空白の2年間

243. ロコさんとミシャさんの来訪 1

「はぁ~、何だか緊張してきた」


 とある昼下がり、私はリビングと玄関を何度も往復しながらソワソワしていた。


「奈津、いい加減に落ち着きなさい。今日来るのは何時も一緒に遊んでるお友達なんでしょ?」

「ゲームとリアルじゃ全然違うよ! それに今日は遊びに来るんじゃなくて、芸能事務所入りの説明に来てくれるんだから!」


 そう、今日は私が芸能事務所入りするに当たっての説明会が開かれるのだ。

 そして今日その説明をしに来てくれるのが、リアルのロコさんとミシャさんだったりする。


 ロコさんはリアルでは弁護士さんをしている様で、弁護士としての私のサポート体制について説明してくれるらしい。

 そしてミシャさんは薄々そうなのではないかと思っていた通り、リアルでは芸能関係の人だった……しかも私でも知っているような超有名事務所の。

 それで以前ミシャさんに芸名を聞いた事があるのだが、その時の回答は。


『それは実際に会った時のお楽しみだね♪』


 とはぐらかされたので、もしかしたらかなり有名な人なのかもしれない。

 けれど、もし実際に会った時に全く知らないタレントさんだったら気まずくなってしまうので、一応事前に公式ホームページの所属タレント一覧から出来る限り顔と名前を覚えるように努めていた。


 そんなこんなで今日を迎え、ソワソワしっぱなしで待機している私なのであった。……そして遂にその時がやってくる。

 インターホンの音がなり、お母さんがモニターから訪問者を確認する。


「っ!?」

「お母さん、どうしたの?」

「え!? あ、いや、大丈夫よ。奈津のお友達が来たみたいだからお出迎えに行ってくるわね」


 何だか様子がおかしいお母さんが慌てて玄関の方へと向かった。

 そしてお母さんが先頭で招く形で2人の女性がリビングへと入って来る。


「え? ……安藤美亜……さん?」

「やっほー、ナツちゃん♪ とても良いリアクションだね。100点満点さ♪」


 ――あ、これはまごう事無きミシャさんだ。ミシャさんが安藤美亜さんだったなんて……。


 安藤美亜。事務所のエースであり、女優にCMにバラエティとマルチに活躍する人気芸能人だ。

 そんなテレビでよく見る人気芸能人が目の前にいる現実に上手く適応出来ず、暫く思考停止状態になってしまった。


「……え、でも、声とかキャラとか全然違いません?」

「そりゃあ、変えてるからね!」

「……どれが本当なんですか?」

「勿論、秘密さ♪」


 ミシャさんはゲームでもリアルでもミシャさんだった。

 そんな私達の会話を隣りで聞いていたもう1人の女性が話しかけて来る。


「奈津さんは本当にゲーム内のナツと全く同じ見た目なのですね。ゲーム内でも言いましたが、あまりに不用心ですよ?」

「あ、はい、すみません。……えっと、ロコさん……ですよね?」

「はい、リアルでは米倉と言います。本日は宜しくお願い致します」


 そう言ってロコさん、もとい米倉さんは私と両親に名刺を一枚ずつ手渡していった。

 身長が高くスラっとした体形、そしてその整った顔立ちと大人な雰囲気は確かにロコさんの面影があった……が、それ以外は全く似ても似つかない。

 ゲーム内のロコさんはとても優しくて暖かいお母さんという概念の化身の様な人なのだが、目の前にいる米倉さんは正に弁護士という概念の化身の様な人だった。


「あはは、やっぱり始めて会うと驚くよねぇ~。ここまでリアルとゲームではっきりと切り分けてる人は珍しいもん。何だかんだエイリアスで一番個性的なのがロコっちっていう衝撃の事実」

「貴女にだけは言われたくはありません。それといい加減本題に移りましょう。奈津さんのご両親をこれ以上お待たせする訳にもいきませんから」


 米倉さんのその一言で私の芸能事務所入りに関しての説明会が開始された。


「あぁ、そうだ。先日、お預かりしているペットの可愛いシーンを撮影出来ましたので、後で奈津さんのデバイスに映像データをお送り致しますね」


 ……うん、やっぱりロコさんは何処でもロコさんだったようだ。



------------------------------------------------------------------------------------------------

 近況ノートにスピンオフ作品についてのお知らせを載せておりますので、是非ご確認の程よろしくお願い致します٩(๑>∀<๑)۶

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る