第20話 イベント、そして始まり
アイリスからもたらされた話に、俺は驚きを隠せなかった。
「ゆ、ユーグラム様? どうしました?」
「いや……その……」
アイリスに訊ねられて反応に詰まる。
未来の話をなぜ俺が知っているのか。それを話すのはさすがに無理がある。
いくらユーグラムが天才だからって、話を聞いただけのイベントの内容をいい当てるのはあまりに不自然だ。
ここは、誤魔化すしかない。
「なんでも、ない。ちょっと発声練習をだな……」
「発声練習? よく大きな声出してるじゃないですか」
「まるで俺が変人みたいな扱いだな」
「え?」
「え?」
もしかして……俺、変人だと思われる!?
多少子供っぽいことはするが、別に変人なわけでは……。
誤魔化したつもりが、地味に心にダメージを負う。
「……まあいいです。何も問題がないのなら」
「今しがた俺の心に問題が生じたが?」
「それくらい唾でも付けて治してください」
「心に唾を吐くなぁ!」
「それより」
それより!?
「先ほどの話の続きですが、そういうわけなので準備をしておいてくださいね」
「……ん? なんで俺が?」
「ユーグラム様も一緒に行くからに決まっているでしょう?」
「初耳なんだが」
「いま言いましたからね、初めて」
「そういうとこじゃない?」
「何か言いたいことでも?」
にっこり。
妙に圧を感じる笑顔が炸裂。それを見たら俺は何も言えなくなる。
最強の反則技だ。
「いえ……なんでもありません」
「では詳しい内容をお話しますね」
一拍置いて、彼女は今回の件に関して説明を始めた。
「まず、依頼主は村を管理する村長さんです。なんでも、最近、やたらと魔物を見るようになったとか」
「どれくらいの頻度で、どれくらいの数を?」
「頻度はほぼ毎日。数はそう多くないとのことです」
「一匹とか二匹か」
「はい。それもゴブリンのような弱い個体がほとんどで、村人でも討伐できる程度らしいですよ」
「なら依頼の意味がないな」
自分たちで倒せるなら、わざわざ高額な報酬を払って冒険者を動員する必要はない。
しかし、アイリスは首を横に振った。
「いえ。そもそも依頼主である村長が治める村は、これまで魔物と遭遇したことすらなかったらしいです。王都近隣の森の中にありますからね。定期的に騎士が見回って討伐を行っています」
「それなら、なおさら依頼にしなくても……」
「ええ。騎士が巡回中に討伐してくれるでしょう。——本来は」
「何か気になることが?」
「前に村の周辺を探索していた騎士から聞いた話ですが……中型の魔物も現れたらしいです。騎士がいたので被害は出ませんでしたが、もしかすると近くに……集落、ないしダンジョンが発生した可能性があるかもしれません」
「ダンジョン……」
——正解だ。それこそが今回の原因。
実はこのイベント、まさに彼女が言った通り、村の近くにダンジョンが発生している。
ダンジョンは魔物を生み出す不思議な空間で、魔物が増えるとやがて外へ出てしまう。それが俗に言う〝スタンピード〟。
こうなると、周辺の村や町は壊滅的な被害を食う恐れがある。
そのダンジョン攻略は、基本的に冒険者と呼ばれる者たちの仕事なんだが……今回は、アイリスの訓練にもなるという理由で騎士が向かう。
そして、それをアイリスたちより早く知った帝国の間者が、ダンジョンにとある罠を仕掛けるのだ。
——強化薬。
世界的に禁止されている違法薬物。
これを摂取すると、短時間のみ驚異的な身体能力を得られる。
ただし、欠点として寿命を大きく縮めるのと、効果が出ているあいだは知能が著しく低下する。
言わば「狂化状態」になる。
そして、この狂化した魔物たちが今回、かなり悲惨な騒動を起こす。
「なるほどな。状況は理解した」
「ユーグラム様も来てくれますか?」
「ユウな。ちなみにいつ行く予定なんだ?」
「そうですね……予定もありますから、私が到着するのは数日後になるかと」
「やっぱりか……」
「やっぱり?」
これもまたイベント通りの進展だ。
このまま時間を引き延ばして村に向かうと、到着した頃には……村が滅びていたりする。
原因はもちろん帝国の人間。
彼らがアイリスたち王国軍を苦しめるために、わざとダンジョンへいき、魔物たちを引っ張ってくるのだ。
村人たちが無残にも魔物に襲われ、女子供だろうと容赦なく殺される。
描写によれば、食べられた痕跡が見つかり、千切れた手足もそこかしこにあったという。
あまりにも悲惨な結果だ。
それを見て、後に帝国の仕業だと気付いたアイリスは、ユーグラムに対して強い敵意を抱くようになる。
まあ、原作だと下からあがってきた案をそのまま採用したのはユーグラムだ。
今回俺は関与していないが、案を出したのはあくまで部下。恐らく、ユーグラムがいなくても作戦は実行に移されるだろう。
だが……ひとつだけ大きな疑問がある。それは——。
「——よし! 決めたよアイリス」
「はい? 何がですか?」
「これからその村に行こう! なう!」
「……え?」
問答無用。呆けた彼女の手を掴み、馬車の扉を蹴り破る。
そのままアイリスを抱き上げると、
「さあ、楽しい楽しい冒険の始まりだ!」
跳躍し、屋根を伝って外壁の外へ向かった。
俺の胸元では、
「ゆうううううううさあああああん!?」
アイリスがものすごく叫んでいた。無視である。
———————————
あとがき。
主人公とラスボスが手を取り合うときが……きた⁉︎
※ちなみに本作が書籍化する際は完全書き下ろしとなります。だから内容も結構変わるかも?Webも本も両方楽しめるよ!
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