244. ロコさんとミシャさんの来訪 2

 皆でテーブルに着き説明会が開始されると、最初にミシャさん……じゃなくて、美亜さん……もういいや、ミシャさんから3つのプラン資料を手渡された。

 プラン資料はそれぞれ【学業優先】【両立】【仕事優先】となっており、それぞれのメリットデメリットや事務所側からの私の推し方について詳細にまとめられていた。


「奈津さんの場合、既にプログレス・オンラインの運営会社の方からいくつか仕事のオファーを頂いており、あちらとしては今後も長期的に自社ゲームの広告塔として奈津さんを起用して行きたいと考えているようです。それだけでも新人タレントとしては破格のスタートとなるのですが、こちらと致しましては奈津さんやお父様とお母様の意志次第で更に奈津さんを飛躍させるべく、マネージメントしていくプランもご用意しております」


 出会いがしらのハイテンションとは打って変わって、ミシャさんは出来るマネージャーの様な雰囲気を醸し出しながら両親にそれぞれのプランを紹介している。

 超人気芸能人の突然の来訪というハプニングによって浮足立っていた両親も、ミシャさんの真面目な雰囲気に当てられて落ち着きを取り戻していた。


「娘の事でこれだけ親身に考えて頂けていると知れただけでもとても安心しました。ただ、そこまで強く推して行くとなると……こう、親としては少し気がかりもありまして……」

「……あぁ、例えば『特殊な営業』とかでしょうか?」

「えぇ、まぁ、そうですね。勿論、私は芸能界について本当の所を全く知らないので、ただのゴシップ染みた勘ぐりかもとは思うのですが、やはり親としては気になる所でして」


 お父さんが気まずそうにもごもごと喋っている。一体何の話なんだろうか? 特殊な営業?


「そういう特殊な営業はただの噂で実際にはとても綺麗な業界ですよ……とは言いません。実際にそういう一面があるのも事実です」

「やはり、そうなのですか」

「えぇ、確かにそういう営業は実際に存在します。ですが、それは無差別に横行している訳ではありません。そういう物にはお互いトラブルにならないように暗黙のルールが存在しますし、事務所によってそういう誘いが来る来ないも決まってきます。そして内の事務所に所属しているタレントには基本声は掛かりませんし、タレント自身にも乗らないようにと言及しています。」


 「少なくとも奈津さんの場合は、年齢的に数年は無関係の話ですね」とミシャさんは言い切った。

 そこまで聞いた時、やっと私はお父さんとミシャさんが何の話をしているのかに気付いた。そして先ほどまでのやり取りにやっと頭が追い付き、その内容に自然と口の端が引きつってしまう。


「大丈夫だよ、ナツちゃん。うちの事務所は本当にタレントを守る事で有名だから安心して♪ それにナツちゃんに何かあれば、怖~い弁護士さんが出張ってくるからね」

「えぇ、この度私はこちらの芸能事務所と顧問契約を結びましたので、所属タレントのトラブルに関しましても全面的に対応させて頂く形となります」


 ミシャさんとロコさんとのタッグで守られるのだ。これほど安心感のある環境も無いだろう。

 その後は質疑応答の形でミシャさんと両親が話し合い、時折ロコさんが弁護士目線で質問への回答やアドバイス等を行っていた。

 そして話の中心であるはずの私はその間……椅子にちょこんと座り待機である。


 ――だって、周りが難しい話をしている時に割って入るのって勇気が要るんだもん、仕方ないよね?


「私達の方からはこれぐらいですね。……あとは奈津がどうしたいかに任せて、私達は親としてそれを後押ししていきたいと思います」


 難しい話をする皆を傍から見て成り行きを見守っていたら、突然お父さんの方から話が飛んできた。

 私はちゃんと話を聞いてましたよという雰囲気を出しつつ、一生懸命に頭をフル回転させながらどう回答するかを考える。


「奈津さん、先ほどまで意識が飛んでられましたよね? 少し難しい話になるとすぐに意識を飛ばす所は、本当にギンジの阿呆にそっくりです。奈津さんは少し彼の悪影響を受けすぎです」


 速攻でロコさんにバレてしまった。

 そしてロコさん、リアルにゲームが持ち込まれてしまった所為か、ちょいちょいキャラに綻びが見えてます。


 私はロコさんのツッコミから目を逸らしてスルーしつつ、今後の事について考える。……そして答えを出した。


「今は……少なくとも中学卒業までは学業優先で行きたいと思います」

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