第12話 地獄の意味と真実

 ヤングケアラーというらしい。

 僕は母の言う通りにして、高校一年の夏から学校に行けていない。琴乃がおじさんと言うのは、きっと僕の表情が疲れきっていたからだと思う。


 父方の従姉妹の塾の送り迎えもその絶望的な状況から少しでも離す為の配慮だ。 


 日中は家にいたくなく、父から毎月送金されるお金の一部を使って喫茶店きっさてんに行き、図書館やスーパーで時間を潰す。


 僕はこの備忘録をネット上で大事に保管をして、ここからは事後報告を書くとする。

 

 地獄を敵性感知能力者という妄想から逃れることが出来なくなったので、能力者いや父が探してきた精神科の先生に隣町まで会いに行こうと思う。


「なんで調子を合わせたんですか?」


「それが最良さいりょうの判断だと思っていたからだ」


「まさか手の上で転がせて」


「そんなつもりは無かったよ。君という人間性やこの妄想もうそうの理由を知るに結局は成功したからね」


 面白くない。結局、僕が大損こいただけだよこれ。


「どう責任持つんですか? 僕は地獄に気づいた。先生は理由まで解いた。で、明日から僕はどうやって世界を見ればいいのですか?」


「君が思うように見ることが一番だよ。お父さんが不倫ふりん相手と君を一緒に住まわせる調整をしているらしい」


「すごいクソですね」


「すごいクソだと言ったら、あの男が」


 分かった。弘が一人で暮らし学校に行くことが出来るように取り計らう。


「信じられない程、父って善人ですね」


 馬鹿だけどっと、先生と二人で笑った。


「いいかい、君が考えるんだよ。誰かじゃない君だ。待たせているから、そんなに長くは考えられないかもしれない」


 あの扉の向こうに父がいる。


「行っておいで、待ってるよ。来月も会える事を」


「あと一つ、バスやスーパーで感じる敵性って一体」


「人混みが嫌いだったり、何か別の疾患しっかんがあるもしれないが、ゆっくり治していこう」


「ありがとうございました」


 そう言って僕は扉を開けた。

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