220. スタンピード
ファイさんから今回のメンテ期間限定で使えるマップ機能についてや、消耗品やギルドハウスの取り扱いについての説明を受けた後、私達は神AIによる世界全体のスキャンでバグモンスターが発見されるのを待っていた。
ちなみにメンテ期間限定で使えるマップ機能というのは、神AIによるスキャン結果とプレイヤーが所持しているマップを連動させる機能の事で、この機能により私達が現地に向かっている途中でバグモンスターが大きく移動を開始したとしても、私達はバグモンスターを見失う事なく追う事が出来るようになった。
そして消耗品やギルドハウスの取り扱いについてなのだが、本来の契約では私達への支援はバグモンスター事件が解決するまでとなっており、もしこのメンテナンス期間内に事件が解決すれば消耗品の支援や資金支援もそこでストップする事になる。
けれど、どうやらファイさんが色々と掛け合ってくれたようで、現在ギルドハウス内に備蓄されている消耗品まではその後も私達で使用して良い事になり、更にこのギルドハウスも運営所有の物とした上でエイリアスにのみ解放するという形をとって今後も維持費無料で使い続ける事が出来るようになった。
まさに破格の待遇なのだが、勿論無くなる物もある。まず当然なのが資金援助。次にギルドハウスに設置してある私専用ダンジョンの撤去。そして最後にバグモンスター素材の装備類の没収だ。
少し残念ではあるけれど、この思い出の詰まっているギルドハウスが残るだけでも私としては凄く嬉しかった。
「……おかしいな」
バグモンスターが発見されるのを会議室で待っていると、ファイさんがぼそりと呟いた。
「どうしたんですか?」
「……いや、私の予想ではレキ君やハイエンスドラゴン以外にも数体はバグモンスターが潜んでいると睨んでいたのだが。これだけスキャンが進んでいるのにも関わらず、1体すら見つからないのがどうにも腑に落ちなくてな」
そう言うとファイさんは黙ってしまい、モニターで何かを操作し始め……そしてそれは突然起きた。
「ビー、ビー、ビー、ビー」
「な、何ですか!?」
「っ! そういう事だったか!! 君たち、今すぐマップを開いてバグモンスターの分布情報を確認して欲しい!」
ファイさんに促され、急いでマップを開くと……そのあまりの状況に一瞬思考がフリーズしてしまった。
「うわぁ、これは酷いにゃ~」
「一応確認なのですが……バグモンスター討伐で動ける人員は僕たちしか居ないんですよね?」
「あぁ、申し訳ないが私達で対処するしかない」
マップには赤いドットとしてバグモンスターの位置情報が表示される仕様となっている。そして今私達が確認するマップでは……その赤いドットがどんどん増え続けていた。
「この位置から察するに、ダンジョンかえ?」
「そうだ。敵はどうやらダンジョンのミラーサーバー機能を利用し、通常では察知されないエリアを作ってバグモンスターを増やしていたらしい。……そのエリアを察知されると、蓄えたバグモンスターを放出する罠付きでな」
プログレス・オンラインのダンジョンには大きく分けて2種類のダンジョンが存在する。
1つが不特定多数が同時に侵入出来るタイプのダンジョンで、2つ目が個人単位やパーティー単位でサーバーを切り分けて関係ないプレイヤーと会わない仕様になっているダンジョンだ。
サーバーを切り分けている為、多くのプレイヤーが挑む人気ダンジョンでもダンジョン内がプレイヤーで溢れかえらないのが利点になっている。
そしてどうやら敵は、運営側でも察知されない隠しサーバーを用意し、そこに大量のバグモンスターを潜ませていたとの事だった。
「どうする? どうやらバグモンスターの溢れ出しているダンジョンは全部で6つだ。1つずつ潰していくか?」
「……確認なのだが、君たちなら1人ずつこれらに対処する事は出来るだろうか?」
「出来なくはねぇが、何でだ? 危険を冒してでも早期に対処したい理由でもあるのか?」
「どうやらこのバグモンスター達はマップデータやモンスターを破壊しながら広がっているらしい。対処が遅れ、この世界に神AIでも対応出来ないレベルのダメージが蓄積されれば……最悪この世界が崩壊する」
ファイさんの言葉に背筋が凍った。
――この世界が……崩壊する?
「ちっ、それじゃあ仕方ねぇな。ミシャ、お前さんはナツに付いて2人で一ヶ所を頼む」
「あいよ♪ 他の皆は1人1つかにゃ?」
「あぁ、2つ余っちまうが早い者勝ちだな。獲物が欲しけりゃ急げってこったな」
「ッ! 私も1人で大丈夫です! 少しでも早く対処しないと!」
私が皆と並び立つぐらい強いなんて己惚れた事は言わない。けれど、今は一刻を争う事態なのだ。
少しでも早く対処する為なら私は多少のリスクを厭わない。
「え~っと……ナツちゃん。覚悟完了してる所、申し訳無いんだけど。……この場合、問題があるのはナツちゃんじゃなくて私なのさ」
「え?」
「私を凄く評価してもらえるのは嬉しいんだけど、私の実力じゃこの量のモンスターを1人で相手するのは逆立ちしても無理だよ」
「……あっ。す、すみません! あまりの事態に気が動転してまって……」
ミシャさんは強いけれど、あくまでそのキャラビルドは戦闘用ではなくパフォーマー仕様だったのだ。
普段から凄く頼りになる事と、このあまりの急展開によってその事に気が付かなかった。
「いいよ、いいよ♪ ナツちゃんが私を頼りに思ってくれているって事だからね♪ でも実際には私に出来る事は限られるから、今回はナツちゃんのサポートを全力で頑張らせてもらうね!」
「はい、宜しくお願いします!」
こうして私達のバグモンスター掃討戦は幕を開けた。
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