221. 速攻
6つのダンジョンからバグモンスターが溢れ出すという予想を遥かに超えた逆境から始まったバグモンスター掃討戦。
誰がどのダンジョンに向かうかはギンジさんとロコさんが話し合い、私はミシャさんと一緒に『瘴気の下水道』という名前のダンジョンへと向かう事が決まった。
「ナツちゃん、現地に着いたらまず私が招き猫を出すから、集まって来たモンスターの対処を任せても良いかな?」
「はい、大丈夫です! ミシャさんはどう動きますか?」
「私はその時の状況次第で臨機応変にって感じで動くさ♪ 一先ずは少し離れた所からナツちゃんの戦いぶりを見て、行動指針を決める予定」
「了解です。よろしくお願いします」
簡単に打ち合わせを済ませた後は、街の転移屋を使って一気に現地まで飛ぶ。
メンテナンス期間でもNPCは通常通り動いていて本当に助かった。
「……酷い」
転移屋を使って現地へ到着し、最初に観た光景は……大型犬ぐらいの大きさはあるネズミから食い散らかされ、所々電子的な光がむき出しになった木々やモンスター達だった。
「思った以上にヤバそうだね! ナツちゃん、行くよ」
「はい。……速攻で終わらせます!」
ミシャさんがすぐに巨大招き猫をインベントリから取り出してその場に設置する。すると、エリア中に散らばってフィールドのオブジェクトを齧り続けていたネズミが一斉に招き猫へと群がって来た。
「クロ、行くよ! ラピッドラッシュ!」
「キュッ!」
少しでも早く事態を収拾する為、私は心合わせの指輪でモカさんとパルと融合し、クロのシャドウ ラピッドラッシュと私のラピッドラッシュで一気にネズミの群れを叩く。
飽き性のクロを上手く誘導しつつパルと共にレベル上げに邁進し、パルはレベル100のカンストペットに、そしてクロはレベル92まで上がっている。
このバグモンスターの住処である『瘴気の下水道』は中級レベルのダンジョンである為、私がしっかりとサポートしてクロが敵に囲まれないように立ち回れば、余程のトラブルが起きなければ窮地に陥るという事は無いはずだ。
――とは思うんだけど、数が多すぎっ!
見渡す限りの大量のネズミに辟易としながらも、一心不乱に短剣を振るいバグモンスターの数を減らしていく。
時折クロが前に出過ぎて敵に囲まれそうになった時は、透かさずフォローに入ってクロの周りに居る敵の数を減らして、クロが対処出来る範囲の数に収まるように調整していった。
「OK、OK。これなら、敵の機動力を下げるのが一番安定しそうだね♪ て事で……ヘビーソング!」
安全圏からこちらの観察をしていたミシャさんが駆け出して、巨大招き猫の上へと飛び乗りマイクを構えた。
そして歌唱技能により流れだすBGMに合わせてミシャさんの歌声が響き渡る。それは、普段のミシャさんからは想像も出来ない重いテンポのバラードだった。
――ふぁ~、ミシャさんの低めの声カッコイイ……推せる。って、それどころじゃ無かった!!
普段とギャップのあるミシャさんの雰囲気に呑まれて聴き入ってしまったが、襲い掛かって来るネズミにハッと意識を取り戻してすぐに戦闘を再開した。
周囲のネズミ達はミシャさんの歌唱技能により機動力が落ちている。元々のレベル差もあったため、ここまでの機動力差が生まれれば後は単なる作業だ。
……
…………
………………
「ふぅ~、一先ずは片付いた感じですかね?」
「だね。あとは……うん、ダンジョンの中にまだ外に出てないのが少数と、奥にボスが居るっぽいね」
スタミナの温存を度外視したスタミナポーションと技能の連発によるごり押しで、外に溢れ出していたネズミのバグモンスターを一気に倒し終えた私達は、そのままダンジョン内のバグモンスターも一掃する事にした。
現状まだ手付かずのダンジョンがあり、悠長にやっている余裕はないのだ。
「ナツちゃん、雑魚は無視して一気にボス部屋まで行っちゃって。残った雑魚は私が引き受けるわ」
「分かりました。サクッと倒してすぐに戻ってきます!」
私は一度融合を解き、その後3体全員と融合し直してダンジョンの最奥へと向かった。
ダンジョン内は薄暗い下水道になっていて、あちこち薄汚れていて少しばっちい。……嫌な臭いが再現されていない事が救いかもしれない。
途中で出くわすネズミは無視し、パルの翼とエアウォーク、そして機動力と反応速度を大幅に上げるウルフシャウトを使って一気に最奥のボス部屋まで進んで行く。
そうして10数分、一度の戦闘もしないままボス部屋まで辿り着いた。
「確かここのボスはラットエンペラー。毒状態を付与する噛みつき攻撃と、毒のヘドロを飛ばしてくる魔法だったかな」
どんなバグモンスターが現れても良いように、プログレス・オンラインの攻略wikiや動画サイトで大体のボスモンスターの予習は出来ていた。
私は記憶からこのダンジョンのボス情報を引っ張り出し、短期決戦での戦い方をシミュレートしていく。そしてある程度方針が決まった所で、ボス部屋への扉を開いた。
「ヂューーーーッ!!」
ボス部屋の中に居たのは私の倍の大きさはある、二足歩行の巨大なネズミだった。エンペラー感を出すためなのか、肩にはマントを羽織り、薄汚れた金属製の杖を持っている。
「申し訳ないけど、時間が無いから速攻で決めさせて貰うね。……レッグ アビリティ アップ! レッグ アビリティ アップ セカンド! レッグ アビリティ アップ サード! ストライク ラッシュ!」
機動力と反応速度の自己強化バフを重ね掛け、ラットエンペラーとの距離を一気に縮める。
これから始まるのは私の一方的な攻撃だ。ラッシュ攻撃によるノックバックの嵐によって碌な反撃もさせずに終わらせて貰う。
縦横無尽に飛び回り、怒涛の蹴り攻撃を受け続けるラットエンペラーのHPはみるみる削られて行く。
そしてそのHPが3割を下回ると、一瞬の無敵状態になって自己強化バフを発動した。
「ヂュワーーーーッ!!」
――……決める!
自己強化バフ演出が終わり、無敵状態も解除された瞬間に私はラットエンペラーに止めを刺すべく仕掛ける。
「バックスタブ! エアウォーク! からのメテオ スタンプ!」
自己強化バフ演出で無防備だったラットエンペラーの背後からバックスタブで確定クリティカルを叩き込み、その後エアウォークによりボス部屋内での最高高度まで飛びあがってからの強烈な打撃音と共にラットエンペラーの頭を踏みつけた。
その後流れるように融合を解除し、止めの一撃を叩き込む。
「カウントナックル!」
「くっまぁ!!」
私の攻撃によりHPを残り1割近くまで削られていたラットエンペラーは、最後に放たれたモカさんの強烈な一撃により光の粒子となって砕け散った。
バグモンスターが溢れ出しているダンジョンは残り5つ。
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