……ボーナスタイム⁉︎

皆様ありがとうございます!たくさん増えると作者は元気がもりもりもりもりです(?)

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