217. ヘイト勝負に勝ってこそのメインタンク

 私は確かに強くなった。

 1パーティーや2パーティー組んで戦うようなボスモンスターをソロで、しかもノーダメージで倒せる私が強くないなんて謙遜を言ってしまえば、それは謙遜ではなく嫌味になってしまうだろう。

 だから私は謙遜せず自分の強さを認めるように心がけている。……けれど、そんな強さもエイリアスの中では霞んでしまいがちなのだ。


「おらおら、どうした! その程度じゃ、俺がヘイトを取っちまうぞ!」

「くっ! アテンション クライ!『来い!』 カウントバスター!」


 私達エイリアスは今、バグモンスターとの決戦に向けて、ノーラ神殿でランダムに出現するモンスターを相手にパーティー戦の訓練をしている。

 そしてそんな訓練の中、私は味方であるはずのパーティーメンバーから追い詰められていた。


「そこまでじゃ。シュン、ギンジ、攻撃を少し抑えよ。ナツはもう少しペットのクールタイムを読んで組み込むのじゃ」

「はい、頑張ります!」


 パーティーにおける役割は大きく分けて、敵にダメージを与えるアタッカー、敵の攻撃を引き受けて味方を守るタンク、味方を回復するヒーラー、味方を強化するバッファー、敵を弱体化したり行動阻害をするデバッファーなどがある。

 そして、パーティー戦で重要なのは自分の役割を完璧に全うする事なのだ。


 私がこのパーティーで担う役割はタンクの為、敵の注意を私にくぎ付けにして、相手からの攻撃を一手に引き受けなくてはいけない……のだが、実は今それが上手く行っていない。

 それは何故かと言うと……ギンジさんとシュン君の火力が高すぎるのだ。


 エイリアスパーティー内でギンジさんとシュン君はアタッカーを担っていて、私が敵の注意を引いている間にどんどん敵モンスターに攻撃を加える事になる。

 そしてそのダメージ量に応じて2人は敵からのヘイトを溜める事になり、そのヘイト値が私が稼いでいるヘイト値を超えれば、敵は私以外を攻撃対象と定めてしまう。

 つまり、私はヘイト勝負でギンジさんやシュン君に勝たなければならないという事……。


「序盤、しっかりとナツさんがヘイトを受け持ってくれていますからね。その分、茨のバトルシューズを履いてストライクラッシュで延々と火力を上げる事が出来る僕の方が、後半有利になるのは仕方がないですよ」

「シュン、その分ナツは複数のヘイト技を使ってんだから、もう少し粘れるはずだ。俺たちの火力が高ぇっていうのも勿論あるが、原因の1つは完全にこいつのクールタイム管理の粗さだ」


 否定のしようもない正論の嵐だ。

 今シュン君が履いている靴は、私が持つ茨の短剣と同種の効果があり、敵の反撃を気にせずラッシュ攻撃で機動力を上げながら攻撃を続ければ、その攻撃力はどんどん上がっていく。

 そうなれば必然的に稼いでしまうヘイト値もどんどん増えていくのだが、私がもっと上手くやればもっとヘイト勝負で粘れると言うのも真実だったりする。


 メンタルコントロールや体の使い方、ペットとの連携などは上達した私だが、今でも苦手としている事がある。……それがクールタイム管理。

 今どの技能を何分後に使用可能になるかという管理が甘い為、時間当たりに使う技能の量が少なくなり、結果的に稼げるヘイト値が下がってしまう。

 自分自身のクールタイム管理もままならない現状、ペットのクールタイム管理がそれ以上に出来る訳もなく……。


 ヘイトの均衡が崩れそうになっている事を察知したロコさんからの指示で、ギンジさんとシュン君の攻撃速度が下がり、その間に私がヘイトを取り戻していく。

 その後はヘイト勝負をすることなく、無難な戦い方でモンスターを倒しきった。


「ロコさん、クールタイム管理の技術ってどうやって練習すれば良いんでしょうか?」

「……実を言うと、わっちは最初からある程度出来ておっての。あまりクールタイム管理で苦労した経験が無い。じゃから、この件に関しては、あまり適切なアドバイスが出来ないのじゃ……」

「そういや、俺もクールタイム管理で苦労した事ねぇな。最初は勿論分からねぇが、技能を何度も使ってりゃ体感で大体分かるようになってくるしな」

「私もそこら辺は器用な方だからねぇ~。10個でも20個でもバラバラのクールタイムをドンピシャで合わせられるよ♪」


 ――二つ名持ちって本当に理不尽な人達だ……。いや、私も一応は二つ名持ちだけど。


 この理不尽な人達に凡人の苦労を少しでも分からせたいと思っていると、隣りで私を見ていたシュン君が苦笑しながら語り掛けて来た。


「ナツさんが今考えている事が手に取るように分かりますよ。でも、一応言っておきますけど、ナツさんも十分にこの3人の仲間ですからね?」

「えぇ~、私はこんな理不尽な生き物じゃないよ」

「おい、ナツ。誰が理不尽な生き物だって?」

「僕から見たら、ナツさんもギンジさん達と同じ理不尽な人達の仲間ですよ。……まぁ、その事はひとまず置いておいて、僕は努力してクールタイム管理技術を身に着けたタイプなので、練習方法をレクチャー出来ますね」


 と言う事で、決戦日までの残り日数の使い方は、ノーラ神殿でパーティー戦の練習とクールタイム管理の練習に決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る