227. 最後の戦いの場

 シュン君に救援が必要か確認したすぐ後、『すぐに片付けてそちらに向かいます』という宣言通り、シュン君はすぐに敵ボスモンスターを倒してギルドハウスへと帰還した。

 シュン君が担当したダンジョンは、私が担当したダンジョンの様に中級レベルの物ではなく上級レベルの手強いダンジョンで、そんな手強いダンジョンを1人で攻略してきたシュン君がギルドハウスに帰って来て最初に発した言葉は謝罪だった。


「すみません。今後の事を考えると切り札は取っておいた方が良いとは思ったのですが、ダンジョンボスを倒す為に火天を使ってしまいました」


 と言う事だった。

 私としては、上級ダンジョンのバグモンスターを倒すのに火天を使った事は無理もない事だと思うし、逆にこれだけの大戦果を上げたのに、申し訳無さそうにするシュン君に驚いてしまう。


「何の問題もないさ♪ 我を貫き通してこその人生だよ、少年!」

「俺は何でも聞き分け良く折れちまう奴より、折れねぇし折れたくねぇもんを持ってる奴の方が好ましく思ってるぞ。その為に行動したんなら胸を張れ」

「わっちとしても切り札を使った事に対して、特に何も言う事はないのじゃ。……じゃが、わっちは意地より実利を取る性格故、それが正しい行動じゃったかどうかまでは明言出来んがの」

「私も何とも思ってないよ! と言うより、上級レベルのダンジョンを1人で攻略したのに謝る必要なんてないよ!」


 それぞれが思い思いの言葉を伝えたが、どれも否定的な物では無かった。


「ありがとうございます。……ただ、ロコさんの言う通り、意地を通すべき場面かどうかは見極められる様にならないといけないなとは思っています。今はまだ、土壇場でも我を通してしまいそうですが」


 そう言って困ったような顔で笑うシュン君は、私より年下なのに大人びて見えた。……いや、シュン君は何時も私より大人っぽいのだけれど。

 私達の会話が一段落するのを見計らっていたファイさんは、一区切りついたと判断してこれからの行動について話始めた。


「さて、これでバグモンスターが溢れ出ていた6つのダンジョン全ての駆除作業が完了した。そして、神AIによる世界全体の再スキャンを行ったが、一ヶ所を除いて他にバグモンスターの存在は確認出来なかった」

「……つまり、次の戦いが正真正銘最後の戦いって事ですね?」

「そうだ」


 ハイエンスドラゴンとレキが潜んでいる場所。そこが、このバグモンスター事件を終わらせる最後の戦いの場となる。


「それで、最後のバグモンスターらは何処に潜んでおるのじゃ?」

「正確な数は分からないが……バグモンスター達が潜んでいる最後の場所はノーラ神殿だ」

「ノーラ神殿!?」


 その意外な場所に私は心底驚いてしまった。

 何を隠そう私達は、ここ最近毎日のようにノーラ神殿でパーティー戦の訓練をしていたのだ。まさか、そんな場所にハイエンスドラゴンやレキが隠れ潜んでいるとは思いもしなかった。


「ノーラ神殿もダンジョンと同じように、個人又はパーティー単位でサーバーを切り分ける仕様となっている。そして、ランダムで出現するモンスターと戦う最奥の鏡は、更に隔離されたエリアとなっている。バグモンスターの隠れる場所として都合が良かったのだろう。……実際に、我々運営サイドは日常的にプログレス・オンライン全体を監視していたが、ノーラ神殿が隠れ家になっている事に気が付かなかった」


 それから私達は、最後の戦いに向けて消耗品の補充を済ませ、シュン君の火天を使った際のデメリットが解消されるまで休息を取る事になった。

 今日は戦い通しだった為、少しの時間でもしっかりと心と頭を休めた方が良いとは分かっているのだけれど、これから向かうノーラ神殿にバグモンスター化したレキが居るのだと思うと、どうにも休める気がしなかった。


「ナツ、ちょっといいか?」

「はい、何ですか?」

「これをお前さんに貸しておく。使うタイミングは任せるから、好きに使え」


 それはギンジさんが持つ十二天シリーズ『羅刹天の大太刀』だった。

 私がそれに驚いていると、ギンジさんは有無を言わさず私にその大太刀を手渡し、貸し出す理由について説明する。


「羅刹天には、その効果の1つとしてヘイトの強制奪取があるんだ。パーティー戦でのタンクはお前さんが担う以上、俺がこいつを使って連携を乱す訳にはいかねぇだろ?」

「た、確かにそうですけど……。でも、何だか恐れ多いですね」

「恐れ多いも何も、お前さんは既にミシャから毘沙門天を借りてるじゃねぇか。それにハイテイマーズ戦の時はシュンから火天まで借りてたしな」

「あ、じゃあついでに僕のも貸しておきますね。こっちは羅刹天とは違って効果切れ後にデメリット効果が来るんで、使いどころは難しいかもしれませんが、自由に使って下さい」


 そう言ってシュン君まで私に十二天シリーズ『火天の数珠』を手渡してきた。これで私は今、『羅刹天の大太刀』『火天の数珠』『毘沙門天の多宝塔』『梵天の水瓶』の4つを持っている事になる。

 借り物とはいえ、これだけの数の十二天シリーズを持っているプレイヤーは居なかっただろう。


 ギンジさんの羅刹天はヘイトの兼ね合いで私が持っていた方が使いどころがあり、シュン君は24時間のインターバル期間のため使いたくても使えない状況ではある。

 けれど、これだけのアイテムを貸し与えられると、やっぱり少し気後れしてしまう。


「まぁ、そんな気にすんな。古参からレアアイテムを貰ったり借りたりする事はよくあるもんだ。それにお前さんの場合、今更だろう?」

「……それもそうですね」


 私はこれまで、皆から様々なアイテムを借りたり貰ったりしてきている。

 それに、毘沙門天に関しては結構前から借りていたのだ。確かに気負い過ぎるのは今更だろう。

 私はそう納得して、ギンジさんとシュン君から十二天シリーズを借りておく事にした。

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