229. 極まったタンク
メナスガーヤカ。高い攻撃力と耐久力を持ち、単体攻撃の火力もさることながら、高い範囲攻撃性能を持つパーティー泣かせなボスモンスター。
パブリックエリアでの最強格ボスモンスター『ハイエンスドラゴン』『メナスガーヤカ』『ビリディア』『ガイアタートル』の中で、プレイヤー評価で最も強いと言われているのがこのメナスガーヤカ。何と驚く事にあのハイエンスドラゴンよりも評価が高いのだ。
……と言うより、ハイエンスドラゴンの評価が3位で、プレイヤー評価的に「まぁ、対策してれば1パーティーで無難に倒せるよね」というレベルらしい。ちなみに、2位がビリディアで4位がガイアタートルだ。
勿論、バグ化によってどんな強化がされているか分からないので、この目の前にいるメナスガーヤカがどのぐらいの強さなのかは分からない。けれど、弱いという事は無いはずだ。
――それでも、やっぱり負ける気はしないけどね!
私は心合わせの指輪でペット3体と融合し、タンクとして先陣を切る。
「アテンション クライ『来い!』 トーンティング! シールドアップ! マスターシールドアップ!」
叫びスキル技能と盾スキル技能で敵のヘイトを奪う、パリィ可能ダメージ範囲を拡大する。これで準備は完了だ。
「準備も出来た事だし、ヘイト勝負の開始だ! ナツ、俺がヘイトを取りそうになったら攻撃を緩めてやるから心配すんな!」
ギンジさんからのバチバチな煽りを受け……抵抗する事なく全力で煽られに行った。
「上等です! 今日がギンジさんへの初勝利日にしてやりますよ!」
「何と言う事じゃ。ナツがギンジの阿呆にここまで毒されておったとは。……ナツの親御さんに申し訳が立たぬ」
「いや、ロコっち。そんな深刻に捉えなくても……」
ギンジさんの煽り言葉に全力で返しつつも、私は逆に頭と心から雑音を消してメナスガーヤカの一挙手一投足を見逃さないよう集中力を上げていった。
今の私はタンクであり、アタッカーではない。タンクに求められる事は勢いではなく、何処までも冷静な判断なのだ。
「スラッシュ! スパイラル エッジ! レッグ アビリティ アップ! インパクト ストライク! シールドバッシュ!」
シュン君との訓練で作り上げた何パターンものループコンボから、今の状況に最適なコンボを繰り出す。そして相手の攻撃モーションを察知したら、慌てずしっかり構えてパリィ。
何度も繰り返して来た練習を実践し、私とメナスガーヤカのリズムを合わせていく。
ここ一週間毎日ループコンボとタンクの訓練を行って、私が見つけたタンクの神髄とは”リズムと早押しクイズ”だった。
モンスターにはそれぞれ違ったリズムを持ち、私自身にも心地の良いリズムという物がある。気持ち良く戦えるリズムを崩さず、相手のリズムにも合わせていくことで、時間当たりの最高効率の行動を叩き出す事が出来るのだ。
前の私はこれが出来なかった。少しでも多くのヘイトを稼ぐためにと素早く攻撃する事にばかり固執し、敵が行動を起こす度に自分のリズムが崩れ、次の行動を起こすのに無駄なタイムラグを起こしてしまっていた。
けれどその度にシュン君からタイミングの修正指示が飛び、それを繰り返す過程で敵と自分のリズムを合わせる事を覚えていった。
速いリズムと速いリズムは噛み合う。遅いリズムと速いリズムも噛み合う。どんな速度の違いのあるリズムでも、それを意識し、噛み合わせようとすれば嚙合わせる事が出来るのだ。
そして重要なのが相手の行動パターンをしっかり予習しておき、敵の行動時に行われる微細な動きから次の行動を見極め、それに対応した行動をとること。
ループコンボを作り、相手の行動に合わせて自身の最適な行動を選択する過程は、感覚としては早押しクイズや百人一首のそれに近い。
私は戦いながら更に集中力を高め、精神を研ぎ澄ませていく。視覚から聴覚から嗅覚から……そして直観からの情報すらも貪欲にかき集め、次の行動への判断材料としていった。
そしてそんな中、メナスガーヤカが片足を上げて地面を踏みつけるモーションを察知する。
「斬首一刀!」
「バァアアアゥンッ!?」
私は即座にインベントリを操作し武器を刀に持ち替え、メナスガーヤカの首に向かってクリティカル攻撃を叩き込む。
キャンセリングタイムのタイミングに叩き込まれたクリティカル攻撃によって、メナスガーヤカの行おうとしていた地響きによる全体攻撃がキャンセルされ、そして私はそのままリズムを崩す事なく再度短剣に持ち替えてループコンボを再開する。
「カウントナックル! プッシュ ストライク! エレメンタルブレス! アテンション クライ!『来い!』」
ループコンボに組み込まれているのは私の技能だけではない。
ロコさんと作り上げていった私だけの立ち回りによって、私は心合わせの指輪を使いながらもペットを手足の様に扱う事が出来るようになっている。その立ち回りをループコンボに組み込む事によって、ペットも合わせた私が出来る最高効率のダメージ量を実現しているのだ。
そしてその間にヘイト技のクールタイムが終わったタイミングで再度使用し、更にヘイト値を荒稼ぎしていく。
「ちょっとみねぇ間に、ナツの動きが相当極まってんな。ヘイト技も含めてここまで積まれたら勝てる訳がねぇ」
「はは、そうですね。……まぁ、訓練に付き合っていた僕が嫉妬する程度には極まってますよ」
私のタンク、ギンジさんとシュン君のアタッカー、ロコさんのヒーラー兼バッファー兼アタッカー、ミシャさんのサブバッファー。それぞれの役割が完璧に機能し、メナスガーヤカとの戦闘は順調な滑り出しとなった。
……だが、そんな流れを断ち切らんと、メナスガーヤカの瞳が怪しく輝きだす。
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