第19話 正義感、そして巡る

「おっ! このスープ結構美味いぞ」


 露店でスープを購入後、人ごみから少し離れたところでスープを飲む。


 平民用の料理にしてはかなり美味い。値段の割りに満足度が高かった。


「たしかに美味しいですね……店主の腕が良いのでしょうか?」


「だろうね。俺が作っても同じ味は出せない」


「ユウさんは料理ができるんですか?」


「まあまあだね。普通といえば普通。物足りないといえば物足りない」


「よくわかりません」


「俺もわからん」


 料理を作ってたのは前世だし、ユーグラムに料理ができないとも思えない。


 だが、別に胸を張るほどではないだろう。そもそも料理を作る機会もないしね。


「それより、スープを飲んだら次は食べ物がほしくなったな」


「何を食べますか?」


「肉でしょ、そこは」


「ユウさん結構食べますものね」


「エネルギー効率が悪いのかもなぁ」


 ユーグラムはかなりの大食漢だ。普通に常人の二、三倍は食べる。


 アイリスは普通だから、もしかすると魔核による影響かもしれない。


 まあ太らないからたくさん食べる分には問題ないけど。


「では、向こうのお店に行きましょう。たしか大きな肉を切り取って売ってる店が……ん?」


「アイリス?」


 急にアイリスが動きを止めた。


 前方やや離れたところを見ている。その視線を追っていくと……。




「あれは……喧嘩かな?」


「そうですね。間違いありません。この辺りは人も多く、喧嘩なんてしょっちゅう起こりますし」


「治安を守る衛兵とかいないの?」


「いますよ。ですが、まだ来ていないようですね。心配なので私が止めてきます」


「あ、ちょっ!」


 俺の制止も聞かずにアイリスが走っていく。


 自分がお忍びで来ていることを忘れているのかな? 無駄に正義感というか、真面目な子だなぁ。


 しょうがないので、俺も彼女のあとを追う。




 ▼△▼




「テメェがいきなりぶつかって来たんだろうが! 謝れや!」


「お前が持ってた食べ物のせいで服が汚れたんだろ! 弁償しろクソ!」


 わんやわんや。


 たくさんの住民に囲まれた中心で、二人の男性が取っ組み合いの喧嘩を始めていた。


 わずかに酒の臭いがする。たぶん、両方とも酔っ払ってる?


 アイリスもそれに気付いたのか、やれやれとため息を吐きながら男性たちのもとへと近付いた。


「暴力行為はやめてください。ここは通りですよ。他の人にも迷惑です」


「あぁ!? 女が男の喧嘩に割り込んできてんじゃねぇぞ!!」


「ッ!」


 激昂した男が、見境なく拳を振るった。


 しかし、主人公アイリスに酔っ払いの拳が当たるわけがない。


 それを軽やかに避けて後ろに回ると、男の腕を曲げて取り押さえた。


「お見事。パチパチパチ」


「見てないで助けてくださいよ」


「俺が下手に手を出すと殺しちゃうかもしれないよ? いいの?」


「いいと思いますか?」


「思わない」


 だから手を出さないのだ。カッとなって殴ったら、一般人はただの肉塊になる。


「クソガッ! 舐めんじゃねぇ!」


「——なっ!?」


 組み敷かれた男と喧嘩していた男が、急に後ろからアイリスに抱き付く。


 さっきまで喧嘩していたくせに、共通の敵を見つけて仲良くなったらしい。


 酔っ払いの手が、アイリスの胸に伸びて——。




「離せカス」


「おげっ!?」


 触れる前に俺が男を蹴り飛ばした。


 男は無様に地面を転がって倒れる。


「汚い手でアイリスに触れるんじゃねぇよ。殺すぞ」


 蹴る瞬間にわずかに足を止めて威力を殺した。おかげで男は無事だ。


「大丈夫か、アイリス」


「…………」


「アイリス?」


 なぜかアイリスは、俺を見上げた状態で固まっている。


 それでもしっかり組み敷いた男の腕を押さえているのだから偉い。


「ユウさんが……今……~~~~ッ!?」


 カーッ!


 急激にアイリスの顔が赤くなる。もう見慣れた光景だ。


 それでいて笑っているのだから、照れてるのやら喜んでいるのやら。面白いからそのまんま眺める。


「いたたっ!? 痛い! 痛いいいいい! 折れる! 俺の腕がああああ!?」


「アイリス、その人の腕折れるよ?」


「えへへへ! えへっ……」


「アイリスさーん?」


 彼女、人の話を聞いていない。


 無意識に、割と力が入っているのか、男の腕が悲鳴をあげていた。男も悲鳴をあげていた。


 反面、アイリスはもうニマニマが止まらない。


 小さな声で、


「まるで絵本に出てくるお姫様のような……」


 とか言っている。


 そして、顔を赤くしたままくねくねと体を動かし——あ。


 バキッ! という音と、


「ギャアアアアアアアア!?」


 という男の悲鳴がほぼ同時に響き渡った。




 ご愁傷様です……。




 ▼△▼




「うぅ……衛兵の人にドン引きされました……」


 帰り道。馬車が待つ中央広場へ向かう途中、アイリスが深いため息を吐いた。


 あれから、騒ぎを聞きつけた衛兵が現れ、男たちは引っ張られていった。


 その際、腕を折ったことに関しては不問だ。殴りかかった男が悪い。


 しかし、野蛮な女性と思われたのか、衛兵たちは苦笑いしていた。それがアイリスの精神を攻撃する。


「明日から任務で顔を合わせたときに、ゴリラ女とか思われたらどうしましょう……」


「それはもう手遅れでは?」


「殺しますよ」


「ごめんなさい。……って、?」


 何の話だ?


「ああ……そう言えば、まだユウさんには言ってませんでしたね。昨日、王国領にある村の村長さんから依頼が届けられたんです。王宮ではなく、冒険者ギルドにですが」


「村長……冒険者ギルド……」


 んー? それってどこかで聞き覚え……。


「なんでも、最近、村の近くで魔物が現れるようになって困ってるって。簡単そうな依頼なので、調査隊の一員に私が同行し、訓練がてら——」


「ああああああああ!?」




 お、思い出した!


 それって……原作にあるイベントのやつじゃん!?




———————————

あとがき。


おや?何やら騒動の予感……?

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