246. 苦悩するクラスメイト 1
俺こと沢渡京谷は今、同じクラスの女子に全力で頭を下げていた。
「あの時は悪かった。俺、本当に馬鹿で、何も考えずに言った言葉であんな事になるなんて思ってなくて……。だから、本当にごめん!」
それは、俺の軽はずみな言葉で傷つけてしまったクラスメイト、奈津が復学した日のことだった。
奈津の家に謝罪しに行くことも叶わず、ゲームの中でのファーストコンタクトにも失敗してしまった俺は、奈津が復学したその日に直接謝る事にしたのだ。
奈津は最初驚いた様な顔をしたけれど、その後「うん、もう私は大丈夫だから。ありがとう」と微笑みながら言ってくれて、ずっと苦しかった胸のつかえを解消する事が出来た。
「えっと……それでな。あれから学校来れて無かっただろ? もし勉強とか大変だったら俺……その、手伝うけど……」
ヤバい。俺今めっちゃどもっててダサい。本当ならもっとスマートにサラっと言えたはずなのに。
この時の為に何度も1人で練習した勉強への誘い文句。そのシミュレーションと現実のあまりの違いに、倒れ伏しそうになってしまう……が。
「え、良いの? そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫だよ、って言いたいところなんだけど。一応家で自習はしてたんだけど、最近ちょっと色々あって勉強があんまり出来てなかったんだよね。だからそう言って貰えると凄くありがたいんだけど……本当に大丈夫? 迷惑じゃないかな?」
「大丈夫! 全然迷惑じゃないから! 奈津が勉強に遅れた原因は俺なんだし、責任を取るのは当然の事だ!」
「責任って、そんな大げさに考えなくても大丈夫だよ」
そう言って笑う奈津に俺のテンションはどんどん上がっていき、奈津に勉強を教える為にと勉強付けの毎日を送っていたのは間違いではなかったと、今日まで頑張ってきた自分自身に賛辞を贈る。
それからは毎日放課後に図書室で一緒に勉強する事になった。休学中も自宅で自習していたのは本当だったようで、基本的にはそんなに遅れているということも無かった。
ただ、どうも奈津はそそっかしい所があるようで、数学では計算式の途中でミスをしていたり、その他の教科でも問題文を勘違いして読み間違えていたりと小さなポカが多く、知らなかった奈津の一面を見ることが出来た。
そんな感じで俺的に充実した日々を送っていたのだが、実を言うと奈津の方はあまり良い状況とは言えない。というのも、露骨にではないがクラスメイト達が少し奈津に対してよそよそしくなっているのだ。
その理由は、担任教師がわざとらしくやたらと気遣っている風を装って奈津に話しかけているので、奈津に悪い印象を持たれると面倒なことになりそうと思われているのが1つ。
もう1つは、奈津が休学中、担任教師が俺に全責任を押し付けて晒しものにした事によって、復学後もクラスメイト達が奈津に関わる事を恐れているのだ。……また何かあれば、俺と同じような目に遭うと。
けれど俺には関係ない。俺もその件で既にクラスでは浮いた存在になっているし、担任教師にチクチクと嫌味を言われるのも今更だ。
奈津にとっては順風満帆とは言えないが、特に大きな問題が起きるという事もなく学校生活は過ぎて行った。
そしてそんな学校生活に変化が生まれたのは、3年生に進級して少し経ったぐらいの時だった。
◆
「あの、柊さん! この雑誌の広告に載ってるのって柊さんだよね!」
――え? ……雑誌の広告に奈津が?
進級しても奈津と同じクラスだった事に安堵と喜びを味わっている最中、そんな油断した俺に特大の爆弾が投下された。
「えっと……うん」
「やっぱり! 柊さん、いつから芸能人になってたの! 芸能人の種類とかってうちよく分かってないんだけど、これって読者モデルとかそれ系のやつ?」
「いや、一応プログレス・オンラインってゲームの公式アンバサダーって形で活動してる。でも、正直私も芸能人の区分けとかよく分かってなくて……」
「公式アンバサダー! カッコイイね! ……それで、アンバサダーって何だっけ?」
このミーハーのアホは放っておくとして、奈津が仕事で雑誌に載っているのは間違いないようだ。
――その雑誌、後で俺も買わないと。……じゃなくて! え、それってこの先どうなるんだ?
あわよくば同じ高校への進学を狙っていた俺は、もしかしたら奈津が俺の手の届かない遠くへ行ってしまうのではないかと不安に押しつぶされそうになった。
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始まりました空白の2年間の間にあったクラスメイト視点のエピソード。
こちらは3話構成で毎日投稿をしていく予定です♪
それとお知らせです。
本日より始まりましたカクヨムコンテスト10に、本作のスピンオフ作品である【妹が悪の幼女幹部になった件】を参加させて頂きました!
こちらは本編の二つ名持ち一覧に出てきました【悪の幼女幹部 チア】と、その兄をメインとしたスピンオフ作品となっており、本編にも登場したあのキャラやこのキャラも絡んでくる作品となっております。
こちらも自信の一作となっておりますので、何卒応援の程宜しくお願い致します!
それと、短編賞の方には、前回も参加させて頂いた【恋を実らせる要素は『戦略』と『力業』とひとつまみの『奥ゆかしさ』】の他に、新作短編作品として【かぐや姫、スペック高すぎて婚活苦戦中!?】も公開&コンテスト参加させて頂きました。
どちらも1万文字程度の短くさくっと読める作品となっておりますので、是非読んで頂けたら嬉しいです♪
コンテスト参加作品一覧:
【かぐや姫、スペック高すぎて婚活苦戦中!?】
https://kakuyomu.jp/works/16818093089466964546
【恋を実らせる要素は『戦略』と『力業』とひとつまみの『奥ゆかしさ』】
https://kakuyomu.jp/works/16817330667732769488
【妹が悪の幼女幹部になった件】
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