218. 凡才は知識と圧倒的な練習量で補う

 ノーラ神殿でのパーティー戦を何度か繰り返し、エイリアスメンバーそれぞれの課題を明確化した後、私達はその場で現地解散する事になった。

 私はこの後シュン君にクールタイム管理の練習方法を教わる事になっているので、シュン君と共にギルドハウスの訓練場へと向かう。


「ちなみにナツさんはリズムゲームなどした事がありますか?」

「う~ん、実は家って家族全員あまりゲームをやらなくて。リズムゲームは友達がゲームセンターでやってるのを見てたぐらいなんだよね……」


 訓練場に着いて早々シュン君に質問され、私は素直にそれに答えた。

 実を言うと殆どゲームをやった経験が無いのはクラスでも少し珍しく、休日などは専ら近所のドックランにレキと遊びに行くか、家族で出かける事が多かった。

 なので、お父さんからプログレス・オンラインを進められた時は少し驚いてしまった程だ。


「そうなんですね。それだと、ちょっとイメージしにくいかもなのですが、実はクールタイム管理とリズムゲームは似た所があるんですよ」

「そうなの? ……あっ、もしかしてタイミングが胆って事?」

「確かにどれもタイミングが大事ですね。ですが、ここで言う似ている所とは『どちらも知識と圧倒的な練習量が大事』と言う事です」


 シュン君の説明は続く。


「実はですね、凄くリズムゲームが上手くて難しい曲を難なくクリア出来てしまうような人でも、逆に簡単な曲の方が苦手という方は多いです。……何でだと思いますか?」

「難しい曲が得意で簡単な曲は苦手……。簡単な曲はあまり練習してないからとか?」

「そういう理由もあるかもしれませんが、一番の原因は難しい曲と簡単な曲で求められる能力が違うからなんです」


 シュン君はより具体的な説明をしてくれた。

 そしてその内容は、普段全くリズムゲームなどをやっていない私でも目から鱗が落ちるような話だった。

 

 シュン君の言うには、簡単な曲に求められるのは『反射神経』や『リズム感覚』など才能の有無による影響が強い能力であるらしい。

 そして逆に、難しい曲に求められるのは『覚える事』で、流れて来るコマンドを何度も練習する事で頭と体に覚え込ませているのだそうだ。


「そしてこれをクールタイム管理にも応用させます。より具体的に言うと、ナツさんやペットの使う技能や魔法のクールタイムはそれぞれ違いますので、それぞれを上手く組み合わせて無駄な余白なく技をループ出来るコンボを状況に合わせて何パターンも作るんです」


 それはまさにリズムゲームにおけるコマンドパターンのような物だった。

 私は今まで、十分にクールタイムを終えているであろう技を状況に合わせて使用していたのだが、その所為で必要以上に技と技の間の隙間時間が多くなってしまい、必然的に使用する技能や魔法の数が少なくなってしまっていたのだ。

 そこで、それぞれの技のクールタイムを元に、コンボの最後の技を使用すると最初の技のクールタイムが明けるようなループコンボを何パターンも作っておき、状況に合わせて使用するループコンボを選択する。

 そうする事で、私のように幾つものクールタイムを感覚で測れない人でも、クールタイム感覚が無いまま最高率の行動を目指せるようになるそうだ。


 けれどこれは決して簡単な事ではなかった。

 それぞれの技のクールタイムを元に、パズルのようにコンボを組み上げなければならないし、どうしても繋がらない場合は通常攻撃なども組み合わせながらコンボを組まなければならない。

 残り6日で何パターンものループコンボを作り、そしてそれを完全に覚えて実践で活用出来るようにならないといけないのだ。


「ループコンボ作りは僕もお手伝いします。後は残り時間で徹底的に練習するしかないですね。才能の有無の差は、知識と圧倒的な練習量で補うしかありません」

「う、うん。……頑張ります」


 シュン君のその言葉には強い圧力と重みがあり、私は直観的に理解した。……これがシュン君の生き方なのだろうと。

 

 それから私は自分の使える技能と魔法を全て洗い出し、体を動かしながら実践を想定したループコンボ作りを始めた。

 そして出来たループコンボはギルドハウスに設置してある私専用ダンジョンですぐに試し、そしてその結果からまた改良を繰り返していく。

 勿論ループコンボ作りと練習だけでなく、ノーラ神殿でパーティー戦の訓練も行ってパーティーとしての練度も上げていかなければならない。


 そうやって私達は、バグモンスターとの決戦に向けて準備を整えていった。

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