第5話 逮捕、そして謁見

 馬車に揺られること数時間。


 アイリスたちと共に王都の正門を抜ける。


「おー! ここが王都か! すごいな。人がいっぱいいる」


 馬車の荷台から見える景色は、俺が知るどの世界よりも煌びやかに見えた。


 人の密集具合がヤバい。


「あまりきょろきょろしないでください。私がいることがバレたら囲まれますよ」


「OK! じゃあちょっと観光してくるわ!」


 馬車から降りる。


 全力ダッシュ!


「ちょ!? ゆー……ユウさん! 待ってください!」


 アイリスの制止を振り切って俺は人ごみの中にまぎれた。


 手当たり次第に屋台を冷やかそう。


 買い食いなんかもしちゃってね!




 ▼△▼




「…………」


 ザ・拘束!


 全身を鎖でぐるぐる巻きにされて馬車で運ばれるユーグラムくん15歳。


 あの後、追ってきたアイリスに捕まって無理やり縛られた。


 しかも捕まる前に、「仮面を付けた不審者がいる」との通報を受けた衛兵にボコボコされ、牢屋に入れられそうになっていたところをアイリスが助けてくれた。


 なので無理やり鎖を破壊するような真似はしない。


 前世の年齢を加味すればおっさんと呼ばれる年頃の俺は、無様に捕まってちょっと恥ずかしかった。


 さすがにはしゃぎすぎたと反省する。


 叫びながら街中を駆けずり回るのはダメだね。周りに迷惑だ(常識)。




「まったく……王都に来て十分たらずで衛兵に捕まるって、逆にすごいですね」


「だろ? 俺もびっくりだ」


「胸を張らないでください。恥ずかしいって意味です」


「俺もそう思うわ……」


 意外と内面では気にしてたりする。


 前世を含めて初めて捕まったもん、俺……。


「そろそろ王宮に着きますので大人しくしててくださいね?」


「王宮内の探検は?」


「なしです」


「秘密の部屋を探すのは?」


「ありません」


「勝手に宝物庫に入るのは?」


「殺します」


 どうやら全部ダメらしい。


 せっかくやりたいことリストをまとめておいたのに。


「絶対に、私のそばからいなくならないでください。大人しく! ついてくるんですよ?」


「求婚かな? 喜んで」


「……楽しそうですね、人生」


「割とね」


 冗談はさておき王宮に到着した。


 ぐるぐる巻きにされたまま俺は、馬車を下りて王宮の入り口を通り抜ける。


 周りからの視線がすごかった。


 まあ、どう見たって罪人を運ぶ様子にしか見えないからね。


「つうかさ、アイリス」


「なんですか」


「国王陛下に素顔バラさなきゃダメ?」


「ダメに決まってます。あなたのことを匿うのですから、せめて陛下には話しておかないと。後で秘密にしてたのがバレたら私が罪人になるじゃないですか」


「たしかに。でもその場で殺せとか言われたら嫌だなぁ。絶対に抵抗するよ?」


「それ、私の前で言う台詞ですか? 任せてください。私がどうにかします」


「いいね。まったく頼りにならない台詞だ」


「ぶっ飛ばしますよ」


「ごめんって」


 会話もそこそこに謁見の間の前に到着した。


 重圧な音を立てて扉が開く。


 視線の先には、玉座に座る国王の姿があった。


「おお、アイリスか! よくぞ外から帰ってきたな。魔物の討伐はどうだった?」


「つつがなく終わりました。これでしばらく北西は安泰でしょう」


「うむうむ。さすがは神の御子。……ん? して、そちらの怪しい仮面の者は誰かな?」


 国王陛下の視線がゆっくりとこちらへ向く。


 俺は縛られた状態で挨拶する。




「俺様が来てやったぞ」




 パコーン!


 アイリスに後頭部を殴られた。


「真面目にやってください」


 そう言ってアイリスは俺の拘束を外す。


「ごめんごめん。やっぱり第一印象って大事じゃん? だからインパクトある挨拶をしようとだね……」


「普通でいいですよ。余計に怪しく見えます」


「……そっか」


 そう言われたら真面目にやるしかないね。


 俺は仮面に手を添えて外した。


 黄金色の瞳が、周りの兵士や国王の前に晒される。


「ッ!? そ、その目は……!」


「お初にお目にかかる、アルドノア王国の国王よ。俺はユーグラム・アルベイン・クシャナ。ただの一般第三皇子だ」


「やはり……クシャナ帝国の神の御子か!」


「賊め! どうやってここまで入った!」


 国王陛下の周りを囲む兵士たちが、一斉に槍を構える。


 国王の表情も強張っていた。


「どういうことだ、アイリス。なぜ敵国の皇子がここにいる」


「私が連れてきました」


「理由はなんだ」


「ユーグラム様曰く、彼は王国へ亡命したいらしいです。我が国で匿ってくれるなら、帝国との戦争にも協力すると」


「そこまでは言ってない」


 勝手に曲解されてる件。


 まあ別にいいけど。


「その言葉を信じたのか?」


「はい。実際にユーグラム様は私を魔物から助けてくださいました。殺したほうがはるかにメリットがあるのに。それと……この方の実力はたしかです。今の私では絶対に勝てません」


「お前がそこまで言うほどか……」


 国王陛下の顔に汗が滲んだ。


 敵対する意思がないことを俺もアピールしてみる。


「安心しろ、陛下。俺がその気ならこの場で全員殺してる。生きているのが何よりの証拠だ」


「貴様! 陛下の前で調子に乗りよって!!」


 あれぇ?


 兵士たちの視線がさらに鋭くなった。殺意も混じっている。


「ユーグラム様……あなたは極力喋らないでください。事態がややこしくなります」


「そうなの?」


「そうです。とりあえず私はユーグラム様を匿います。その上でひとつ提案が」


「……話してみよ」


 俺を放置して二人の親子が話し合う。


 言われた通り大人しくその様子を眺めていた。




「ユーグラム様には、私の師匠——訓練相手になってもらいます!」


「……はえ?」


 なに言ってるんだ、コイツ?




———————————

あとがき。


ヤンチャなユーグラムくん。可愛いですね(※実はアイリスは可愛いとは思ってる)


アイリス「(ユーグラム様を師匠にしたら……一緒にいられるよね?)」

みたいな思惑があったりなかったり?

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