第18話 赤面、そしてひゃっはー!
「さて、アイリス」
「はい、ゆー……ユウさん」
「うん。まずはどこに行こうか」
歩き始めてすぐに、俺はアイリスに訊ねた。
彼女は苦笑する。
「ユウさんの観光なのに、ユウさんが決めないんですか?」
「俺は王国に詳しくないからね」
「それにしては、王族とか私のことには詳しいですね」
「ファンだからな」
「出ました、それ。意味わかりません」
「前世からの愛だよ」
「愛ぃ!?」
ぽぽぽ、とアイリスの顔が赤くなる。
アイリスは照れやすい子だった。恋愛経験ゼロかな?
ちなみに俺はゼロだ(どやぁ)。
「じょ、冗談はそれくらいにしてください!」
「冗談じゃないんだけどなぁ……ともかく」
こほん、と一度咳払い。俺は続けた。
「アイリスのオススメの場所とかないの? 面白い場所を所望します」
「面白い場所ですか……そうですね……」
うーん、とアイリスは考える。
しばらくして彼女は、
「では、まずは軽く通りをぐるりと回りましょう」
割と当たり障りのない意見を出した。
「通りを?」
「はい。この辺りは特に人が密集してます。それだけ店も多い。もしかするとユウさんが気になる店もあるかもしれませんね」
「それって——」
「いかがわしいお店以外ですけどね」
「…………」
「なんですか、その不満顔は」
「別に」
最近、アイリスはどんどん俺のことを理解し始めた。
会話の主導権は取られるわ、台詞が予測されるわでちょっと酷い。
それだけ仲良くなったってことかな? 俺のボケを殺すのはただの虐めだと思ってるが。
「アイリスの意見に賛成。そういうの嫌いじゃないんだ」
「では行きましょう。……あ」
ふと、歩きながらアイリスが視線を落とす。
彼女の視線を追うと、お互いの右手、左手が見えた。
彼女は何も言わない。しばし見つめたのちに視線を前に戻した。
……ふふ。こういうところは素直じゃないね。
「私、別に手を繋ぎたいとは言ってません」とか言いそうな顔だ。
けど、俺は彼女と手を繋ぎたいし……うん。
ぱしっと、アイリスの手を握る。
「——え!? あ、え!?」
アイリスは俺に手を握られると、足を止めて目を見開いた。
ものすごく動揺している。
「あれ? もしかしてダメだった? 手を繋ぐの」
「いえ……そういうわけじゃ……ありませんが……」
ぽぽぽ。
アイリスの顔が再び赤くなる。
内心でニヤニヤしながら言った。
「じゃあこのままで行こう。人が多くて迷子になったら困るしね」
「ま、迷子……そう、ですね! ユウさんを一人にしたら私が困りますし……はい!」
「はいはい」
私はデレませんって顔してるけど、真っ赤だから遅いと思う。
にまにまと表情筋が緩まったアイリスに手を引かれ、俺は歩き始める。
ラスボスと主人公が交わったこのデート……俺たちの想像以上に大切な光景だね。
輝かしい未来に繋がっていると信じたい。
▼△▼
「ひゃっはー! 俺は手当たり次第に露天を荒らすぜええええ!」
たくさんの露店が立ち並ぶ通りの一角。そこで、俺は子供みたいにはしゃいで走り出した。
直後、ぐいっと後ろから手を引かれて動きを止める。
「落ち着いてください、ユウさん」
「アイリス!? 俺の覇道を止めるつもりか!?」
「周りの視線が痛いので叫ばないでください。あと、普通に捕まりますよ、営業妨害で」
「だってだってだってぇ! 異世界の露店っていったら、冷やかし暴行なんでもありだろ!?」
「なんですかその地獄!? 普通に犯罪ですよ!」
「ぐ、ぐえ……くるちい……」
手をさらに引っ張られ、後ろから首を締めあげられる。
や、やるなアイリス! たしかにこれなら、俺の高い防御能力もかなり軽減する……まさかラスボスにこんな弱点があるとは!
また新しいゲーム外の要素? を見つけた。でも苦しいから離してください。
「まったく……さっきまでは割とカッコよかったのに……」
「冗談だって冗談。俺がそんなことするように見える?」
「見えますね」
「うーん、信用ゼロ!」
最高な返事をありがとう。アイリスとは仲良くなれそうにない。
「いいから私について来てください。しっかりと案内します……か、ら……?」
言葉の途中で、すでに俺は脱走していた。
ぴゃー! っと露店のそばへ走る。
「ひひひ! 店主ぅ! これは何を売ってるのかな? 俺に何を売りたいのかなぁ?」
「は? え?」
店主はいきなり現れた変質者(俺)に驚いていた。
後ろから拳から飛んでくる。
パンチッ☆。
今回はアイリスもすぐに追いかけてきた。
「ユウさん……殺されたいんですか?」
「冗談だって、冗談」
「どこが冗談? 言ってましたよね? 営業妨害してましたよね???」
「まことに申し訳ございません」
だからその腰に下げた剣を触るのやめない?
異世界の露店を見てテンション爆上がりしただけなんだ。悪気はないよ、ほんとに。
「なんだいアンタら。デート中かい?」
「でっ……ち、ちがっ……うこともありませんが……」
「そうなんだよ店主。この可愛い彼女に美味しいスープを飲ませてやってくれ」
「はいよ」
店主は気さくに俺の注文を受け入れてくれた。
よかった。変な人だと思われなくて(思われている)。
一方、アイリスは、俺の隣で顔を紅色に染めたまま俯き、
「デート……彼女……えへへ」
なんか気持ち悪いくらい笑ってた。
———————————
あとがき。
タイトル(か近況ノート)見た人は気付きましたね……?
そう!この度!本作は書籍化が決定しましたー!
ぱちぱち!
実は、投稿を始めて一週間ほどで打診がきましてね……作者の目玉が飛び出ました
詳しくは近況ノートに書いてあります!よかったら見てね!
そして!書籍化するけどWebの更新は続けます!ランキング1位は落ちそうだけど、皆さん、まだまだ★などで応援してくれると嬉しいです!!!
わーい!!!
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