第21話

 王都に戻った俺はサモアさんを訪ねていた。

 王国騎士団第二師団の副団長でクレイさんの所有者。以前、餞別を頂いたお礼がまだできていなかったからだ。


 しばらく遠征に出ているとのことで、一週間ほどその帰りを待った。

 サモアさんが戻りバロウさんたちとも合流して、俺たちはバロウさん行きつけの店で果実酒を酌み交わした。


「お二人には大変お世話になりました。今日は奢らせて頂きますので遠慮なく召し上がって下さい」


「ガハハハ、勇者のあんちゃんも立派になったもんだ! それじゃあ、遠慮なく飲ませてもらうぞ!」


 サモアさんは豪快に笑い、これまた豪快にひと息で果実酒を飲み干した。


「今日はクレイさんはおみえにならないんですか?」

「あー、あいつはこういう所が苦手でなっ!」

「……そうですか。クレイさんにもお礼を伝えたかったのですが……」


 俺が視線を落とすとテーブルから顔一つ分、出るか出ないかのフェイルが「あれは嫌い」だとか、「これは好き」だとか、並べられた料理にいちゃもんをつけていた。

 それをバロウさんが父親のような優しい表情で聞き入れ、料理を小皿に取り分ける。


 ワガママなガキだと思いつつも、今回の旅で成果を上げられたのはフェイルの活躍があったからだ。俺は微笑ましくその姿を見守った。


 カリバーは隣りにくっついて、はちきれんばかりの胸を押し付けている。

 しかし、名のある武器の生態がイマイチよく分からない。性欲もあれば食欲もある。無論、排尿も排便もする。人間と変わらない。こいつらは精霊の類いではないのか?


 俺はエクスに罪悪感を感じながらもカリバーとの共同生活を送っていた。

 この国は一夫多妻制が認められている。が、どうにもこうにもエクスのいない間にことが進むのが気掛かりだった。かと言って、カリバーの機嫌を損ねさせる訳にもいかない。

 カリバーの性格は、エクスより少しだけ気が強い。意固地で強引なところがある。ただ、夜の方は真逆で、エクスがS気質なのに対してカリバーはM気質だった。従順で何でも受け入れてくれる。あんなことも、こんなことも。

 責めのエクスに受け身のカリバー。これは剣と鞘の役割りに由来するものなのだろうか? まあ、どちらも好きだから構わないのだけど……。

 

「……そうか、勇者のあんちゃんも大変だったんだな! ガハハハ!」

 俺が今までのいきさつを話し終えると、サモアさんが大きな笑い声で締め括った。

「しかし、勇者のあんちゃんは、こーいうねーちゃんがタイプなんだな?」

 サモアさんがカリバーを舐めまわすように見つめた。


「……タイプですかっ?」

「銀髪ねーちゃんといい、この金髪ねーちゃんといい全く同じじゃねーかっ!」

「……はいっ? それは双子みたいなもんで……」

 サモアさんの言葉の意味が理解できなかった。


「あのな、名のある武器ってのは、所有者の好みの女性となって現れるんだよっ! 俺はスタイルの良い小顔のねーちゃんがタイプ。だからクレイは俺の理想そのもの。しかも性格はドM。これも俺の性癖だ。凛とした女性のアヘ顔なんて、たまんねーだろっ! ガハハハ!」



 名のある武器は、所有者の好みの女性となって現れる?


 たしかに、エクスもカリバーも俺の理想の女性そのものだった。銀髪、金髪どちらも好きだ。ちょいS、ちょいM、どちらも好きだ。甲乙つけ難く平等に好きだ。もろに俺の性癖。しかも俺にはハーレム願望もある。


 しかし、なぜか釈然としない。なにかが引っ掛かる。なんだこのモヤモヤは?


「先生、フェイルこれ嫌いっ!」

 突如として、目の前の幼女の声が、脳天をかち割った。バロウさんがバツの悪そうな顔をして髪の毛を掻きむしっていた。


 ……


 ──だとすると、こ、こいつ⁉ 


 とんでもない、──超ロリコンじゃねーかっ!


 俺の懐疑的な視線に、バロウさんは果実酒を一気に飲み干し、へへへへと、締まりのない笑みをみせた。


「もう先生ったら、あまり飲み過ぎないでくださいね! いつもみたいに、ふにゃふにゃだとフェイル満足できませんからっ!」

 


 ──はあっ⁉ はあああっ⁇

 はああああああああっーーーーーー‼

 


 俺の目に狂いはなかった。

 ……バロウ、てめぇ、やっぱりダメ男じゃねーか!

 

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