第10話 食品売り場

 僕はこの街にいる前は大都会にいた。食品売り場のレジは静かでテキパキ丁寧に、子ども連れの女性には子どもに飴をあげるサービスをやっている店員もいた。


 いわゆるある程度の何でもが許された。


 この街の食品売り場の店員は朝昼夕夜で迫られる対応が違う。

 朝は起きたての老人が多いしかも短気だ。ちゃんと起きてから出てこい。

 昼は割と余裕があるので、待たせなければまだマシ。

 夕は待たすのは当然、しかしイライラする大人が多く、その敵性が子どもに伝わり、子どもが敵性に変わり泣くというわけだ。


 夜に行くと、そもそも野菜が無い。それでついスーパーに対して敵性が出てしまう。慌てて敵性を収めるが隣町の能力者くらいしか敵性感知能力者を知らないので、問題ないと思っていた十一月。


 夜にこちらを見る子どもがいる。


「お前、今。敵性を覚えているな?」


 ゾッとした。おい子ども何を冗談言っている。親、ちゃんと見ておけ、どうしている。


「親なら今、レジに並んでおる。お前、敵性が分かるのか」


「何が望みだ。悪いがこの街は俺の街だ」


「一つの街には二人も敵性感知能力者は必要ない。でももし、その能力者がお互い感知していないだけで、本当は敵性を出さずに暮らしているとしたら?」


 馬鹿な、今までまったく気づかなかった。そんなことがあり得るのか?


「お前は出し過ぎたのだよ。この街を出よとは言わぬが、もう少し能力の出し方は考えることだ。それでお前はなぜこの能力を発現した」


「はーい、みーちゃん。帰るよ」

 そのみーちゃんから目を逸らした。なぜ能力を発現したかって?


 当然の事だ。

 誰かの日常を僕は守りたいのだ。


 僕が笑えなくても他の誰かが笑えばいい。子ども同士のじゃれあいも、学生同士のひそひそ話も、新聞の取り合いも、僕が守りたいのだ。


 何であの子どもはそれすらも分からない。とても大切で大きな事なのに。

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