第12話 モテモテ、そして実技

 たっぷり教員の男性に怒られたあと、俺とアイリスは教室へ向かった。


 入ってすぐ、周りからの視線が殺到する。


「か、仮面……?」


「あれってアイリス様よね? 後ろの人は誰かしら……」


「たぶん、服装からして護衛、だよな?」


「怪しいだろ、普通に考えて……」


 ひそひそと遠巻きに俺のことを非難? するクラスメイトたち。


 ガキ共が失礼だな。同い年だけど。


「ユウさん……その仮面、やっぱり取ったほうがいいと思いますよ。私まで目立ちます」


「目立つのは悪いことじゃないよ。胸を張っていこう」


「外してください」


「ちぇっ」


 見せればいいんだろ見せれば。


 なるべく素顔は晒したくないが、まあ王国内で俺のことを知ってる奴はいないだろ。


 一度でも顔を見せれば、そのあとは仮面も付けられるだろうし、渋々俺は仮面を外した。


 イケメンフェイスが露になる。


 ——瞬間、教室内が沸いた。


 主に女子生徒が。


「きゃー!? な、なにあのイケメン! 素敵!」


「アイリス様と同じ髪色だけど……まさかお兄様!?」


「どうして私がナチュラルに妹扱いなんですか……」


「制服着てないからじゃない?」


 アイリスの愚痴を俺だけが拾う。


 その間に、一気に女子生徒たちが俺の周りを囲んだ。


「背がたかーい! 近くで見ると余計にイケメンッ!」


「あなた様は見ない顔ですが……王家に縁のある?」


「王子様ですか!?」


 おおう。ぐいぐい来るな令嬢方。


 チヤホヤされるのは嫌いじゃないし、ここはファンサービスも込めて笑みを浮かべる。


「私は王子ではありませんよ。アイリス様とは知り合いですが、別に血は繋がってません。身分の件は訊かないでいただけると幸いです」


「きゃああああ!」


 今日一番の声を発して彼女たちは盛り上がる。


 中には、鼻血を出して倒れる者もいた。


 すごいなおい。


「で、でしたら、私を婚約者にどうでしょう!?」


「はぁ!? あんた婚約者いるでしょ!」


「婚約破棄します」


「ズルい! それだったら私も婚約破棄するぅ!」


「彼は私のものよ! 婚約者がいるんだからすっこんでなさい!」


「あなたこそ結婚を約束した幼馴染がいたんじゃないの!?」


「子供の戯言です! お互いにそんな約束信じてませんわ!」


 やいのやいの。


 クラス中が急に賑やかになる。


 女子の激しさを見た男子生徒たちは、驚く者もいれば俺を見て嫉妬する者もいた。


 これはまずい。


 アイリスも目で訴えかけている。


『なんとかしろ』


 と。


 やれやれ。イケメンは大変だなぁ(笑顔)。


「申し訳ありません、麗しき令嬢方。私は、今は誰のものにもなれないのです。アイリス様を守るという大義があるので……」


 うるうる、と残念そうに視線を逸らして言った。


 演技力まで完璧なのだよ、ユーグラムくんは。


 その反応に対して、令嬢方もまた涙を流す。


「うっ……たしかにアイリス様は王女。アイリス様を守ること以上の使命はありませんね!」


「残念ですが、また気が変わったら声をかけてください! 私はいつでも待ってます!」


「私も!」


「私も!!」


「ありがとうございます。レディ」


 最後にキメ顔ウインクしてその場を離れた。


 アイリスと共に彼女の席に向かう。




「ずいぶんと人気がありますね。顔ですか、顔」


「まるで内面は汚れているかのような言い方ですね」


「私の下着を見た下手人の心が……汚くないとでも?」


「ごめんなさい」


 その件はさっき何度も謝ったじゃん。


 アイリスのジト目が刺さる。




「……ん? なんだこの空気。今日はお祭りでもあったのか?」


 クラスに男性教師が入ってきた。


 わーきゃー沸き立つ女子生徒たちを見て首を傾げる。


 ようやく事態は収拾されるのだった。




 ▼△▼




 死ぬほど退屈だった午前中の授業が終わって午後。


 昼食を食べたあとで、アイリスに訓練場へと拉致られた。


「アイリス様~、なんですか急に。俺まだ食事中だったんですけど」


「あらごめんなさい。護衛対象を放置して女子生徒と食事をしてる馬鹿がいたもので」


「みんな奢ってくれるんですよ、最高ですね学園!」


 グッと親指を立てると、彼女は笑顔のまま額に青筋を浮かべた。


「その指折ってもいいですか」


「ダメに決まってるでしょ」


「だったらもっと私のことを考えてください」


「アイリス様のことを?」


 え? なにそれ。奢ればいいの? 言っとくが俺の金は、帝国から持ち逃げしてきた汚い金だぞ!? 薄汚れてもいいんだな!?


「そうです。さしあたって……午後は実技訓練なので、それに付き合ってください」


「断る」


「ダメです」


 無理やり木剣を握らされた。


「いや、第一、生徒でもない俺がアイリス様の相手をするのはダメでしょ」


「そこは問題ありません。事前に了承は得てあります」


「チッ! この国の公務員は腐ってやがるな……!」


 誰だよ許可出した奴。


「ワケわかんないこと言ってないで構えてください。基本自由なのですぐに始めますよ」


 こちらの反応を無視してアイリスが剣を構える。


 どうやらマジで逃げられないらしい。




———————————

あとがき。


アイリス「鼻の下を伸ばすユーグラム様なんて……馬鹿!」

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