第25話
──人嫌いのセイライさんが俺たちの用心棒を引き受けた理由。
それは「黒猫と美女」が持つ、パーティーランクSのライセンスだった。
この国にはギルドが発行するSライセンスを保持していないと立ち入れない領域が存在する。Sランクモンスター生息地。
俺はエクスのおかげでSランクライセンスを所有してはいたが、通常、誰もが容易く手に入れられる代物ではない。
セイライさんに至っては、そもそもギルドに属していないためライセンスすら保持していない。
セイライさんの目的は、Sランクモンスター、クリスタルドラゴンの希少種、ダイヤモンドドラゴンSSSランクの討伐だった。
クリスタルドラゴンは岩をも砕く強硬な牙を持ち、岩石を主食とする魔獣。
その生態は、体内で岩石を消化した際に分泌される成分が、汗となり付着し、水晶となって表面を覆うとされている。なかでもより強く特殊な体液を持つ種は、世界で最も硬い強度を誇る
水晶は武器、宝飾品の素材として高額で取引されるため一攫千金を狙うドラゴンスレイヤーたちがあとを絶たない。人はそれをクリスタルドリームと呼んだ。
全身に水晶を纏ったクリスタルドラゴンの討伐報酬は5億ドルエンをくだらない。一人の人間が一生をかけて稼げる金額が1億ドルエンと言われる世界。一生遊んで暮らせる大金が手に入る。
ちなみにエクスが購入してくれた我が家は田舎の土地付き中古物件で4,000万ドルエン。金剛石を纏ったダイヤモンドドラゴンともなれば、報酬金はゆうに100億ドルエンを超えるだろう。
おいおいマジか?
そんな大金いらないんだけど……。
俺はハーレム願望はあるが、根は貧乏性で慎ましい性格だ。大金を手にしたところで使い道が分からない。1億ドルエンも100億ドルエンも変わらない。高額報酬の討伐クエストをこなしてきた今、それなりに小銭も持っている。それで充分だ。わざわざ危険を犯してまで、大金を稼ぐ必要はない。
セイライさんは一体なにを企んでいるんだ? そんな大金、事業でも起こす気か? 見かけによらず、とんだ野心家じゃねーか!
とは言っても、セイライさんとの契約内容は、討伐クエストの懸賞金を一対二で分けるというものだった。それが一年間の用心棒としての報酬金。
双剣の暗殺者から身を守るためにセイライさんは必要だ。むやみに要望を断るわけにもいかない。
──それがセイライさんの目論みだった。
クリスタルドラゴンの生息地は、東の峡谷ドラゴンキャニオン。
──長旅になりそうだな……。
俺は重たいため息をついてその有無をカリバーに伝えた。
「かしこまりましたっ! 修学旅行ですねっ! カリバー楽しみですっ!」
「……修学旅行?」
出かけることをエクスは遠足と言っていたが、カリバーは修学旅行と呼ぶのか?
まあ、なんでも良い。こいつらに常識は通用しない。
俺は前世でタイに家族旅行に行った時のことを思い出した。現地の人はゴールデンウィークや夏休み、正月休みなど、日本の長期休暇のことを一貫して「お盆」と呼んでいた。エクスもカリバーもそれと同じ。なんとなくで、なんとかなる。国が違えば文化も価値観も違う。大切なのは心だ。彼女らの笑顔がそう語っていた。
……長旅となればラブリュスさんにも会えるかな──。
そんな期待を抱きながら、俺はエクスを持ち運べるように布で巻き、旅支度を始めていた。
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