第43話
彼女の名はデュラン・ダルと言った。
双剣の暗殺者、スバールバル・グランデの所有物だった。
──氷剣デュランダル。噂には聞いたことがあったが、まさか実在するとは。
オレは男を
彼女に魅了されていた。どんなに
主君である男がオレに命じたのは、──暗殺だった。
標的は聖剣エクスカリバーの所有者である黒眼の男。
盗んだ金を使い込んでしまったオレには断れる理由がなかった。そして僅かな期待を抱く。任務を無事に成し遂げることが出来れば、このまま彼女と一緒にいられるかもしれない。あわよくば半永久的にこの関係を続けられるかもしれない。彼女と愛し合えるのであれば、男に
武術とは縁のない生活を過ごしてきたが、伊達に盗人などという物騒な稼業に身を置いてきた訳ではない。オレは用意周到な人間だった。すべては綿密な計画から始まる。
オレはターゲットを徹底的に調べあげた。
黒眼の男は「黒猫と美女」Sランク冒険者。パーティーメンバーは他三名。まず蒼白眼の金髪女。こいつが聖剣エクスカリバーだろう。
そして、瑠璃色の髪をした男。用心棒とのことだが、かなり厄介な人物だった。戦斧神セイライ、雷神斧の使い手として名を馳せる。もう一人がセイライの武器、ラブリュス。巨漢のどブスだ。
一編に彼らと対峙することは賢明ではない。一人になった時を狙う。そこでオレは彼らの生活習慣を探った。
彼らは交易都市の一軒家で暮らしている。日中はギルドに出掛けて家を空ける。夕方頃に帰宅するが、四人が離れ離れになることはない。単独行動の望みは薄い。
最も効果的なのは寝込みを襲うことだ。
家屋に潜入して寝静まるのを待つ。
オレは彼らの住まいに忍び込んで間取りを確認した。セイライとラブリュスは二階の一室を寝床にしている。黒眼の男と金髪女は一階だ。両者とも毎晩仲良くちちくりあっている。
身を潜める場所は一階の寝室にあるクローゼットが最適だった。情事に耽っている最中を狙えば不意をつける。多少の物音がしてもどブスの喘ぎ声が掻き消してくれるはずだ。ヤツの声はけたたましい。騒音としての役割を充分に果たす。二階の二人に気づかれる前に事を済まして、窓から脱出する。
──完璧な計画だ。
オレは練り込んだ算段を幾度となくシュミレーションして、彼らの家に潜伏した。
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