219. 意外な真実
「ナツ、かなりギリギリになっちゃったけど何とか間に合ったわ」
そう言って最初にルビィさんから手渡された物、それは新しい籠手だった。
「籠手は盾スキル100用にグレードアップさせてあるからパリィ可能ダメージ範囲がかなり伸びてるし、積める機能枠も増えたからパリィ時にMPも貯蓄出来るように機能追加してあるわ。相変わらず耐久力は初心者用盾レベルだけど……はっきり言って、今ナツが着ている装備の中でもダントツに高額な装備になってるから、取り扱いには気を付けてね」
「……籠手の金額は聞かない様にしときます。……使うのに躊躇っちゃいそうなので」
今の私の装備は、運営からの資金援助によってトッププレイヤーでも中々作れないようなレベルの装備となっている。
そんな装備と比較してもダントツで高額な装備だと聞くと、私には怖くて金額を聞く勇気など出ない。
「まぁ、それが良いかもね。……正直私もダメ元で提案したんだけど、まさかこんな非現実的なコストの装備の製作許可が出て、資金まで即決で貰えるとは思ってなかったからね」
「なんて物を提案してるんですか!?」
「あはは……。まぁ、材料費は運営持ちだったし、ミシャさんのお陰でクレイジークレイジーの協力も得る事が出来たから『私の考えた最強の盾』ってのを作りたくなっちゃったのよね。勿論ダメ元だったから、別の案もちゃんと用意してたのよ?」
そんな言い訳じみた言葉を聞いた私は、この籠手の金額は絶対に聞くまいと決意を固めた。
そうして手渡された籠手を装備し、次に渡されたのは箱に詰め込まれた数々の装備品や生産素材だった。
「こっちは梵天用のコスト素材ね。装備類はナツの戦闘スタイルに合わせた課金装備で構成してるし、生産素材は効果時間延長の為に最高グレードの物を取り揃えてるわ」
私がアンタッチャブルの二つ名を得た時に手に入れた十二天シリーズ『梵天の水瓶』。
その効果はコストとして消費したアイテムのレアリティに応じて基礎スキル向上効果と、消費されたアイテムに付いているバフ効果を持つ武器を生成するという物。
アイテムをコストとして消費する度に武器の形は自由に選べ、その効果時間も消費されたアイテムのレアリティに応じて1分~3分延長される。
インベントリに入れられる量には限りがある為、コストをケチってレアリティの低いアイテムばかりを消費すれば大した力にはならず、かと言って最大効果を発揮しようと思えば膨大な費用を一過性の力の為に消費する事になる。
……そして私は、運営から提供される資金を使って膨大な費用を一過性の力の為に消費する事を選んだ。
ルビィさんにはバグモンスターとの決戦の為に、私の戦闘スタイルに合わせて有用なバフを手に入れる為に様々な課金装備を用意し、そして基礎スキルアップ兼効果時間延長の為にハイレアリティの生産素材アイテムを用意してもらっている。
「……私が協力出来るのはここまでだけど、一連のバグモンスター問題を解決してレキを取り戻せるよう祈ってるわ」
「ありがとうございます。……必ずやり遂げてみせます」
そして遂に、決戦の日がやってきた。
……
…………
………………
決戦日当日、私は普段通り自宅のデバイスからプログレス・オンラインへとログインした。
本来であれば今日はメンテナンス期間中のためログイン出来ないのだけれど、私達エイリアスメンバーだけはログイン出来るようになっている。
「はぁ~、遂に来ましたね。……何だか緊張して来ました」
「お主の場合この戦いに掛けられた物が多い故、仕方がないじゃろうな。何を隠そう、わっちも少しばかり緊張しておる」
私達は今、ギルドハウスの会議室へと集まっていた。
今から行うバグモンスターの一掃作業の前に、ファイさんの方から今日の活動概要の説明を行うらしい。
その本人であるファイさんは準備の為に少し遅れている。
「済まない。プログレス・オンラインの全体スキャンの準備に時間が掛かってしまっていた」
「えっと、何かトラブルですか?」
「いや、トラブルと言うより人手不足だな。今このゲームにアクセスしている運営スタッフは私だけなんだ。その為、何をするにも時間が掛かってしまっている」
これまで遭った一連のバグモンスター事件には、運営内部からの人為的操作があった事が判明している。
その為、一週間前から運営スタッフのゲームへの管理権限を一時凍結し、今日に関してはファイさん以外の運営スタッフは誰もアクセスすら出来ないようになっている。
「それで今日の活動概要なのだが、現在プログレス・オンラインの神AIの持つほぼ全てのリソースを使い、プログレス・オンライン全体のフルスキャンを行っている。そしてバグモンスターを見つけた場合、逐次君たちに討伐へ向かってもらう事になる」
「どんなバグモンスターが潜んでるか分からねぇが、この前のクリスタルモールの時みたいな特殊エリアがねぇといいんだがな……」
「確かにあれは大変でしたね。下に落っこちたら全面土に覆われて無数のクリスタルモールに襲われましたから」
「いや、それだけじゃねぇ。バグモンスターは通常と違う仕様で動く事があるからな、下手をすると分断されて叩かれる可能性がある」
特殊モンスターの中には、クリスタルモールのように特殊エリアへと引っ張り込んむモンスターが存在する。
通常同じパーティーの場合、パーティー単位で引っ張り込む事になるのだが、仕様通りに動かないバグモンスター相手だとそこに不安があるのだ。
「……あれ? でもクリスタルモールの時は私ギンジさん達とパーティー組んで無かったのに、ギンジさんとシュン君は後から入って来れましたよね?」
「いや、あれは例外だ。本当だったらお前さんが地下エリアに入った段階で地面が不壊属性になって、どんだけ攻撃しようと地下に侵入出来なくなるんだ。あの時俺たちが助けに入れたのはファイのお陰だな」
「ファイさんの?」
実はあの日、私がクリスタルモールの罠に掛かって地下エリアへと落とされた後、ファイさんが即座にエリア周辺を一般プレイヤー立ち入り禁止区域に設定し、更に運営スタッフの権限を使って地面の不壊属性を一時的に消し去ってくれたのだそうだ。
そのお陰で、ロコさんのペットである光龍の攻撃で地面を破壊し、ギンジさんとシュン君が地下エリアへと侵入する事が出来たらしい。
「……そうだったんですね。ファイさん、ありがとうございます」
「いや、そもそもこちらが危険なバグモンスター退治を依頼している立場だ。アクシデントが発生すればすぐに対応するのは当然の事だろう。……それに対処に時間が掛かってしまい、ギンジ君達が助けに入るのがギリギリになってしまった」
「そんな事ないです。確かにギリギリでしたけど、ファイさんが居なかったら普通にやられてましたから」
ファイさんは戦闘能力のない運営スタッフの為、一緒にバグモンスターと戦う事はない。けれどファイさんは、戦闘とは違う形で運営スタッフとして一緒に戦ってくれているのだ。
その事を実感し、先ほどまで感じていた緊張が少し和らいだ。
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