238. 最後まで自分らしく

 怪物たちの戦いは続く。

 ファイさんがハイエンスドラゴンのブレスを吐き、私は武器を梵天の大太刀に変化させてブレスを切り捨てる。

 ブレスを切り捨てた直後の隙を突かれ、背後へと回り込んでいたファイさんから繰り出されたビリディアの光魔法が直撃する。そのダメージによりHPだけでなく背中のテクスチャデータまで破損した。


「ツインフォースリバイブ」


 けれど、戦いが終わる気配はない。お互いダメージを負ってもすぐに回復し、戦闘が継続される。

 そもそも、ゲームシステムから逸脱している現状、HPが0になれば本当に倒されるのかすら怪しい。


 そんな怪物たちの戦いを、私は上空から見ていた。


 ……


 …………


 ………………


 私が今どういう状況なのか、自分自身でもよく分かっていない。感情のままに暴れる私と、それを俯瞰して眺める私が居るのだ。

 別に切り離されている訳でもなく、両方の感覚がしっかりと存在していた。……けれど、今現在も醜悪に暴れ続ける自分自身を止められない。

 今も戦っている私はある意味で暴走しているけれど、ある意味で暴走している訳ではないのだ。あの私は、ただ自分の心に従っているだけであり、そんな私を止められるはずがない。


 ――あの私が、自分の心に従っている私なら、それを眺めている私は何なんだろう……。


 前までは全然分からなかったけれど、今の私にはファイさんの言う感応能力という物が何なのかが分かる。……感応能力とは、むき出しの思念だ。

 理屈は分からないけど感覚的に分かる。むき出しの思念は世界に訴えるし、世界と繋がる。そうやって世界に作用すれば、反作用として結果が返ってくる。

 ファイさんはその反作用の部分を能力の本質だと勘違いして、それを再現しようとした。けれど、感応能力の本質とは作用であり、つまりはむき出しの思念なのだ。

 そして、人の心と感情を軽視したファイさんは、そのまま他者の思念に飲み込まれてしまった。


 感応能力の結果とは思念が結果として返って来た物。つまり、今あそこで暴れている私こそが本当の私。だからこそ、今こうしてそれを眺めている私は何なのかと思い悩む。


『ナツは今、迷子なんだよ』

「!?」


 私とファイさんしか居ないと思っていた状況で突然話しかけられ、驚いて声のする方へと振り向くと……そこには優しく淡い光が居た。


『……やっと通じた。あまり話せる時間が無いから色々割愛して話すけど、僕は君と同じ感応能力者だよ』


 言葉に乗って、この光の思念が伝わって来る。その言葉には嘘が無く、この光は私と同じ感応能力者であり、本当に時間が無いのだと訴えて来る。

 そのある種の必死さを感じ、色々聞きたい事はあるけれど、この光が伝えようとしてくれている事をまずは受け入れる事にした。


「私が迷子ってどういう事?」

『そのままの意味だよ。今あそこで暴れているナツは、ファイが暴走した際の怒りが形になったナツ。だけど、激怒した理由が自分でも分からなくなってしまって、ただ感情に任せて暴れているだけのナツ。……そして、今僕と話しているナツは、置いてけぼりにされた激怒した理由。つまり、迷子なのさ』

 

 この光の言う事が正しければ、私は『怒り』と『怒った理由』が分かれてしまった状態なのだそうだ。感応能力とはむき出しの思念。だからこそ、こうやって分かれる事もあるらしい。……けれど、そんな訳はない。


「怒った理由はちゃんと分かってるよ! 勝手な理由で私達を騙し続けて、レキを殺して、ロコさん達のキャラデータも壊して! そして仕舞には、私に後始末を頼むって……。そんなのって、自分勝手過ぎる!!」


 これは嘘でも誤魔化しでもない本心だ。そのあまりにも自分勝手な物言いに、私は怒髪天を衝いた。


『ねぇ、ナツ。ミシャが最後に言った言葉を覚えてる?』

「……最後まで自分らしく。そして、こんな茶番をぶち壊して。……だからこれが、その結果だよ。あれは私のむき出しの感情。つまり、あれが私」


 正直に言えば、それは自分でも認めがたい物だった。あの怪物の様に叫び、暴れまわっている人物が本当の私だなんて。

 私がその事実に対して苦い気持ちになっていると、目の前の光は笑いだした。


『あははっ、ナツは昔からすぐ感情的になるからね。確かにあれもナツらしさだよ。……でも、ナツはまだまだこんな物じゃない。ナツはもっととんでもないんだから』

「あ、あれ以上にとんでもないの?」

『そりゃそうだよ。だってナツの生き方は”全部諦めない”なんでしょ? そんな強欲でエゴの塊みたいな生き方をする人物が、ムカつく相手を叩きのめすだけで満足するはずが無いじゃないか』


 そんな事をさも当然の事のように話す相手に唖然としてしまう。そして、それと同時に納得もしてしまった。


『ナツ、思い出して。ナツが怒った理由は他にもない? そして、ファイに求めたのは倒す事だけ? もし、他にも望む事があるのなら、それを全部やっちゃうのがナツらしさだよ』


 光にそう促され、私は考える。ファイさんに怒った理由、そしてファイさんに求めた事。沢山沢山考えて……答えが出た。


「……確かにあったみたい。叩きのめす以上にやりたい事」

『そう、それは良かった! それなら、それも含めて全部やっちゃえ♪』


 そう言う光は本当に嬉しそうだった。


「貴方は何でそんなに私の事が分かるの? 私以上に私の事が分かるみたい」

『そりゃそうだよ。……だって、僕はナツから生まれたんだから』

「……そうだね……そうだよね。貴方は私から生まれたんだもんね。……こんな茶番さっさと終わらせて、すぐ迎えに行くから。もう少しだけ待ってて!」


 私のやる事は決まった。あとはそれを全て実行するのみ。まず最初にやりたい事は……。


 ――やりたい放題やってくれたファイさんをはっ倒す!!

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