第13話
カチャカチャ、「うんしょ、うんしょ」
カチャカチャ、「うんしょ、うんしょ」
ティーカップが受皿の上で揺れる危なっかしい音に合いの手を入れて、幼女がお茶を運んできた。
本は山積みにして運ぶくせに、お茶は一杯ずつ運ぶ慎重さ。そのギャップに思わず笑ってしまう。
「先生、お茶が入りましたっ!」
幼女は目的を達成し、バロウさんの目をワクワクとした表情で覗き込んだ。
「ありがとう、フェイル」
フェイルと呼ばれる幼女はバロウさんの礼を受けて、満足気な笑みをみせた。「はいっ! フェイルはおりこうさんなのですっ!」素直に喜ぶ天使のような笑顔に癒される。そんな幼女を微笑ましく眺めていると、
「……アンタは自分で持ってきてっ!」
冷たい言葉を浴びせられた。俺へのあたりは異常に厳しかった。
「これこれフェイル、勇者さんにもお茶を運んで差し上げなさい!」
バロウさんの声に幼女のジト目が再び向けられ、しばらくの間ををおいて、
「貴殿は、くそまみれ
上品な口調を装った、なんとも品位のない皮肉がぶち撒けられた。
ぶっ⁉ なんだこいつは?
俺の絶句にバロウさんが苦笑して、幼女を一瞥してから「すいませんね、勇者さん」と謝った。
ぷいっと
な、なんなんだ? この
俺の困惑を遮りバロウさんが口を開いた。
「……で、勇者さんの話から推測すると男の名は、スバールバル・グランデ。双剣の暗殺者。貴族御用達の殺し屋ですね」
バロウさんはそう言って眉根を寄せる。
「……裏で貴族が動いているか……。うーん、実は私も聖剣エクスカリバーについては気になる事がありましてね……」
「気になる事ですか?」
「禁書と呼ばれる白眼文書には、こう記されているのです。聖剣エクスカリバーは、聖なる力を宿した剣と癒しの力を宿した
「癒しの力を宿した鞘⁉」
「はい。おかしな話ですよね。聖剣堂に祀られたエクスカリバーは剣のみでした。鞘などありません。そして、こうも綴られています。鞘は、魔女の湖に封印されたと……」
「王国の文献と枯渇人たちが保管していた文献、白眼文書とでは食い違いがあるのです。それでいて、裏で貴族が動いている。……匂いますね」
──魔女の湖に封印された、聖剣エクスカリバーの鞘。
きっと手がかりはそこにある。俺は話を聞き終えることなく、魔女の湖に行くことを決意していた。
「魔女の湖はどこにあるのですか?」
「王都の北、魔女の森の中央部です。が、魔女によって強力な結界が張られているため迂闊には近寄れません……」
それでも気持ちは揺るがなかった。鍛錬を重ねた剣術には多少の自信がある。今の俺ならば魔女を相手にしても引けを取ることはない。そんな自負があった。
「勇者さんは魔女の湖に向かうつもりですね。……分かりました。この件につきましては私も学者として興味があります。ご同行させてもらってもよろしいでしょうか?」
「先生も物好きですね」
フェイルが横槍を入れて、俺の前にお茶が差し出された。
「本日、貴殿に召し上がって頂くのは、しょうべん
この幼女、さっきから下ネタばかりだな……。
幼女の悪態ぶりを見兼ねたバロウさんが、
「大丈夫です。普通のお茶ですから安心して召し上がって下さい」すぐさま訂正した。
バロウさんに促されてお茶に口を付けた俺は、思わず吹き出す。
──からっ!
「ひゃっ、ひゃひゃひゃっ!」
フェイルが飛び跳ねて喜んでいた。
「お塩を混ぜておいたのです。先程、私を驚かせた罰ですよ! ひひひひひっ!」
「フェイル!」
バロウさんの一喝にフェイルは肩をすぼめてはみせたが、その顔に反省の色は見受けられない。口を尖らせて得意げな表情を浮かべている。
「本当に困った子です。勇者さんごめんなさいね」
バロウさんは顔を曇らせて両手を合わせた。
「いえいえ気にしないで下さい。子供のすることですからっ!」
俺は平常心を装い大人の対応をみせてから、引き
ところが、バロウさんから発せられた次の言葉に眉毛が跳ね上がる。
「フェイル、勇者さんの話を聞いてましたよね? 我々も同行いたします。早速、旅支度を始めなさい!」
「えー、あたしも行くんですかっ⁉」
それはこっちのセリフだ!
お前も行くのかよっ⁉
──そうして、俺とバロウさんとフェイルと名乗る小生意気な幼女との、──不安な旅が始まるのであった。
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