第17話 気絶、そして対等

 翌日。


 目を覚ました俺の視界に、晴れ渡る青空が広がった。


「んー……今日はいい天気だね」


「デート日和?」


「そうだぞー、また勝手に部屋に入ってきた馬鹿娘」


 コイツ、毎回毎回カギ開けが上手すぎるだろ。


 暗殺者になれそう(元暗殺者)。


「お土産、期待してる」


「ああ、任せとけ。特に問題がなかったら美味しいものでも買ってきてあげるよ」


「問題が起きたら?」


「そりゃあ、お土産は犯罪者ってことになるだろうな」


「いらない……」


「よく解る。俺もいらん」


 だが、


「だが……アイリスはトラブルに愛されているんだ」


「トラブルに?」


「めちゃくちゃな」


 なんせ彼女はこの世界の主人公。


 俺が何もしなくても、俺が敵側にいなくても、主人公っていうのは自然とフラグが立つ。


 デートイベントとかもはやフラグのオンパレードだろ。


 俺を失った帝国が、暗殺者ギルドまで失って……何の手も打たないはずがない。


 事実、原作では、何度もユーグラムやその部下がアイリスを殺そうとした。


 今回もそれを警戒すべきだろう。ラスボスがいなくなった世界は……誰にとっても未知数なのだから。


「……まっ、俺がいるかぎり、アイリスを殺すなんて不可能だけど」


「最強だもんね」


「おうよ」


 答え、ナナと一緒に部屋を出る。


 朝食を摂ってからは、着替えて外へ向かった。正面入り口、門のそばに彼女はいる。


 私服姿のアイリスが。




 ▼△▼




「お待たせ」


「どうぞ、ユウさん。私も先ほど着いたばかりですよ」


 おお。なんかデートの定番って感じ。


「同じ場所に住んでいるんだから、一緒に出ればよかったのに」


「いいじゃないですか。こういうのは雰囲気とかシチュエーションも大事なんですよ」


「シチュエーションねぇ」


「なんですかその顔。ムカつきます」


「いやいや。ただ、アイリスは乙女で可愛いなぁって」


「~~~~ッ!!」


 トマトみたいに真っ赤になるアイリスの顔。


 相変わらず、からかわれると耐性ないなぁ。


「そ、そんなに……」


「ん?」


「そんなに……私は、その……可愛い、ですか?」


 ちらっ。


 上目遣いでアイリスが俺を見る。


 ドキッ。


 心臓が震えた。痛いくらいに早鐘を打つ。


 ビジュアルは最強だったけど……こうして話すと、余計に可愛いな。


 余計にそう思った。だから、素直に答える。


「……ああ、可愛いよ。世界で一番な」


「ひえぇ…………」


 あ、まっずい。


 アイリスの許容限界が壊れた。顔がありえないほど真っ赤になり、——煙を出しながらその場に倒れる。


 慌てて彼女を抱きかかえたが、目を回して意識を失った。




「…………まだ、デート始まってないんだが?」




 ▼△▼




「ご、ご迷惑をおかけしました……」


 馬車の中、深々とアイリスが頭を下げる。


 俺は首を横に振った。


「いや、アイリスだけのせいじゃないさ。俺も悪かった」


「悪いわけないじゃないですか!?」


「おおっ……」


 急に剣幕がすごい。


 ずずいっと顔を近付けてきた。怖い。


「どうか、ユーグラム様の気持ちはそのままでお願いします! 私は嬉しかったんですから!」


「ユウね。……でもそっか。アイリスが喜んでくれたならよかった。嬉しいよ」


 にっこりと笑う。


 すると彼女は、また顔を赤くして席に座り直した。




 現在、俺たちを乗せた馬車は、街の中央を目指して動いている。


 そこで馬車から降り、観光を始める。


「それにしても……アイリスのその格好」


「変、ですか?」


「いや。そんなことないよ」


 今のアイリスの格好は、平民にまぎれるために眼鏡をしていた。


 服装も髪型も地味だ。瞳もアーティファクトの効果で青色になっている。


「その格好も素敵だね。俺もなるべく平民っぽい服装を意識したんだけど……どうかな?」


「素敵です」


「いや似合ってるかどうかじゃなくて、平民っぽい?」


「そうですね……ユウさんは顔立ちが整いすぎているので、どんな服を着てもある程度高貴なオーラは隠せません」


「君もね」


 隠せていないよ、あんまり。


「ですから、お互いに行動には注意を払いましょう」


「了解。また暗殺者とかに狙われてもしょうがないしね」


「……いるんですかね、まだ」


「暗殺者はわからないけど、君を消したいって人は大勢いる。帝国の人間は特にね」


「そう、ですね……」


 アイリスは俯く。気分はさながらブルーか。無理もない。


 だが、心配する必要はない。ナナにも言ったが……、




「大丈夫だよ、アイリス」


「え?」


「俺、最強だし。どんな奴が相手でも、必ずお前を守る。お前は俺に守られていればいいんだよ」


「ユウさん……」


 アイリスは顔をわずかに赤くしたまま、「ふふ」っと笑って言った。




「はい! ですが……私もユウさんを守りますよ。任せてください! 私、二番目に最強ですから!」




———————————

あとがき。


今後の展開で少しネガティブになってました……頑張って書かないと!応援してくれる人のためにも!


本作はラブコメ要素の強い異世界ファンタジー!!

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