第14話

 仲睦まじく一緒に騎乗するフェイルとバロウさん。

 バロウさんに抱きかかえられながら馬に跨るフェイルは、時折、首を後方に傾けて、手綱をとるバロウさんと楽しげにはしゃいでいる。

 のどかな風景も相まって、二人の姿は幸せそのものにみえた。


 そういえば、二人はどんな関係なのだろうか? 聞きそびれてしまったな……。

 先生と助手? 親子? 歳の離れた兄妹?

 いずれにせよ巻き込んでしまった。

 この先は危険な旅になる。

 勢いで同行を承諾してしまったが、後悔の念に駆られていた。

 人里を抜ければいつ魔物に襲われてもおかしくはない。ましてや魔女の森ともなれば、それ相応の危険が降りかかるだろう。俺一人で二人を守れるのだろうか? 


「……あの、バロウさん。本当にいいんですか? この先は危険な旅になると思います。フェイルのような小さな子を連れて行くのは気が引けるのですが……」


「あたしの心配してないで、アンタは自分の心配をしてなさいっ!」

 俺の不安をよそにバロウさんよりも早くフェイルが答えた。


「勇者さん、危険な旅になるからこそフェイルを連れて行くのですよ」

 バロウさんが馬上から意味深な笑みを浮かべる。


「彼女の名はフェイル・ノート。必中の弓と呼ばれる名弓です」


 えっ⁉ ──フェイルノート?

 えっ、えぇぇっーー!


 意外な返答に思わず手綱を引くと、馬が前脚を上げていなないた。


 つまり、フェイルはエクスと同じ、名のある武器。

 っていうことは、──バロウさんも所有者?


 たしかにバロウさんとフェイルは、同じエメラルドグリーンの眼をしている。合点がいく。

 バロウさんが風属性の魔法を使うことを思い出した。そうか、だから魔力を惜しみなく使っていたのか! フェイルがいれば魔力を消費しなくてすむ。あれは無計画な浪費ではなかった。

 俺はバロウさんのことを大酒飲みで浪費家のダメ男と高を括っていたが、それが間違いだったということに気づかされた。


「わーはっはっはっ! 勇者よ、恐れいったか! あたしの名を知ったからには頭が高いぞっ! 今後は敬意を持って崇め奉られよっ!」


 フェイルが馬の上で短い足をバタバタと動かしながら勝ち誇るようなドヤ顔をみせた。

「あたしに対する数々の無礼、この度は先生の名に免じて見逃してやる。あたしは寛大なのだっ! わーはっはっはっ! ただし二度とあのような無礼は許さぬと心しておけっ!」


 数々の無礼? 

 少し驚かせてしまっただけじゃないか?

 ……こいつは、些細なことを根に持つ粘着質な性格に違いない。なにが寛大だ! 


「宮廷学者なんかをやっているとね、書物や武器などの鑑定もしなければならないのですよ。で、その時に見染められてしまったというか、なんというか……」


 バロウさんは少し困った顔をして、人差し指でこめかみを掻いた。


「あっ! 先生っ! あそこに珍しい小鳥さんがいるっ! かわいいっ!」


 そのくせ、好意のある男性にはかわい子ぶる。

 典型的なカマトトタイプだ。隅に置けない要注意人物。若かりし頃から、数多あまたの女性と肌を合わせたモテる男の嗅覚が危険信号を灯していた。


「珍しい小鳥ですね……。私も初めてみる鳥です」

「えっーー? 先生でも知らないことあるんだぁー!」

「フェイル、世界は広いのですよ。私でも知らないことは沢山あります」

「へぇー、そうなんだっ! あたしももっとお勉強がんばらなきゃ!」


 俺はあからさまなフェイルの手のひら返しに茫然としながらも、楽しげに話す二人の姿をみて、エクスのことを思い出していた。


 名のある武器と所有者。

 ──待ってろよエクス。必ず救ってやるからな!

 

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