第3話
謎が解き明かされたのは、王国騎士団第二師団のガーゴイル討伐に帯同した時のことだった。
エクスはともかく、俺なんかが戦闘に参加しても大丈夫なのかな? と、不安が募る。ちなみに兵士育成所でのステータスは、
体力120
知力115
すばやさ100
攻撃力110
防御力100
魔力145
成人男性の平均値が100、俺のステータスは、ほぼ平均で中の中くらい。150あればA評価なのだが、成績表はオールB。俺は女性にモテる以外はなんの取り柄もない人間なのだ。
強いて言えば、
この世界は魔力が回復しない。
つまり、使い切りなのである。
回復薬、レベルアップ、宿屋で眠る。何をしても回復しないのだ。魔力が0になってしまった人間をこの世界では、──「枯渇人」と呼んだ。
一応、兵士育成所を卒業した俺は馬術や剣術など、ひと通りにはこなせる。しかし実戦は初めてで、しかも相手はガーゴイル。翼の生えた小鬼のような魔物だ。何度か目にしたことはあるが戦闘となると話は別。先行き不安でしかない。
「お馬さんゴー、ゴー、ゴーー‼」
俺の心配など知るよしもないエクスは馬上でご機嫌にはしゃいでいる。
「ねえ、ねえ、ご主人さまぁ〜! 遠足めっちゃ楽しいですねぇー!」
「いや、遠足じゃなくて討伐なんですけど……」
地図に示された討伐ポイントにつくと、怪しげな鳴き声が空から降り注いだ。
ギー、ギー、ギー、ギー、、、
怪奇な鳴き声と羽音が重なり合い、部隊に緊張が走る。瞬く間に空は無数の影によって覆われてしまった。
弓部隊が一斉に矢を放つ。荷馬車に積んであった対空兵器バリスタが設置され、かけ声とともに巨大な矢が射られた。
それを皮切りにおびただしい数のガーゴイルの群れが一斉に襲いくる。空を舞うガーゴイルに対しては攻撃手段が限られる。急降下と上昇を繰り返すガーゴイルたちに、兵士らは剣を握りしめてやきもきしていた。
「ギーギー鳴いてないで降りてこいコノヤロー! ぶっ飛ばしてやるぞぉー!」
威勢よく息巻いているエクスだったが、時折り舞い降りるガーゴイルに対して、
「このこのこのこのこのこのこのっ‼」
と、ダダをこねるみたいに腕を振り回しているだけだった。
「キリがないな……」
「こうなれば、魔法詠唱か……」誰かがため息混じりにつぶやいた。
「待て‼ メタモルフォーゼいくぞ! サモア、準備はいいか!」
クレイさんの声に筋骨隆々とした大男、サモアさんが反応する。
モヒカン頭がトレードマークの副団長だ。
「いつでもオッケーですぜ、団長さん!」
サモアさんに応じて、クレイさんの姿は刃渡りが二メートルにも及ぶ大剣へと変化した。
──大剣クレイモア⁉ 予想通りだった。やはり、クレイさんはエクスと同じ──。
屈強な男でも両手でないと扱えない大型の剣。サモアさんは極太の血管を浮き立たせながら、空を舞うガーゴイル目がけて斬撃を振り上げた。
ヴィシャーー‼
巨大な水の刃が刀身から放たれ、ガーゴイルの群れを断ち切り裂く。
「おりゃ! おりゃ! どおりゃー! どおりゃあーー‼」
サモアさんは力まかせに三日月型の水弾を幾度となく空中にぶっ放した。もはや狙いなどは定めていない様子で、ただひたすらに乱れ撃つ。水属性の刃が対空ミサイルのように容赦なく飛んでいく。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる作戦。空を覆うガーゴイルの大群にはそれくらいでちょうどよい。
「やれーー! いいぞぉーー! そこだぁーー! やったぁ! あたったぁーー! いぇえーーいっ!」
エクスが無邪気にワーワー騒いでいる。
俺はそんなエクスを横目にサモアさんの魔力って一体どうなってるんだと、首を捻った。
「これでおしまいじゃあーー!」
サモアさんがハンマー投げの選手みたいに最後の一振りを大剣ごと放り投げ、ぽんっ、小さな噴煙が
膝を抱え身を丸めたクレイさんが、空中でクルクル回転し、身のこなし軽やかに着地する。
ギー、ギー、──、──、
頭上から届く喧騒が遠のいていく。勝ち目のないことを悟ったガーゴイルの残党は、空の彼方へ消えていった。
「……あの、サモアさん! さっきの斬撃はウォーターカッターだと思うんですが、あんなに使用しても
俺は思わず、サモアさんに駆け寄っていた。
「なんだい、勇者のあんちゃん知らねーのか? 名のある武器は
名のある武器は
名のある武器?
エクスがにっこりと、満面の笑みを浮かべていた。
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