231. 私と貴方が求めた力
ロコさんの驚異的な活躍によってパーティーが総崩れするという事態は免れているけれど、だからと言って状況は決して良くは無かった。
「ちっ、こいつのHPはどうなってやがんだ? いくら何でも多すぎだろ!」
「確かにちょっと嫌になってきますね。ナツさんとロコさんに何時までも苦労を強いる訳にもいかないので、出来るだけ早く片付けたいんですが」
分身体と精霊を作り出した後、力尽きたかの様に倒れ込んだメナスガーヤカだが、そのHPは異常なレベルで強化されていた。その所為でメナスガーヤカのHPを思うように削る事が出来ず、この戦闘が長期化する事を覚悟しなくてはいけない状況になっている。
そして、そんな長期戦で一番危なくなってくるのは……何を隠そう、この私だ。
「ッ!? しつっこい!!」
本体と同じ能力を持つ分身体が何度も全体攻撃を発動しようとする。その度に私は色々な武器に切り替えて確定クリティカル攻撃を叩き込み、全体攻撃をキャンセルするのだが、如何せんその頻度が多くて確定クリティカル攻撃のクールタイムが終わって使い回すのがギリギリになっている。
しかも、1体の全体攻撃をキャンセルしようとする際に、もう1体が私に攻撃を仕掛けてきたりもするので本当に余裕が無いのだ。正直、ロコさんが20体の精霊を受け持ってくれて、しかも行動阻害でフォローしてくれなかったら危なかったかもしれない。
こんな神経をすり減らしギリギリの状態で保っている現状、これで長期戦になるのは正直勘弁して欲しい。
そしてそんな戦況は、更に悪化する。
「パゥウ˝ウ˝ウ˝ウ˝ウ˝ウ˝ウ˝ゥゥゥン!!」
今まで力尽きたかのように倒れ込んでいた本体が、ゆっくりと立ち上がり咆哮をあげた。
「お前さんも動き出すのかよ。もう少し寝てても良いんだぞ?」
「不味いです!? メナスガーヤカの防御性能が上がってます!」
「おいおい、それは洒落になってねぇぞ!」
メナスガーヤカがここに来てまた変化が起きたようだ。しかも、今回もまた事前に獲得した能力ではなく、今まさに変異したように感じ取れた。
そしてメナスガーヤカは、2体の分身体と戦っている私の方へと攻撃を仕掛けて来た。私はそれをパリィし、追撃する様に攻撃を仕掛けて来た分身体の攻撃をエアウォークを駆使した立体機動で躱していく。
「何ッ! ナツ、精霊の挙動が変わった! こ奴ら、ヘイトを無視してお主を狙っておるぞ!」
ここに来て、今までロコさんが受け持ってくれていた精霊までが私の方へと向かってくる。
精霊はHPと防御性能が低く、弱い攻撃でも簡単に倒せてしまう。けれど、精霊の個体数が上限になるようにすぐ復活してしまうという地味に面倒臭いモンスターなのだ。
そんな精霊が20体襲ってきて、更には分身体2体と本体を1人で相手にするのは流石に無理だった。
ロコさんも復活し続ける精霊を次々に倒し続け、同時に攻めて来る精霊数の数を少しでも減らそうと奮闘してくれていた。けれど、それでも今の均衡が長く続かないのは明らかだ。
そんなギリギリの戦いの中、メナスガーヤカ本体の攻撃をパリィする度に私は何か違和感のような物を感じていた。
――何だろう……。メナスガーヤカに余裕が無いような。これは……私に怯えているの?
メナスガーヤカ本体は分身体とは違い、全体攻撃は使用せずにひたすら頭を振って、その巨大な鼻を鞭の様にしならせて私を攻撃し続けていた。
その様子は、何だか恐怖でパニックになった子供が訳も分からず腕を振り回している様に見え……そして、私は唐突に理解する。
――そう……。仲間を増やしたり、HPや防御力が突然上がったのは……貴方がそれを求めたからなんだ。
何故そう思ったのか私にも分からない。だけど、私はそれを確信した。この子は……この戦闘が始まってから、終始怯えていたのだ。
私達が目の前に現れた事に怯えて攻撃を仕掛け、それでも倒せず自分を攻撃してくる存在に怯えた。だから、仲間を求めた。死なない為にHPと防御力を求めた。
――ごめんね。それでも私は負けられないの。だから……少しでも早く終わらせる。
それが、怯え続けるメナスガーヤカに出来る唯一の事だった。
「ギンジさん、シュン君、デメリット付きのエナジーバーを使えるだけ使って戦ってください! それとロコさんは、皆のスタミナとHPの管理をお願いします!」
「じゃが、それではこ奴らの対処はどうするのじゃ!」
「分身体と精霊も含めて、メナスガーヤカのヘイトは私が受け持ちます! 私はこのパーティーのメインタンクですから!」
メナスガーヤカが他者に怯え、仲間を作ったりHPや防御性能を高めたように。私にもパーティーの為に求めた力がある。
私が求めた力、それは『敵を倒すまで絶対に負けない強さ』だ。
覚悟を決めた私は頭と心から雑音を消し、精神を更に深くまで沈み込ませ、全身全霊でメナスガーヤカと向き合った。
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