213. 私にしか出来ない戦い方

 私が言うのも何なのだが、テイマーという職業は戦闘職という観点で見ると、とても大変で難儀な職業だ。

 まずテイマー一本に絞ると、強くなるペースが他の戦闘職と比べて明らかに遅い。

 と言うのも、ペットのレベル上げ難易度はスキル上げより明らかに高く、しかも1度でも死んだら復活出来ないという仕様もあるため、スパルタ育成が難しいのだ。


 そんな大変な思いをしてペットのレベルを100まで上げたとしても、テイマーには大きな弱点がある。

 確かにレベルがカンストしたペットは、その労力に見合うだけの力を持っている。そんなカンストペットを3体揃えれば、その火力は凄まじいだろう。

 けれど、そんな凄いペットを揃えていても、テイマーにはテイマー自身という弱点が存在するのだ。

 どんなにペットが強くても、テイマーがやられてしまえば意味が無い。だからテイマーは自己防衛の手段にも気を回さなければならない。


 そしてもう1つの大きな弱点。それは、テイマーにとっての武器が生き物であるという事。

 短剣や刀といった通常の武器であれば、一々手に持つ武器に指示を出さなくても振れば扱える。けれど、ペットはそうもいかないのだ。

 ペットはテイマーの指示を聞いて動くし、連携も勝手に出来るのではなく練習しないといけない。

 しかもペットにはそれぞれ個性があり、性格も能力も違うため、それぞれのペットに合わせた運用をしなければならないという鬼畜仕様。

 ロコさんは多くのペット育てて来た経験とそれぞれのペットに合わせた運用方法を考え、そして度重なる反復練習によって、ペットとの意思疎通の時間という隙を減らしていった。……が、テイマー界の頂点に立っているロコさんでも、その隙を完全に消す事は出来なかった。


 ――ロコさんと一緒に作り上げたこの立ち回りで、テイマーの常識を塗り替える!


 私は魔法と技能により複数のバフを自身に掛け、そして心合わせの指輪により3体のペットと融合して飛び上がる。

 それと同時に、もうギリギリの状態だったらしいビリディアの動きを封じていた運営スタッフが、手に持つ凍結の鎖を解除して後方へと下がっていった。


「アテンション クライ!『来い!』 エアウォーク!」


 運営スタッフに向かっていたヘイトを自身へと向けさせ、パルの翼とエアウォークによる縦横無尽の立体機動でビリディアの周りを飛び回り、隙を見つけては攻撃を仕掛けて更にヘイトを稼いでいく。

 1段階目のビリディアの行動パターンは突進と光属性の魔法攻撃。種族特性としてデバフ無効を持っているが、1段階目のビリディアの対処はとくに難しくはない。


「マジックシールド! シールドアップ! マスターシールドアップ」


 ビリディアからのヘイトを十分に稼げたと判断した私は、盾技能を発動し戦闘態勢を整える。

 通常パリィは物理攻撃にしか効かず、魔法を弾く事は出来ない。盾スキル60の技能であるマジックシールドは、自身の盾に魔法をパリィ出来る効果を付与する技能だ。

 そして同じく盾技能であるシールドアップはパリィ可能ダメージ範囲を拡大で、マスターシールドアップはパリィ有効時間を短縮するというデメリットを負うことでパリィ可能ダメージ範囲を大幅に拡大する技能となっている。

 パリィはとても難しいテクニックだけれど、私は気負うことなくリスクを負ってビリディアを封殺する態勢を整えていった。


「ふぅ……。大丈夫、今日の私も最高に調子が良い」


 ビリディアを前にして少し緊張で硬くなっていた体から力を抜き、心身共に調子を整える魔法の言葉を唱えた。

 そして頭と心から雑音を消し、全ての情報を受け入れる態勢を整える。……そして、ビリディアの上空で融合を解き、その頭上へと舞い降りた。


「メテオ スタンプ! カウントナックル! シールドバッシュ!」


 ビリディアの頭上に落下する際、落下ダメージを上乗せする蹴り技能を叩き込み、モカさんにカウントナックルを打たせる。

 その後、ビリディアから光魔法の予兆を感じ取った私は瞬時に全員と融合して、その魔法をパリィした。

 パリィ可能ダメージ範囲は自身のステータスが高いほど拡大する。つまり、素の状態でパリィするより、カンストペット3体と融合した状態の方がパリィ出来る範囲は大幅に拡大するのだ。


 その後も融合と解除を頻繁に繰り返し、ペット達の技を自身の魔法や技能と同じような感覚で叩き込んで行った。

 融合も毎回全員と融合するのではなく、その時々の状況に合わせて臨機応変に融合内容を変化させ、そしてそんな複雑な戦い方をしているのにも関わらず、私達は一切連携を乱す事なく戦いを継続させていく。


 これがロコさんが提案し、2人で作り上げていった私だけの戦い方だ。

 ペットは物ではなく感情を持った生き物であり、どんなに相性が良く息がぴったりだったとしても、それぞれが感情を持って思考している以上、ノータイムで意思疎通を続ける事など通常は不可能。

 比喩的に『手足の様に』という表現を使う事は出来るが、本当に手足の様にペットを扱う事など出来ないのだ。

 

 けれど、私に関してだけはこの常識が当てはまらない。

 理由は不明だけれど、私は非常に高い精度でペットの思考を読み取る事が出来、逆に私の思考をペットに伝える事も出来る。

 これまでは戦っていく中で少しずつ調子を上げていき、その異常な相互理解能力の精度を高めていっていたのだが、ミシャさんの厳しい訓練によって、私は自分の意志でその能力を引き出す事が出来るようになっていた。

 そしてその能力を十全に発揮する事によって、私はペットを文字通り手足の様に扱う立ち回りが出来るようになったのだ。


 ……勿論、私の手に入れた力はそれだけではない。


「斬首一刀!」

「クゥウウウン!?」


 流れるような手捌きでインベントリを操作し、武器を刀に入れ替える。そしてその後、ビリディアの首にクリティカル攻撃を叩き込んだ。

 それによりキャンセリングタイムが成功し、今まさに発動しようとした光属性の全体攻撃魔法をキャンセルする。


 様々な武器でクリティカル攻撃を叩き込む事が出来るようになり、パリィとキャンセリングタイムによって敵の攻撃を封殺する環境が整った。

 このゲームの仕様に最適化した動きを身に着ける事によって、私は私のステータスを十全に扱えるようになった。

 メンタル管理技術を身に着ける事によって、私は私のポテンシャルを十全に引き出せるようになった。

 ペットとの連携技術を極める事によって、私の戦略の幅が大幅に広がった。


 私は遂に、私の求める力を形にしたのだ。

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