【Web版】原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?
反面教師@6シリーズ書籍化予定!
第1話 悪役転生、そして亡命
ユーグラム・アルベイン・クシャナ。
栄えある帝国の第三皇子にして、世界にたった二人しかいない〝神の御子〟。
その才能は留まるところを知らず、基本的にやれば何でもできた。
まさに完璧超人。
それでいて容姿端麗。文武両道。あらゆる面において恵まれた男は、——しかし、人間性にだけは恵まれなかった。
悪逆非道。傲慢。残忍で冷酷。
ユーグラムを知る全ての民は、彼のことを恐れていた。
気に食わない者は処刑。
気に食わない店は潰す。
気に食わない物は壊す。
まさにやりたい放題だった。
そんな彼が最後に目を付けたのが——隣国のアルドノア王国。
もう一人の神の御子が存在する国だ。
その国を手中に収め、世界でたった一人の特別になろうとした。
しかし、この物語の主人公はユーグラムではない。
心優しきアイリスという女性だった。
彼女はユーグラムとは対照的に優しく、自らの生まれ持った才能を人々のために使いたいと言った。
そんな二人がぶつかるのは当然のこと。
アイリスは断固として帝国の侵攻を許さず、勇猛果敢に最前線で戦った。
その末に、仲間たちと力を合わせてユーグラムを討ち取る。
それが物語の本筋。
定められた絶対の未来だった。
▼△▼
「……まさか、俺がユーグラムに転生するとはな……」
自室でひとり愚痴る。
窓の外から差し込む月光が、わずかに俺の姿を照らした。
反射した鏡に映っているのは、まごうことなき自分の顔。
——ユーグラム・アルベイン・クシャナの顔だった。
「納得できねぇ……できるわけがねぇ」
俺はこの世界に転生した。
前世の記憶はほとんど覚えていない。
唯一、鮮明に残っている記憶は、この世界の元になった小説の内容と、悪役にしてラスボスのユーグラムが持っていた記憶だけ。
それによると、このままシナリオ通りに動けば——俺は確実に殺される。
アイリスとその仲間たちに殺される。
ユーグラムは至上最低最悪の皇帝だ。正確にはまだ皇帝ではないが、いずれそうなる。
他者を道具のように扱い、掃いて捨てるほど利用した。
——そんな男を助ける者はいない。
孤立し、孤独の中で、それでも戦いをやめなかった。
そして殺される。
それがユーグラムの最期だ。
しかし……。
「無理だよな。普通に考えて、そんな未来を受け入れるなんてこと」
俺自身、この世界——小説の内容は割と好きだった。
クソ野郎のユーグラムが最後にはざまぁされてめっちゃスッキリした。
けど、そのざまぁされる側になるなんて聞いてない。
せっかくロマン溢れるファンタジー世界にいるってのに、最初からバッドエンドが確定したキャラとか終わってる。どうしよう……。
「なんとか戦争を回避して内政に専念するか? いや無理だろ。すでに帝国上層部はかなり腐敗してるし、国内も戦争準備を始めてる。そもそも両親からして悪役っぽい感じだしなぁ……」
現在ユーグラムの年齢は15歳。
原作だと、皇帝に即位するのが早くても10年後くらいだから十分に猶予はあるが、王国との戦争が始まるのはそう遠い未来じゃない。下手すると2、3年で始まる。
戦争が始まれば、もうユーグラムはバッドエンドまで転げ落ちるだけだ。
たとえ俺が全力で王国軍を完封して勝利を収めても、腐った帝国が覇権を握ったらかなりまずい。
いずれ帝国そのものが火種になって暗殺とかされそう。
「そうなると……やはりここは逃げの一手だな」
最後に閃いた答えは——亡命。
帝国最強戦力である俺がいなくなれば、単騎でアイリスを抑えられる者がいなくなる。
そうでなくとも、帝国はアイリスたち王国軍に負ける運命にある。
だったら俺は、最初から王国側に亡命して情報などを売ればいい。普通の生活くらいはできるだろう。
ナイスアイデアッ!
倫理観? 良心? そんなものは転生した直後の俺わかんなぁい。
いろいろ含めて全部帝国に置いていくことにした。
早速準備を始める。
▼△▼
武器よし。食料よし。飲み物よし。服よし。変装用の仮面よーし!
ささっと亡命用の荷物をまとめる。
俺ってば世界で二人しかいない神の御子だからね。その証である金色の瞳を隠すために、仮面は必須アイテムだ。
かちゃりと仮面を付けて窓を開ける。
転生した直後で愛着などまったくないが、これから待ち受ける自分の不安定な未来を想像すると、少しだけ怖くなった。
しかし、覚悟を決める。
「俺は生き残ってみせる。どんな手を使ってでも——」
バッと窓の外に飛び降りる。
地面に着地してすぐ走り出し、王宮を出て街中へ。
静まり返った夜の帝国の風景を記憶に刻みながら、闇にまぎれて正門を越える。
そこから先は、王都まで大自然が広がっている。
外には異世界らしくモンスターがいる。
それでも俺は迷わずに駆けた。もう二度と後ろは振り返らない……。
———————————
【あとがき】
2025年1月24日
ダッシュエックス文庫様より書籍2巻発売!
書籍版はWeb版と大きく内容が異なります。
どちらを読んでも楽しめるように書きました。よかったら読者の皆様、購入していただけると嬉しいです!
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