第9話 平和

 住宅地の広場は僕だけの物になった。

 一月経って、琴乃の家から引っ越し業者が出てきた。


 何度も児童相談所の職員が出入りし、調査をした結果だと思うことにした。逆恨さかうらみも覚悟したが、何かあるということも無かった。


 琴乃は最後まで僕を売らなかったのだろう。


 敵性感知。今日からまた再開か。


 この街の平和の為に敵性を感知し、琴乃みたいな被害者が出ないように活動を始めるか。


 ほうきも必要ないな。広場には誰もいない。もう寒くなってしまった。半袖半ズボンだと職質をされてしまう敵性感知能力者としては下手に与えられる公権力こうけんりょくからの搾取さくしゅは少し厄介やっかいだ。


 さて、今日は隣町に潜伏せんぷくするらしい敵性感知能力者に会いに行こうか。普通の神経なら、敵に会いに行くことはないのだが、どうやらそう話すのが困難な相手ではない事を僕は知っている。


 この携帯は僕が敵性感知能力に目覚めてからそういう情報をもたらせてくれる。メモ帳には隣町の能力者の情報が入っている。


「それにしても君は何でこんなちっぽけな所に住んでいるんだい?」

 隣町の能力者からは敵性を感じることは無かった。高い建物の一番下の階。


「君が心配することでは無いはずだ。それで今日はどの様な取引だ? いや、それよりもなぜ初対面の私に何を頼むつもりだ?」


「能力で伝わっているなら、話をする必要は無いはずだ」


「口を使うのも能力を使う時にはごまかしになる。両方使える方がなおいい」


 確かにそうだ。


「頼みがある」


「三十分五千円」


「足元見やがって」


「知らない能力者と話すんだ。それくらいの量は貰っていいだろう」


 僕は琴乃の写真を見せた。

「この子が平和に暮らしているか調べて欲しい」


「私にストーカーをしろと?」


「まさか調べることが出来ないと?」


「重要なのはそれを君が僕にさせようとしているということだ」


「確かにそうだな。今日は諦めるよ」


「君はよく話せるのだな」


「特別だ」


「五千円、帰りに」


 バスで帰った。歩いてもいいのだが、歩くには僕のよそおいは不足過ぎた。


 財布の中はあと千円。

 冬のバスは敵性感知が無さそうに思えるだろうが、人が密集して、暑苦しいと思う者がいれば、敵性を知る機会が多い。


 僕は敵性感知が多すぎて、バスを途中で降りた。

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