第20話

          

「ご主人様ぁ〜〜! 会いたかったぁ〜〜! 私の名前は聖剣エクスカリバーのカリバー! よろしくねぇ〜〜!」


 はいっ? はいはい⁇

 鞘を手にした途端、──が現れた。


 エクスと瓜二つの容姿。銀色の髪と胸当てこそが、金色ではあるものの、その容姿は幾分にも違いがない。


「三百年も待ったんですからねっ! これからはずぅ〜〜と一緒ですっ!」


 そう言って金髪美女はたわわな胸を俺に押し当て、チュッチュッと唇を重ねてくるのであった。


 待て待て待て待て! なんだこの展開⁉

 エクスと出会った時とまるで同じ展開。

 鞘は鞘で別人格が宿るのかよっ!

 ひょっとして、エクスとカリバーは双子? 


 そーいえば聖剣の柄には金と銀。二匹の蛇の装飾が施されていた。エクスとカリバーは色こそ違えど、蛇の紋様が刻まれた胸当てをしている。


「カ、カリバー、エクスを知っているか?」

 俺は思わずカリバーを押し退けた。

「はいっ! 知っていますっ!」

 エクスにも負けない笑顔が返ってくる。

 か、かわぇーー! ど、どストライク!

 エクスと同じ顔なんだからあたりまえだ。


「……お、お前たちは双子なのか?」

「違いますっ! エクスとカリバーですっ!」

「いやだから、それは双子ってことなのか?」

「……双子? エクスとカリバー、二人で聖剣エクスカリバーですっ!」


 ──なんだその漫才師みたいな自己紹介はっ⁉


 一瞬、首を傾げ考え込んだカリバーだったが、再びにこやかな笑みで抱きついてくる。

 か、かわえぇー。かわいすぎるっ!

 ──が、会話が成り立たない。武器に双子の概念はないのか……。


「まっ、いいや。それよりカリバー、これを見てくれ!」


 俺は壊れたエクスを、癒しの力を持つと言われるカリバーに見せた。


「お前はこれを治せるのか?」

「はいっ! 治せますっ!」

 期待通りの声が返ってきた。その言葉に安堵した俺は、拳を力強く握りしめた。

 よし、よしよしよぉーーしっ‼

 ついにやったのだ。エクスカリバーを治せる。これで、エクスに会える。

 俺は今までの苦難をさらい、目頭が熱くなった。カリバーの両肩をガシリとつかみ、何度も頷きながらカリバーの眼を見つめた。


「カリバー! 早速だがエクスを治してくれ!」 

 すると、カリバーは屈託のない表情で、

「いやですっ!」

 はっ⁉ ……今、なんとおっしゃいました?


 俺は耳の中を指でかっぽじってから、もう一度カリバーに尋ねた。


「カリバー! エクスを治してくれ!」

「いやですっ!」


 ──とびっきりの笑顔で全否定された。


 えっ! どーいうことっ⁇

 カリバーは無慈悲なほどに、それでいて晴れ晴れしい笑顔で、けろりと修復を拒否したのである。俺の目がひたすらに泳いだ。


「だって、ご主人様と二人っきりの時間を過ごしたいじゃないですかっ!」


 とろんとした上目遣いで、肌をスリスリとなすりつけて来るのであった。


 いやいやいやいや!

 そうは言ってもエクスをこのままにしておく訳にはいかないだろっ!


「だって、エクスだけずるいじゃないですかっ? ずっとご主人様を独り占めにしてたんですからっ!」


 ……はいっ?

「私もエクスがご主人様と過ごした時間だけ独り占めさせてもらいますからねっ! 修復はそれからでも遅くありませんっ!」


 えっ? え、えぇぇーーーー‼

 柔らかな胸が押し当てられる。

 その弾力が俺の肘を幾度となく跳ね返した。ぷよんぷよん、ぷるんぷるん。カリバーの唇は小刻みに、はむはむと震え、頬は薄紅色に染まっていた。


 情念、愛憎。その言葉をはらんだサクラの花びらが、二人の頭上にひらひら舞い落ちる。

 

 ──春は新しい出会い、恋の季節。


 思いもよらない展開に、俺の声が裏返る。

 ひっ、ひっ……、、、

 ひぇえええええーーーーーー‼

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