224. ケイオスラーシャの巣 3
ボス部屋に居たケイオスマザーの姿は、一言で言ってしまえばお腹に袋が付いている二足歩行のアルマジロだった。
その袋からは次々とケイオスラーシャが生み出されている。
――片道12分で残りが18分。て事はこのボスは6分で片付けないと!
そのあまりにシビアなタイムスケジュールに辟易としながらも、短剣を握り込む両手に力を籠め力強く踏み出した。
「アテンション クライ!『来い!』 トーンティング!」
取り巻きがどんどん生み出されるこの状況では、取り巻きの対処をしつつボスを攻撃するなどどうしても手が足りない。
なので私は融合を解いて敵のヘイトを私1人に向けさせる為、叫びスキルと盾スキルのヘイト技を使用した。
私はタンクらしく敵の引き付け役を全うし、ケイオスマザーを倒すのはパル達に任せるのだ。
「エニグマエッジ!」
エニグマエッジはデバフを与える消費アイテムを使用する事で、一定時間短剣にそのデバフを与える効果を付与する短剣技能だ。
基本ボスモンスターにデバフなどは効きづらいが、その取り巻きであるケイオスラーシャにはデバフが通る。なので私は、エニグマエッジで短剣に麻痺効果を付与し、生み出され続ける取り巻きの動きを止めるべく動き出した。
「フォーシス エンハンスメント! マーベルカウント!」
取り巻きのケイオスラーシャを切り付け麻痺状態にしつつ、ケイオスマザーの攻撃をパリィしていく。そうやって敵の攻撃を一手に引き受けつつも、モカさんの特殊技であるマーベルカウントを発動する。
あとは30秒間を何とか凌げば、モカさんの最大火力を叩き込む事が出来る。ただ、それだけではHP全損までは行かないので、それまでに少しでもパルとクロに頑張ってHPを削って貰わなければならない。
次々に生み出されるケイオスラーシャに麻痺を付与しているが、この勢いで取り巻きが増え続ければ何時か確実にこの均衡は崩れる。
確実に来るであろうその時を感じてつつも、パルとクロに指示を飛ばし少しでもケイオスマザーのHPを削る為に奮闘して行った。
――駄目だ。焦りの所為で戦いに集中しきれてない! もっと目の前の事に集中しないと……ッ!
「ここに来てヘイト無視は勘弁して!!」
ミシャさんの毘沙門天が切れるまでに帰らないといけない。一刻も速くケイオスマザーを倒さないといけない。マーベルカウントが終わるまでの残り時間。それらの要因が私の心をかき乱し、最近では上手く出来るようになっていた気持ちの切り替えを阻害していた。
そしてその事が更に私を焦らせる。
そんな時に、私の心をかき乱す新たな要因……モンスター達のヘイト無視が追加された。
「ウルフ シャウト!『アオーン!』 ラピッド ラッシュ!」
ヘイト値を無視してパル達を襲いだすモンスターの目をもう一度私に向けさせる為、全力で強襲を仕掛ける。
だが、私よりもペットの方に脅威を感じているのか、どのモンスターも私に目もくれずパル達へと迫った。
「フォーシス エンハンスメント! アイスサンクチュアリ! シンビオティック リンク!」
このままでは危ないとパルに氷の結界を張らせる。
融合すればペットは安全だが、それでは手が足りずケイオスマザーを倒せない。そこで、MPの問題で長くは持たないがパルに結界を張らせて少しでも時間を稼ぐ事にした。
勿論、少しでも結界が維持出来るように私とパルのMPの共有化もしておく。
その間、私はタンクの役割を止めて、モカさんのマーベルカウントが終わるまでに少しでもケイオスマザーのHPを削る事に専念した。
幸いな事に、敵は結界への攻撃に夢中で私がフリーの状態だ。パルとクロが削り役になれない分、私が少しでも削らなければならない。
インベントリを操作してMPポーションを自身に掛けながら攻撃を続け、そして遂にモカさんのマーベルカウントが終わった。
