第2話 戦闘、そして邂逅

 帝都を出て森の中を駆ける。


 今は深夜だから視界がやや悪い。


 それでも早朝までには帝国領を抜け出したかった。


 理由は、ユーグラムの存在だ。


 帝国側からしたら、ユーグラムとはまさに勝利の鍵。


 逆に王国側からしたら、ユーグラムは目の上のタンコブだ。


 主人公のアイリスですら単騎では敵わぬほどのスペックを持ち、最後まで王国をたった一人で苦しめた。


 ——なぜ、ユーグラムという男はそこまで強いのか。


 神の御子と呼ばれ、作中最強に至った理由は、彼のにある。




 ——〝魔核〟。


 世界でたった一人、ユーグラムしか持ち得ない固有の炉心のようなもの。


 厳密には異なるが、要は魔力を生み出し続ける特別な能力だ。


 本来、魔力とは世界中を漂うもの。人の中には存在しない。


 それゆえに、魔法を使う者たちは外から魔力をかき集めて魔法を発動させる。


 だが、ユーグラムにその手間は必要ない。


 自らの中に膨大な魔力が宿っている。


 それを引き出し、念じるがままに魔法を放出できるのだ。


 量はもちろん、質も他の魔法使いとは異なる。


 まさにチート。オンリーワンの能力があまりにも突出しているのだ、この男は。


「それでもっと狡猾な人間だったら、アイリスたちも負けてたかもしれないね」


 ユーグラムの最期は孤独。


 仲間も部下にも裏切られ、彼の後ろには誰もいなかった。


 圧倒的な個であろうと、アイリス率いる軍には勝てなかったのだ。


 俺は本来辿るはずの愚者にはならない。


 そのルートを回避して、なおかつ明るい未来を目指すアイリスたちを推すのだ。


 そのためには……。




「——うん? なんだ、この気配……」


 ぴたりと足を止める。


 前方から複数の反応を捉えた。


 少しして、木々の間からぬるりと魔物が姿を見せる。


 合計三体。全員が牙を剥き出しに殺意をぶつけてきた。


「うげっ!? ほ、本物のバケモノだ……」


 遭遇するとは思っていたが、いざ目の前にすると恐ろしいな。


 冷静でいられるのは、肉体——ユーグラムのおかげか。


 それで言うとこの体には記憶が宿っている。決して失われることのない……ユーグラムの過去の経験が。


「いけるか? いや、いくしかないよな」


 鞘から剣を抜く。


 ここで逃げる選択肢はなしだ。どうせ今後も魔物とは戦うことになる。


 何より、転生した直後の俺は、ユーグラムの——自分自身の戦闘能力を把握し、正確に扱えるようにならないといけない。


 仮にアイリスたちと敵対したとき、まったく戦えないのでは困るからな。


「信じてるぞ、ユーグラム! お前のスペックなら……こんな魔物たちには負けないってな!」


「グルアアアア!」


 魔物が地面を蹴って迫る。


 直後、体が自然と動いた。


 まるで最初からそれを知っていたかのように剣を振るう。


 ——スパッ!


 一刀両断。


 一匹の魔物の首を、寸分違わず斬り落とした。


 鈍い音を立てて魔物の亡骸が地面を転がる。


「ッ……!」


 今のが、命を断つ感触。命を断つという経験。


 前世日本じゃ体験したことのない感覚だ。


 不快。しかし、取り乱すほどじゃない。


 嫌に冷静に、俺は残りの二体を睨んだ。


 すると、魔物たちは仲間の死にも怯えず飛び掛かってくる。


 今度は二体同時だ。


 それでもユーグラムは、落ち着いて攻撃を避けながら剣を振る。


 一体一体を確実に仕留めた。




「……ハァ……ハァ……」


 なんとか戦闘に勝利する。


 体は疲れていないのに、不思議と心は疲れた。


 慣れるまでちょっと大変そうだな……。


「ここから王都までどれだけ距離があると思ってんだ……まったく」


 実戦経験には事欠かなさそうだな。


 剣に付いた血を払い、鞘に戻す。


 倒れた魔物たちを一瞥したあと、再び俺は王国領へ向かって走り出す。


 走りながら、何度も何度も無言で自らに問う。


 ——死にたくないんだろ? だったら戦うしかない。違うか?


 黙々と自らの行いを正当化していき、次に魔物と遭遇する頃には——問題なく殺せるようになっていた。


 俺が単純なのか、冷酷なのか……はたまた、内に眠るユーグラムの人格と混ざっているのか。


 どちらにせよ、俺はこの世界に適応できていた。




 ▼△▼




 昼夜、休憩とダッシュを繰り返しながら数日。


 魔力による肉体の強化のおかげで、睡魔を我慢しながらようやく王都のそばまでやってきた。


 ここまでどれだけの魔物を倒し、どれだけ空腹を我慢して走ったか。


 魔力があるからかなり無茶できたが、その反動ですっかり俺はやさぐれていた。


「ご飯食べたい。お水飲みたい。ベッドで寝たい。シャワー浴びたい……おっぱい揉みたい……」


 睡眠不足でハイになったテンションが、小学生並みの願望を口にする。


 そうしてさらに走ること数時間。


 とうとう、魔物以外の気配を感知した。これは——。


「に、人間だ! ……よな?」


 人の声がする。間違いはない。間違いないはずなんだが……疲れすぎてて疑心暗鬼になっている。


 人の言葉を話す魔物だったらどうしよう……うん、絶対殺す。


 喜怒哀楽の感情が不安定になりながらも、ゆっくりと音のするほうへ歩みを進めた。


 ガサゴソと茂みの中から前方を窺うと——。




「……あれ? アイリス?」


 俺の視界に、原作主人公の姿が映った。




———————————

あとがき。


サクサクいきましょー!


ちなみにユーグラムくんの魔核には限界はありません(今後強すぎて修正されるかも?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る