第15話 教育、そしてデート
謎の生徒、コンラットなんちゃら君に絡まれた俺だったが、彼の記憶はすぐに頭の中から消えた。
普通にアイリスと過ごし、普通に放課後になって帰り、普通に訓練に巻き込まれ、普通に就寝する。
▼△▼
翌日。
目を覚ました俺は、腹の上に違和感を感じた。
視線を落とすと、なぜか俺の上に——ナナがいた。
「……おいこら。人様の部屋でなにしてる」
寝ているナナの顔にデコピン。
割と威力は高めだ。
「——あうっ!?」
即行で目を覚ますナナ。
やや寝ぼけた顔で俺を見た。
「……おはよう、パパ」
「おはよう。自室に戻れ」
「やだ」
「なんでだ」
「一人は寂しい……」
「それを言われると弱いな……」
彼女は捨て子。拾われた先は畜生。
まさに天涯孤独。俺以外には知り合いもおらず、いまさら元の生活にも戻れないと。
しょうがないので彼女の首根っこを掴み、とりあえずベッドから放り投げた。
「ひ、酷い! 虐待!」
「おいおい。誤解を招くことを言うな。ここは王宮だぞ? 俺が捕まったらどうする」
「事実」
「教育と言え」
「前の男と同じこと言ってる」
「それは俺に効くぞ?」
心にぐさっと何かが刺さった。
だが、一応訂正しておく。
「そもそもアイツと一緒にするな。アイツのはただの暴力で、俺は悪いことをした子供を叱る教育だ。人の上に乗るんじゃない。それも寝込み」
「一緒に寝たかったから……」
「可愛い……がダメ。寝付きが悪くなるだろ、俺の」
「我慢してくれるって信じてる」
「うーん、厚かましい」
却下だ。
でも、自分の意見を言えるくらいに精神が回復したならよしとしよう。
彼女も、言ってることの大半は冗談だろうしね。
ベッドから降りて背筋を伸ばした。
「この後はどうする?」
「ん~……? アイリスが押し寄せてくるから、早朝訓練を終わらせて学校だな」
「また? サボればいいのに」
「お前は意外と賢い奴だな……その意見を是非とも採用したい! ——ところだが」
バンッ!
勢いよく扉が開かれた。
部屋に入ってきたのは、件のアイリスだった。
「おはようございます、ユーグラム様!」
「おはようアイリス。相変わらずノックしろや」
「それでは早朝訓練に行きましょう! 今日は魔力の使い方も教わりたいです!」
人の話をガン無視して、アイリスに腕を掴まれ引きずられていく。
「ちなみにアイリスよ」
「はい」
「今日のパンツは何色だ? お前のパンツを見ないと俺は気がすまない。ついでに胸も揉ませろ」
「殺しますよ」
「だって~! ずっとずっと訓練ばっかでつまんなーい!」
引きずられたまま俺は駄々をこねる。
完全に危ない奴だった。
「……あなたは」
「ん?」
「あなたは、本当に私の下着や胸が好きですね」
「アイリスが好きだからな」
「ッ!」
アイリスの顔が真っ赤に染まった。
こうして彼女をからかうことで、普段のいじめの逆襲をしている。
たまに剣が飛んでくるが、鉄の塊くらい当たってもダメージないし気にしていない。
「わ、わかりました……」
「え?」
「そんなに私の下着が見たいなら……後で、その……」
「ありがとうございます!」
「——食い気味!?」
俺は先出しでお礼を言った。
ラッキー! アイリスの下着なんてプレミアものだぞ。ネットオークションなら100万は優に超えるな。
「もう……ふふっ。本当にあなたという人は……」
アイリスはなぜか笑顔を浮かべていた。
その表情は、俺が心底好きな彼女の顔そのもの。ちょっとドキっとしたのが悔しくて……。
「どうした、アイリス。下着を見せるのが癖になりそうか?」
パリンッ!
冗談を言ったら、窓ガラスをぶち抜いて外に放り投げられた。
ここ、建物で言ったら三階くらいの高さね。
「中庭で待ってるぞおおおおおお!!」
俺は叫び声をあげながら落下した。
▼△▼
「今日は天気いいな~」
「当たり前のように無傷ですね、ユーグラム様は」
中庭でアイリスを待っていると、すぐに彼女はやってきた。
腰に下げた木剣の一つをこちらに放り投げてくる。
それをキャッチして答えた。
「あのくらいで怪我するかよ」
「普通は怪我するんですよ。致命傷ですよ」
アイリスは呆れた顔でため息を吐く。
彼女、自分が殺人未遂したことをもう忘れたのだろうか!?
「本当に人間かどうか疑わしいですね……まあそれはいいんです」
「よくはない。俺、被害者」
「それより、一つだけ明日の予定を決めてもいいですか?」
無視。しょんぼり。
「明日の予定? ずいぶんと唐突だな」
アイリスが剣を構える。話しながら戦うつもりか?
彼女は地面を蹴ってこちらに接近した。
剣を振り、それを俺が受け止めた瞬間——、
「あああ、明日!! 私と…………デートしてくださいいいいいい!!」
おもむろに大きな声で叫んだ。
あっけに取られた俺は、力が抜けて、彼女の木剣をもらう。
バシーン! とおもいきり木剣が眼前に命中。ダメージはなかったが……ひたすらに困惑した。
たまらず……、
「ど、どど、どこまでしていいの……!?」
と、食い気味に訊ねてしまった。
———————————
あとがき。
ユーグラムくん(と中の人)は童◯
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