だが、取り巻きを含めて全てのモンスターのヘイトがペットへと向かっている今の状態では、とてもケイオスマザーにモカさんの攻撃を当てる事なんて出来ない。なので、仕掛けを施す。
「ミスト! フォーシス エンハンスメント! シャドウバインディング!」
「キュッ!」
まず私は、ケイオスマザーにミストの魔法を掛けて視界不良を起こさせた。そしてその後にクロの特殊技を発動させる。
クロの特殊技『シャドウバインディング』。それは、敵の影に短剣を刺す事によって相手を動けなくなってしまうという技で、動きを止めている間は敵の強さによってMPを消費し続けるというコストを支払わなければならない。
ケイオスマザーは仮にもボスである為、止められる時間は長くないがそれで十分だ。
「カウントバスター!」
「くんっまぁ!!」
クロがケイオスマザーの動きを止め、モカさんの近くにいるケイオスラーシャ達を私が打ち払う。そしてその隙を突いて、モカさんの必殺の一撃が繰り出される。
その重い一撃を受けたケイオスマザーはその巨体を浮かせて後方へと吹き飛ぶ……が、ギリギリHPが残ってしまい倒しきれなかった。
私はモカさんの一撃で倒しきれなかった事を確認すると、すぐに吹き飛ぶケイオスマザーを追いかける。
「ここで決める! フラッシュ ビジョン! バックスタブ!!」
3秒間だけ機動力を大幅強化する技能を使い、放物線を描いて地面へと叩きつけられたケイオスマザーに追いついてバックスタブによる確定クリティカル攻撃を叩き込む。
残りHPが僅かだったケイオスマザーはそれが止めとなり、光の粒子となって霧散していった。
ボスを倒した事で、もしかするとポコポコ生み出されていたケイオスラーシャも一緒に消えないかと期待したがそんな事もなく、私はその事にガックリしながらもすぐにペットの元へと向かい、心合わせの指輪でペット達と融合した。
そしてケイオスラーシャの攻撃をいなしながら、すぐにボス部屋を出るべく出入口の扉に手を掛ける……が、その扉は締まっていた。
ダンジョンの中には、ボス部屋に入るとボスを倒すまで出られないタイプのダンジョンが存在する。
けれどそれはあくまでボスモンスターを倒すまでであって、ボスモンスターを倒してしまえば扉は開く仕様になっている。
では何で扉は締まったままなのか。
「この取り巻きを倒すまで出られないって事か……。この悪意しかない嫌がらせ、流石にちょっとイラっとしちゃうね」
私の集中力をかき乱す焦りは今、この質の悪い嫌がらせによって吹き飛んだ。
……
…………
………………
「ナツちゃん、グッドタイミング! あと16秒で効果切れする所だったよ」
「すみません、お待たせしました」
ミシャさんの毘沙門天が効果切れする前に、私は何とか間に合う事が出来た。
私はその事に安堵しつつ、周りの状況を確認する。
ダンジョンから出てきていたケイオスラーシャは元々から100体以上は居て、そして私がボス部屋へと向かう間にもぞろぞろとダンジョンから追加で出て来た個体も居たはずだ。
けれど現状周りに居る個体は全部で50体前後程しかおらず、しかも残っている個体も玩具の短剣のような物が刺さって倒れ込んでいた。
「そこで動けなくなっている子達はもうすぐで動き出すから、後はよろしくね♪」
「はい、任せて下さい」
私はミシャさんにそう答えつつ、敵が動けなくなっている間に自己強化バフの掛け直しをして掃討戦の準備を整える。
「あれ? ナツちゃん、何か怒ってる?」
「いえ、怒ってません」
「……か~ら~の~?」
「……凄く怒ってますッ!」
それから私の八つ当たり戦が始まった。
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