第8話 公園

 今頃、友達と外で野球。

 なんて事は考えないだろう。野球の練習を終えた少年たちでさえ、誰かの家でゲームしようぜと言って、さっさと帰ってしまう。


 公園は僕の領地だ。誰にも侵せやしない。大きな公園ではない、住宅地の中にある広場だ。最近はそこの広めの滑り台の砂をわざわざ払って寝ている事が多い。


「おじさんって不審者?」


 敵性を感知出来なかったので、少し驚いた。小さな声で違うと言う高校生くらいの女は隣に寝そべった。


不審者ふしんしゃと一緒に寝ちゃったー」


 無視をするとカラカラ笑った。

「もうそんな反応しなくてもいいじゃん」

「あたしは桜井琴乃さくらいことの、おじさんは?」


 おじさんでは無いときちんと抗議をして、僕の名前を告げた。

「普通の名前だね。今日から一緒に遊ぼうよ、普通の意味だよ。変な事考えたでしょ」


 僕はいつもの習慣通り、その公園に通った。ほうきで砂を払い、琴乃を待った。


「よ、おじさん」

「嫌そうな顔をしてさ、名前呼ぶともっと嫌がるじゃん。目を背けてさ」


 僕が目をそむけるのはけして名前を呼ばれたからでは無いという説明をしても琴乃は聞かないだろう。


「おじさん、パピコ半分こしよ!」

「おじさんさ、毎日一人だったの?」

「おじさんさ、わざわざほうきまで用意するってさ」


 敵性感知能力を使うばかりで緊張していた毎日に僕は疲れていた。このまま、僕は琴乃と一緒に話して琴乃曰く《いわく》不気味ぶきみな笑い方をして過ごす。


 でもこの敵性はごまかせなかった。手のこうに貼られた湿布しっぷ、冬でも無いのにスカートに長袖のシャツ。それがここ数日でスカートから長袖のジャージに変わった。


 もし生活環境の変わった琴乃に非難されても、恨まれても、敵性を向けられても、僕は良かった。


 家の位置は琴乃を見送る時に知っていた。僕は児童相談所に通報した。

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