225. レキの痕跡

「どう? 少しはスッキリした?」

「……そうですね。大分落ち着けたと思います」

「それは良かった♪ 敵さんの煽りテクニックは中々の物みたいだからね。発散出来るのであれば溜めこまず発散した方が良いのさ」


 ミシャさんから引き継いだ戦いは、私のストレスのはけ口となってもらった。

 正直に言うと、まだこの嫌がらせの様な罠にムカムカしている。けれど、これ以上暴れてもスッキリするどころか逆に怒りのボルテージを上げてしまいそうなので、ここで気持ちを切り替える事にした。

 

「取り合えずギルドハウスに戻ろうか。今回の戦いはちょっとアイテムの消費も多かったし、私も毘沙門天のデメリット効果が消えるまで戦えないしね」

「そうですね。私も消耗品の消費が激しかったので、補充しないとです」


 そうしてギルドハウスに戻る事を決めた後、他のダンジョンの状況を聞くために一度ファイさんに連絡を取る事にした。


「ファイさん、こちらは今バグモンスターの駆除が終わりました。他のダンジョンはどんな状況ですか?」

『こちらの方でも再スキャンして確認した。そちらは問題無く駆除を終えているようで良かった。済まないが、1つ報告したい事案が出来たので、一度ギルドハウスに戻って来てもえないだろうか』


 ファイさんの口から出た『そちらは』という言葉に不安を覚え、私達は急いでギルドハウスへと戻った。


 ……


 …………

 

 ………………


 ギルドハウスの会議室へと向かうと、そこにはファイさんとロコさんとギンジさんの3人が既に来ていて、その場の雰囲気は重くピリついていた。


「あの、何かあったんでしょうか?」

「……わっちらが2つ目に向かったダンジョンじゃが。……そこにレキが居った」

「ッ!?」


 ダンジョンにレキが居た。その言葉と、ロコさんが放つ重い雰囲気に不安が加速し、私はすぐに詳しい話を聞いた。

 

 ロコさんとギンジさんが2つ目に向かったダンジョンだが、そこは1つ目のダンジョンと比べて外に出てきているバグモンスターの数が少なく、ロコさん1人ですぐに外のバグモンスターの駆除は完了したそうだ。

 そして外のバグモンスターを駆除し終わった丁度その頃にギンジさんと合流し、残りのバグモンスターを駆除する為にダンジョンの中へと向かった。けれど、ダンジョンの通路には全くバグモンスターが居らず、ロコさん達はその事を訝しく思いながらもボス部屋まで辿り着いた。

 そしてボス部屋の扉を開け、ロコさん達が見た光景は……ダンジョンボスのバグモンスターを貪り食うレキの姿だった。


「一瞬レキじゃと分からなかったが、その種類と毛色からもしやと思ってファイに確認してもらい、レキじゃと判明した」

「あの、一瞬レキだと分からなかったってどういう事ですか? 確かにフェアリーウルフはレキ以外にも居ますけど、レキは色違いで分かりやすいと思うんですけど」

「……幼体から成体へ、姿が変わっておったんじゃ。それに、以前掲示板に貼られておったレキの画像には、確かにバグモンスター特有のテクスチャの崩れがあったが、ダンジョンで見たレキにはそれが無かった」


 レキが成体になっていた事にも驚いたけど、体からバグテクスチャが無くなっている事にも驚いた。……つまり、それは。


「ナツ君、先に行っておくがレキ君が元に戻っているという事はない。それは私の方でも確認しているし、何よりロコ君達を全く認識出来ていなかったんだ」


 ボス部屋でバグモンスターを食べていたレキは、ロコさん達に気が付くと何の躊躇もなく襲い掛かって来たそうだ。

 その事からも、レキが元に戻っている訳ではない事は明確だった。


「見た目も違ったが、その強さも全くの別物だったぞ。あの強さはペットの枠に収まらねぇ。技自体は元のフェアリーウルフと違いは無かったが、そのステータスは下手したらハイエンスドラゴンら最強格を超えていたな」


 その大幅にステータスが向上したレキと、今後の戦いを考えて十二天シリーズを温存しておきたかったロコさん達との戦いはとても厳しい物になった。

 厳しい戦いの中、ギンジさんがタンクの役割を、そしてロコさんがヒーラー兼バッファー兼アタッカーの役割を兼任しつつ何とかレキを追い詰めた。しかしそこで、レキは空間に穴を開けて逃げて行ったらしい。


「この戦いの中でレキ君を逃がしてしまったが、今回はそれが功を奏した」

「どういう事ですか?」

「レキ君が逃げた先を調べる事で、残りのバグモンスターが隠れている場所を突き止めるに成功した」


 残りのバグモンスターが隠れている場所。……つまり、次が本当の最終決戦になるという事だった。

 レキの出現と最終決戦の場の発見に胸の鼓動が速くなる。


「そう言えば、シュン君はどうしたんですか? ここに居ないみたいなんですけど」

「あいつはまだダンジョンで戦ってるぞ。相性的に中々厳しい戦いになってるみてぇだな」

「えっ!? なら、すぐに助けに行きましょうよ!」


 私がその呑気な物言いに噛みつくと、ロコさんが渋い顔を仕出した。


「一応、救援が必要か確認の連絡を取ってみたんじゃがな……断られてしもうた。ここら辺はわっちには分からん領分なんでな、対応の仕方はギンジに任せておる」

「はは~ん、そういう事♪ ……ねぇ、ナツちゃん。念のためナツちゃんの方からも連絡入れてみてくれない? 『必要ならすぐに助けにいくよ』って」

「あ、はい。分かりました」


 今の流れで何で急に私から連絡を入れる事になるのか分からなかったが、シュン君が心配だったのですぐに連絡を入れてみる事にした。


「あ、シュン君。私達今、バグモンスターの駆除作業が終わってギルドハウスで待機してるの。必要ならすぐに皆で助けに行けるけど、大丈夫?」

『……はい、大丈夫です。お待たせしてしまって申し訳ないですが、すぐに片付けてそちらに向かいますので、もう少し時間を下さい』

「うん、分かった。でも、危ない時はすぐに連絡頂戴ね」


 私も断られてしまったけど、すぐに片付けると言っていたので多分もうすぐ倒せるのだろう。


「おい、ミシャ。お前、性格悪いぞ」

「もぅ、ギンジ君ったら何を今更。それにこれは、年相応に男の子してるシュン君へのエールだよ♪」


 ギンジさんとミシャさんとのやり取りを聞いて、私はミシャさんに乗せられて何か不味い事をシュン君に言ったのではないかと不安になった。

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