222. ケイオスラーシャの巣 1
『瘴気の下水道』のボスであるラットエンペラーを倒した後、通路に残していたネズミのバグモンスターを倒して回り、ミシャさんと合流した私は他のダンジョンの状況を知るためにファイさんへと連絡を取った。
「ファイさん、今『瘴気の下水道』の処理が終わりました。他のダンジョンの状況はどうなっていますか?」
『現在バグモンスターの駆除が終わっているダンジョンがナツ君とロコ君が向かった2ヶ所だ。ギンジ君はもう少しで討伐を終えるだろう。シュン君は少し苦戦しているようだが、1人で問題無く対処は出来そうだ。今、ロコ君が5つ目のダンジョンへと向かっている為、ナツ君は6つ目のダンジョンへ向かって欲しい』
「分かりました。すぐに向かいます」
流石ロコさん、私より速くバグモンスターを倒しきって次のダンジョンへ向かっているとの事だった。
シュン君が苦戦しているというのが気がかりだけど、全員をモニターしているファイさんが大丈夫と言っているのだから恐らく大丈夫なのだろう。
次の行動が決まった私は、早速6つ目のダンジョンへ向かおうとした。……のだけれど、そこをミシャさんに止められる。
「ちょちょ~い! 待った待った!」
「どうしたんですか?」
「ナツちゃん、今すぐに6つ目のダンジョンへ行こうとしてるでしょ? 急ぐのは分かるけど、その前に1度ギルドハウスへ戻って消費したポーション類を補充してからだよ。この先何があるか分からないんだから、備えは万全にしておかないと」
「……すみません、気が焦ってました」
ミシャさんの言う事は最もだった。
先ほどまでの戦いでは、一刻も速くバグモンスターを倒しきらなければと思い、スタミナポーションやエナジーバーなど多用しながらごり押しでの戦いを強行した。
もう既に特大のイレギュラーが発生していて、今後どんなイレギュラーが発生するか分からない以上、備えを怠る訳にはいかない。
私はミシャさんの注意を聞き入れ、まずは帰還結晶を使ってギルドハウスへと戻る事にした。
「次のダンジョンは何処かな~っと。……ケイオスラーシャの巣かぁ、ちょっと面倒だにゃ~」
「ケイオスラーシャですか? 何処かで聞いたような……あっ、私の装備!」
ギルドハウスで使った分の消耗品を補充している間に、ミシャさんは次のダンジョン情報を調べていた。
そこで聞こえて来たケイオスラーシャという名前に引っかかりを覚え記憶を探っていると、服飾ギルドの審査会の事を思い出した。
「ん? ナツちゃんの装備はケイオスラーシャの素材で出来てるの?」
「あ、はい。と言っても今のこの装備って事じゃなくて、その前の装備がですけど。ルビィさんがケイオスラーシャの素材を使ってるって言ってたのを思い出して」
「ほほぅ、流石ルビィちゃん。ナツちゃんにピッタリのチョイスだね♪ ケイオスラーシャはそこそこ頑丈な皮素材なんだけど、とても軽い素材で、ナツちゃんみたいに機動力を強みにしているプレイヤーにはもってこいな素材なんだよね。ちなみに、ケイオスラーシャ本人も高機動力で中物理防御型のモンスターだよ」
今から向かうダンジョンは上級に近い中級レベルのダンジョンで、そのレベル帯で高機動力モンスターとなると多勢に無勢の状態だと中々に厳しい戦いになりそうだ。
「今回は初っ端から招き猫は難しそうだね。多分処理しきれずに招き猫を壊されちゃうと思う。……よし、ちょっと部屋に秘密道具を取りに行ってくるから、ちょっと待ってて♪」
そう言ってミシャさんはタタタっと自室へと向かい、暫くすると満面の笑みで戻って来た。
「準備OK。さ、ちゃっちゃと倒しに行っちゃいますか♪」
何だかとてもご機嫌なミシャさんと共に、6つ目のダンジョン『ケイオスラーシャの巣』へと向かった。
……
…………
………………
ダンジョン入り口のあるエリアは『瘴気の下水道』の時と同じで、ケイオスラーシャにより食い散らかされ悲惨な光景が広がっていた。
「あれがケイオスラーシャ。……何だかアルマジロと猿を合体させたようなモンスターですね」
「まぁ、性能もそんな感じだからね。猿の機動力とアルマジロの物理防御力を持つモンスターって思っておくと良いよ」
ミシャさんは私に返答しつつ、インベントリを操作して1つのアイテムを取り出した。
「はい、クレイジークレイジー製巨大煙玉~♪ ……いっちょハイテイマーズ戦の再現でもしてみますか!」
ミシャさんが取り出したアイテムはハイテイマーズ戦で使った広範囲用煙玉だった。……その価格1個2Mの超高級品。
その高級煙玉を「よいっしょ!」と放り投げ、広範囲が黒い煙に覆われる。
「他にも色々持ってきたから、ケチケチせずに大盤振る舞いで行くよ~。ナツちゃんも思いっきり戦っておいで♪」
「はい、全力で行きます!」
私は即座に意識を切り替え、心と頭から雑音を消す。私の気配が闇へと溶けていくのを感じながら、両手の短剣を構えてゆらりと走り込む。
敵の背後に回り込んでバックスタブを叩き込み、追撃せずに後退して別の敵へと襲い掛かる。一体一体倒していくのではなく、最優先すべきは私の位置を悟られて打ち合わないようにする事。
これは戦いじゃない……狩りなのだ。
私がそんな暗殺者めいた動きを見せるなか、ミシャさんも様々なアイテムを使って援護してくれていた。
鳥もちにデバフ効果付き水風船、混乱効果を持つピコピコハンマー、特殊効果が付いてるのかどうかよく分からないハリセンや巨大クラッカー。
ミシャさんは大変ご満悦なようで、煙玉による暗闇の中、ミシャさんの笑い声が響き渡っていた。
その後、駆除は危なげなく順調に進んでいるように見えたが、戦闘開始から時間が経過するにつれてある違和感が出始める。
「ナツちゃん、ちょっとヤバいかも。……いくら倒しても敵が一向に減ってない」
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