239. 私はテイマーだから
ただ怒りに任せて暴れるだけだった私に方向性が生まれた。本当にただそれだけ。それだけの事で、世界は見え方を変える。
目的が決まればアプローチ方法が決まる。アプローチ方法が決まれば必要な物が分かる。……そして私は、必要な物を全て持っていた。
右手から鋭い鉤爪を生やしたファイさんが迫って来る。それを見た私は、梵天に取り込まれている火天の効果で機動力と筋力に多くのスキル値を振り分け、迫るファイさんを待ち受けた。
感情的に暴れるだけの攻撃を躱す事は容易だ。これならば、ステータス的には落ちるが暴走する前の理性的な彼女の方がまだ強かった。
今ファイさんは、不正アイテムを使った時のギースと同じだ。
ギースは本来、魔法による遠距離支援型のテイマーだった。けれど、バグ化によって理性を失ったギースは、心合わせの指輪で向上したステータスを使ってあろうことか接近戦を挑んで来たのだ。
バグ化によってどの様な変化が起き、長引く事によって更にどういった変異が起きるか分からないけれど、遠距離から魔法等でチクチク攻撃されていた方がまだ戦いづらかった。
ファイさんも融合によって手に入れた強大なステータスと、それぞれのモンスターが持つ特性や技があるのにも関わらず、やっている事はそれらを使ってがむしゃらに暴れまわる事だけ。
そんな戦い方は、拳銃の銃身を握って鈍器として使うようなものだ。……まぁ、一緒になって暴れていた私が偉そうに言える事ではないけれど。
「ラピッドラッシュ!」
ファイさんの攻撃を避けつつ、大振りになっている狙い目の攻撃をパリィする。そして、攻撃を弾かれがら空きになった懐に飛び込み、ラピッドラッシュによる連撃を叩き込んだ。
羅刹天により大幅上昇したステータスと、増大したノックバック効果の乗った連撃はさぞ効く事だろう。私は相手の動きを封じるように攻撃を加えつつ、反撃の兆しを見逃さないように観察し続ける。
「インパクト ストライク!」
「ガッ!?」
そして、ノックバックによる行動阻害を無理やり打破しようとする動きを察知した私は、ラッシュ攻撃を切り上げて蹴りによる強打でファイさんを吹き飛ばした。
今の私はロコさん達から預かった4つの十二天シリーズを同時に発動している。ステータスとノックバック効果が大幅上昇し、スキル値を自由に集約する事が出来、回復系の魔法効果が大幅上昇し、十二天シリーズのデメリットも含めた全てのデバフ効果を反転している。
その代償として、消費したアイテムは返ってはこないが、使ったアイテムがアイテムなだけにその効果は絶大だ。
――補填する準備があるみたいな事は言ってたけど……。自分の手で一度破壊した事はちゃんと謝らないとなぁ……。
『カッっとなってやりました』なんて最悪の理由だ。そう思うと、使った経緯を説明して謝るのが憂鬱になってくる。……と、その時、私は今まで気付かなかった違和感に気が付いた。
「……そういう事。ファイさん、こんな小細工までやってたのか」
ファイさんが施した小細工の数々にため息を吐きつつ、私は握りこぶしを作りテーブルでも叩くように空間をドンッっと叩きつける。すると、私達が居るエリア全体からゴゴゴと地鳴りの様な音が響き……私にしつこく纏わりついていた妙な干渉が消えた。
それは、十二天シリーズと同じく感情に干渉するシステムだった。十二天シリーズは、それを使う事によって周囲のプレイヤーに恐怖や畏怖といった感情を疑似的に感じさせる効果がある。
恐らくそれと同じ仕組みで、私がこの隔離空間に入ってからずっと気付かれない程度の弱い干渉を続けてきていたのだ。そして、その干渉によって引き起こされる感情は怒りと憎悪といった負の感情だった。
ファイさんはこの機能によって私に揺さぶりを掛け、更に私の感情を煽るような言葉をあえて使う事で、負の感情を誘発したのだろう。全ては私の感応能力を引き出す為に。
本当に何もかもがファイさんの掌の上だったのかと再度大きなため息を付き、私の様子が変わった事に警戒している様子のファイさんへと視線を向けた。
「これで小細工無しの真剣勝負です。これまで散々振り回してくれた落とし前……しっかりとつけさせてもらいますっ!!」
そう言い終わると同時にファイさんとの距離を一気に詰める。ファイさんは反射的にガイアタートルの頭を突き出して反撃してくるが、私はそれをパリィで弾き、相手の腕と服をがっちり掴んで背負い投げで地面へと叩きつけた。
「私がこの世界で得たのは、感応能力だけじゃないんです! ファイさんにとっては簡単に真似出来る取るに足らない技術かもしれないけど、私にとっては皆と苦労して作り上げた大切な物なんです! ……特に、模擬戦とか訓練になると途端に本気になるギンジさんは本当に怖かったんですから!!」
起き上がり様に仕掛けて来る攻撃を避けつつ逆に距離を詰め、短剣、刀、杖と梵天の武器の形状を変えながら攻撃を加えていく。
その突然の劣勢に焦ったのか、ファイさんはビリディアの凶悪技を使用した。2体の分身体と20体の光精霊召喚だ。
――今の怪物化したファイさんが分身を使うのはちょっとズル臭いけど、全く負ける気がしない。……だって私は、テイマーだから。
私は心合わせの指輪による融合を解いて、パルとモカさんとクロを実体化する。
確かにこのゲームを始めた頃の私には、テイマーの才能が無かったかもしれない。それでも、私は皆と一緒にここまで戦って来たんだ。
だからこそ、ファイさんに私のテイマーとしての力を見せ付ける。
ここからは総力戦だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます