第16話 修羅場? そして二人きり

 ユーグラムくん15歳。


 童貞につき、アイリスからのお誘いをそういう意味だと受け取ってしまう。


「どこまでって……どういう意味ですか?」


「そういう意味だ」


「解りません」


「お体のお関係だ」


「おかっ——!?」


 アイリスが顔を真っ赤に染めた。


 ククク……お主も初心よのう。たかが行為をチラつかせるだけでそんな過剰な反応をするなんて。


「アイリスは経験なさすぎない?」


「ユーグラム様も顔が真っ赤ですが」


「恥ずかしいに決まってるだろ!?」


「逆ギレですか!?」


「こちとら童貞ぞ!? 女性との交際経験すらないのに、どう真面目に受け止めろって言うんだ……!」


 残念ながらユーグラム自身にも、俺自身にも女性経験はない。


 なぜなら彼は、帝国では恐れられていたから。もしくは、神の御子として敬われていた。


 本人も力を求めていたので、恋愛に興味を示したことがない。


 しかし、俺という人格が表に出てきたことで、今さらながら童貞なことに焦っている。


「ど、どどど……」


「効果音?」


「違います! 童て……未経験者のくせに、邪な考えをするから恥をかくんです!」


「童貞やね」


「うるさいです」


 すみません。ちょっとからかうと面白すぎて……。


 自分より恥ずかしがってる人を見ると、人間誰だって冷静になれる。


「とにかく! 私は別にそういう行為をしようと思って誘ったわけではありません! 純粋に……ユーグラム様を……そう! 案内したいんです」


「案内?」


「王都を案内します! ユーグラム様は帝国しか知らないでしょう?」


「そりゃあ帝国はガチガチに内輪で固まってたからねぇ。一度も外に出たことはない」


「でしたら、王都を案内させてください。私に知らないことは何もありません!」


 胸を張るアイリス。ぷるん、と衣服ごしに揺れた。ガン見する。


「つまり……夜の街も案内してくれると」


「殺しますよ」


「ごめんなさい」


 アイリスがガチで殺意を込めた目を向けてくる。反射的に謝った。


「そもそもユーグラム様、私と同い年ですよね?」


「ピチピチの15歳だな。今が絶賛思春期だぜ」


「ダサいです。そして15歳の子供が夜の街を歩いていたら捕まりますよ」


「ふっ。前にも言っただろ? 誰も俺を捕まえることはできない」


「王都にきて即行で捕まっていたじゃないですか……誰のおかげで牢屋に入らずに済んだと?」


「その際はお世話になりました……」


 あれは俺も失敗したなぁ、と思ってる。


「ん、パパ」


 くいくいっと、アイリスとの会話中に服を引っ張られる。


 視線を落とすと、ナナが俺を呼んでいた。


「どうした、ナナ」


「デート、私も参加」


「ほほう? 修羅場を求めるとはなかなか過激な奴だな。嫌いじゃないぞ」


「女の子を変な道に引っ張らないでください」


「可愛い子には旅をさせろってな」


「余計な知識は毒です。というかユウさんが毒です」


「酷くない?」


「事実でしょ。……だいたい、彼女がいたらデートにならないじゃないですか……」


 ボソッ。


 アイリスがなんか言った。


「ん~? アイリス殿は、拙者と二人きりでデートしたいでござるか~?」


「殺します」


 ぶんっ。


「あぶなっ!?」


 目の前を剣が通り抜けた。


 あと数センチズレていたら当たっていた。仮に当たっても、真剣程度じゃ俺は傷つかないが。


「最近はツッコミが過激だぞ! 俺だからいいものを……」


「ユウさんだからこそやってるんです。特別ですよ?」


「わー、ぜんぜん嬉しくない特別だー」


 彼女は俺のことを自立型のサンドバッグと勘違いしてるのでは?


「いいから……わ、私と……デートしてください」


「アイリス……」


 彼女から羞恥と本気の気持ちが伝わってきた。


 さすがにいつまでも茶化すのはダメだな。ナナの頭に手を置き、


「ナナとはまた今度だな」


 彼女のお願いはまた今度に回す。


「ん、しょうがない」


「アイリスの金で豪遊させてやるから我慢してくれ」


「あい」


「…………まあ、いいですけどね」


 やや不満がありそうなアイリスだったが、自分の提案が通ったので怒ったりはしない。


 なんだかんだ、彼女はナナに甘い気がする。


「ちなみにデートってなにするんだ? 王都の観光?」


「そうですね。案内するなら観光が一番いいかと。どこか行きたいところはありますか?」


「夜の——」


「夜の街以外で」


「……特になーし」


「露骨にそっけなくなりましたね……私が一緒なんですよ? それ以上は求めないでください!」


 びしっ、と人差し指を向けられる。


「たしかにそうだな……全部奢りで頼むよ、アイリス」


「そう言えばユーグラム様は、お金は持っていないんですか?」


「ふっ。舐めるなよ? ちゃんと帝都を出るときに宝物庫からたんまり財宝を奪ってきたぜ!」


 不思議な○次元ポケットみたいなのに収納している。いざってときのための貯金だな。


「だったら自分で出してくださいよ……」


「まあまあ」


 いつか、大金が必要になるかもしれないだろ?


 もしかすると、ね。




———————————

あとがき。


やっぱりデートは二人きり♡

たまには甘々にしてやりますか……(え)

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