216. 祝勝会

「それじゃあ、ナツちゃんのパブリックエリア最強格ボスモンスターソロ討伐を祝して、かんぱ~い♪」


 私がビリディアをソロ討伐した翌日、エイリアスのメンバー全員で私の祝勝会を開いてくれた。

 祝勝会の料理などはロコさんが1人で全部用意しており、最初は私も手伝おうと思ったのだけれど「今日の主役はお主なんじゃから、どしっと構えておくのじゃ」と言われ、完全に御もてなされている。


「それにしても、お前さん相当強くなったな。……どうだ、今度俺と本気で戦ってみねぇか?」

「いえ、遠慮しておきます」


 祝勝会が始まって早々、ギンジさんがとんでもない事を言い出した。……が、私はそれを冷静に受け止め、即座に拒否しておく。

 

 ――ここで曖昧な返事しておくと十中八九戦う事になるからね。


「これ、ギンジ! 今日はナツの祝勝会じゃぞ。その主役に負担を課せるでないわ!」

「そんなつもりは無いんだがなぁ……。戦い方を見るに、お前さんも戦いは嫌いじゃ無いだろ?」

「……ノーコメントで」


 ギンジさんに言われるまでもなく、自分がどんどん戦闘好きになっていっている事は自覚している。

 けど、だからと言ってギンジさんとのガチ戦闘なんて真っ平御免なのだ。


 最初にギンジさんの仕掛けた爆弾の処理から始まった祝勝会だが、その後はロコさんの作ってくれた料理に舌鼓を打ちつつビリディア戦の動画鑑賞となった。


「うむ、やはりこの戦いぶりは圧巻じゃのぅ。……ペットとの連携に関して言えば、ナツはもうわっちを超えておるな」

「えっ!? いやいや、そんな事は無いですよ! どんな状況にも即座に対応するロコさんとペットの立ち回りには、まだまだ勝てる気がしないです!」

「それは場数と訓練による練度の差じゃよ。じゃが、お主が自然にやっておるノータイムでペットと即座に行動を起こすような事は、わっちには出来ん。……精々意思疎通によるタイムラグを縮めるぐらいじゃな」


 私の中でロコさんは最高峰のテイマーで、尊敬する私の師匠なのだ。そんな師匠からたった1つでも超えている部分があると言われると、あまりの過大評価に畏縮してしまう。


「まぁ、ナツちゃんのこれはもう超能力の類だからねぇ~。ファイたんの方ではナツが何をやってるのか分かってるの?」

「いや、ほぼ何も分かってはいない。……ただ、ゲーム側で五感に働きかけるデータ以外の情報にもアクセスしている可能性は高いと思っている」


 プログレス・オンラインは膨大なデータの集合体だ。けれど、その中でもプレイヤーが知覚出来るのは、ゲーム側で制御されプレイヤーの脳へと流し込んでいる五感を刺激する為のほんの一部のデータでしかない。

 けれど私は、その五感用のデータ以外のデータを感じ取り、尚且つそのデータを介してペットにも意志を伝えている可能性があるらしい。

 今私が使っているデバイスのログ情報を調べると、戦闘中の処理負荷があり得ないレベルで高くなっているらしく、それは想定以上に大量のデータを処理しているから起きている現象ではないかとファイさんは考えているそうだ。


「だが、所詮は推測に過ぎない。今は特に問題は無いが、不具合の原因になる可能性もあるので、いずれしっかりと調べる必要はあるだろう」

「……私が不具合の原因になるかもしれないんですか?」

「可能性の話だ。仕様外の事が起きている以上、その可能性は0にはならない。今の所、そう深刻に考えるレベルではない」

「ま、ゲームに不具合やバグは付き物さ。ギンジ君やロコっちの強さだってバグレベルだしね♪」

「……確かにっ!!」


 そんなミシャさんの冗談でお茶を濁しつつ、ビリディア戦の鑑賞会は続いた。

 その過程で、この動画をファンクラブ限定で公開する事が決まったり、シュン君やギンジさん、そしてロコさんから各種駄目だしを受けたりとしたが、特に大きな問題もなく鑑賞会を終えた。……いや、ファンクラブへの公開を許可した事は、大きな問題だったかもしれない。


「さて、ナツ君の活躍によりバグモンスター化したビリディアも無事討伐された。……そしてそれと同時に、ナツ君のキャラデータに施した処置の検証も済まされ、決戦に向けた準備が整った事になる」


 ファイさんは私がビリディアと戦っている最中も、そして戦闘が終了した後も、ビリディア戦のログデータを調査していた。

 戦闘中、私はビリディアから一度もダメージを受ける事は無かったが、それでもログ解析によってキャラデータに施した処置がバグモンスターに有効である事を裏付けるデータは取れたそうだ。


「明日から一時的に、運営スタッフからゲームデータへの干渉権限が凍結される。そしてその一週間後から臨時の長期メンテナンスに入る予定だ」

「随分急じゃが、臨時で長期メンテナンスなど大丈夫なのかえ? 一般プレイヤーへの説明や補償などはどうするのじゃ?」

「それはこちらの方で上手くやる。多少SNSやニュースサイトが荒れるだろうが、そこまで大きな問題にはならないだろう」


 こうしてバグモンスターとの決戦の日は決まり、その翌日、運営から全プレイヤーに臨時の長期メンテナンスのアナウンスが行われた。

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