第4話 要求、そして協力

 オークが倒れ、その場に静寂が満ちる。


 最初に口を開いたのは、膝を地面に突いたアイリスだった。


「あ、あなたは一体……」


「そう言えば素顔を見せるって約束だったっけ。絶対に襲わないと約束できる?」


「……わかりました」


 彼女はこくりと頷いて剣を置く。


 俺も剣を鞘に戻してから仮面を外した。


 彼女にしか見えないように素顔を晒す。


「——ッ!? あなた……まさか!?」


「さすがに目で気付くよな。お前が想像した通りの人物だよ」


「ユーグラム……アルベイン、クシャナ……」


 俺に配慮してその名前は小さく呟いた。


「正解。拍手をあげよう」


 すぐに仮面を付け直して拍手する。


 彼女は酷く驚いた様子でなおも訊ねた。


「どうして帝国の第三皇子であるあなたがここに?」


「アイリス・ルーン・アルドノア。お前を殺しにきた——って言ったらどうする?」


「……どうもしませんよ。あなたが本気になったら、今の私では敵いません。それに……」


 ちらりとアイリスの視線が背後で倒れるオークへ向いた。


「本当に私のことを殺す気があるのなら、オークとの戦闘中に襲えたはず。それをしなかったということは、何か私に用があるのでは?」


「正解。またまた拍手をあげよう」


 パチパチパチ。


 彼女が聡明でよかった。


 おかげでスムーズに本題に入れる。


「用件を教えてください」


「簡単だよ。帝国から亡命したい。匿ってくれ」


「——は?」


 アイリスは面食らった表情でぴたりと動きを止める。


 完全に呆けていた。


 膝を折って、彼女に目線を合わせてもう一度言う。


「だから、亡命したいの亡命。あの国嫌いでさ。全部捨てて、アイリス様の味方になりに来ちゃった☆」


「——い、いやいやいや! なぜあなた程の強者が帝国を!?」


「しー! 俺の素性は君にしか教えていないんだ、あまり声を大きくしないでくれ」


「ッ! ……なぜ、わざわざ帝国を出たのですか?」


「言っただろ? 嫌いなんだよ、あそこが。民を苦しめる皇帝が。それを良しとする貴族たちが。兄たちも全部嫌いだ」


「だから……王国に?」


「ああ。君が帝国を滅ぼしたほうが世界は平和になる。それをよく知っているからね」


 アイリスが戦争後、どのように国を導いていくのかは知らない。


 それは原作では語られないエンディング後の話だ。


 しかし、彼女ほど善性な人間を俺は知らない。


 ゆえに信じられる。


「そこまで私を信じる根拠は?」


「ファンなんだ」


「……は?」


 またしても彼女は呆ける。


 そんなに意味不明なこと言ったつもりはないぞ?


「だーかーら、ファンなの。君が好きだ。顔も可愛い。ぶっちゃけ顔が好み。性格がクソでも愛せそう」


「~~~~~~!! あ、あなたねぇ! 失礼なこと言ってる自覚はあるの!?」


 急にアイリスが顔を真っ赤にして怒る。


 この反応……こやつ初心だな?


 面白いからからかう。


「自覚はある。だから胸を揉ませてくれ。おっぱいプリーズ」


 バシーン!


 アイリスに顔面を殴られた。


 魔力を巡らせているから痛くない。


 むしろ彼女の篭手がわずかに凹んだ。


「防具を粗末にするのはよくないなぁ」


「あなたのせいですよ! あなたの! というか、籠手があるのにどうしたら殴った側が凹むんですか!?」


「魔力による身体強化だ。質も量も違うのだよ」


「……なんかちょっとムカつく」


「それよりアイリス、返事をまだ聞いてない」


「返事?」


 彼女は首を傾げた。


 その仕草は可愛いが騙されないぞ。


「可愛い顔してもダメ。俺を匿ってくれっていうお願い。俺が味方になれば確実に帝国に勝てるんだ、悪い話じゃないだろ?」


「あなたを殺すっていう選択肢もありますが? 拘束したり」


「ふっ。誰も俺を縛ることはできない」


 ガチャリ。


 アイリスに手錠をかけられる。


 ——ワッツ?


「ええええええ!? なんで手錠!?」


 どこに隠し持ってやがった⁉︎


「誰も縛ることができないって言うから」


「ただの言葉の綾だろ!? いきなり拘束するとか頭沸いてんのか!?」


 バキィッ!!


 鉄製の手錠をフィジカルで破壊。


 バキバキと握力で輪っかも砕く。


「わー……まるで魔物ですね」


「最大級に失礼な奴だな……それで? 返答は?」


「……いいでしょう。あなたの言うことはもっともです。たしかにユーグラム様がいなくなれば我々は有利になる。他に何か望みは?」


「余は贅沢を所望する!」


「偉そうですね……まあいいですけど」


「サンキュー。これからよろしくな、アイリス」


 すっと手を差し出す。


 アイリスもまたその手を掴んで握手した。


「よろしくお願いします、ユーグラム様」


「ユーグラムでいいよ。もしくはユウでも可!」


「……さっさと王都に帰りますよ、ユーグラム様。陛下に話を通さないといけないので」


「冷たいねぇ。そこも可愛い」


「ッ! 可愛いって言わないでください!」


 彼女をからかいながら、俺たちは馬車で王都へ向かう。




———————————

あとがき。


実はアイリス、初めて助けられて内心ドキドキしてます。ユーグラムくんが白馬の王子様に見えてるのかも……(ツンデレなんです)


まあそれはそれとして!

次回、ユーグラムくん逮捕


お楽しみに!

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