212. 決戦前の大勝負
「まぁ、なんじゃ。何時かは来るじゃろうなとは思っておったな」
「ですね。このバグモンスター事件が人為的な物であるのなら、バグモンスター化するのがハイエンスドラゴンだけだとは考えづらかったですから。恐らくビリディアだけでなく、その内メナスガーヤカやガイアタートルのバグモンスターも出てきそうです」
ビリディア。あのハイエンスドラゴンやメナスガーヤカと同格の強さを持つプログレス・オンライン内でもかなりの強敵に位置するボスモンスター。
今日はそんな強敵のバグモンスターの発生連絡を受けた。
このレベルの強敵が相手では、完全な凍結処理もままならない今の運営スタッフでは対応出来ないらしく、その為、エイリアスメンバーでの対処を依頼されたのだ。
本来であれば悠長に話している余裕はなく、すぐにでも現地に向かわないといけないのだけれど、今はそれが出来ない理由があった。
「ファイ、対バグモンスターの処置はあとどのくらい掛かるんだ?」
「もう暫く待ってくれ。あと5分から10分程度で終わるはずだ。それまでは運営スタッフの方で何とか持ちこたえる」
「あの、ファイさん。今回の処置をすれば、時間制限無しでバグモンスターからデータを保護出来るんですか?」
「……正直に言えば確証は取れていない。これは、先日のクリスタルモールをデータ解析し得られた差異データを、キャラデータに半ば無理やり適用しているだけなんだ。勿論、こちらの方でも既に検証済みで効果を確認している。……だが、検証機会が圧倒的に不足している為、今回の大物に対応出来るのかは断言が出来ない」
前回、無意識にバグだけを削除したクリスタルモールには、バグモンスターの持つデータ破壊攻撃に対する耐性が備わっていた。
そこで運営サイドではこのクリスタルモールをデータ解析する事によって、データ破壊攻撃に対する耐性は勿論、もしかするとプレイヤーやモンスターのバグ化すらも止められる何かが見つけられるかもしれないと解析を進めていたのだ。
その結果、通常のクリスタルモールと耐性を持つクリスタルモールでデータ差異が見つかり、その差異データを別モンスターに適用する事によってデータ破壊耐性を持つモンスターを作り出す事に成功した。
けれど実は、その差異データの何がデータ破壊攻撃の耐性に繋がっているのかは不明であり、けれどそれ以外に違いは見つからないという理由でやってみたら成功したというレベルの産物らしいのだ。
そもそも、バグモンスター自体も通常モンスターとデータ上の違いはほぼ無く、本来であればそんな状態でデータ破壊やダメージ無効、他モンスターの捕食などの機能が備わるはずが無いという訳が分からない事象なのだ。なのでこれは仕様が無いのかもしれない。
そんな訳の分からないバグ関連の事象だが、出来得る限り運営サイドでもデータ解析や検証を積み重ねているようで、今回のビリディアの対処が問題無く上手く行けば、作戦を次の段階に移行するらしい。
……つまり、決戦が始まる。
「そうだ、ナツ。今回のバグモンスターはお前さん1人で対処してみろ」
「えっ!? な、何でですか?」
「今のお前さんなら問題ねぇと思ったからだ。あのハイエンスドラゴンみてぇに色んなモンスターの能力を吸収してるなら話は違うが、そうでも無いみてぇだからな。多少仕様外の行動はとるかもだが、それぐらいなら対処出来るだろ」
「いや、そんなの無ッ! ……いえ、精一杯頑張ってみます」
反射的に『無理です!』と返してしまいそうになったけれど、それは私の悪い癖だとグッと堪えて了承した。
確かに私はビリディアの能力や動きをしっかりと予習しているし、ギンジさんはスパルタだが無理な事は絶対言わない人なのだ。
そうして私達エイリアスメンバーはキャラデータの調整を行い、準備を万端に整えてビリディアの居るエリアへと向かった。
……
…………
………………
それは、ただ大きいだけでなく神々しさすら感じる鹿のモンスターだった。
けれど体のあちこちにバグ化によるテクスチャの崩れがあり、その神々しさは痛々しさと禍々しさを際立たせている。
『ナツ君、もしデータ破壊攻撃に対する耐性が上手く機能しない場合は、すぐに一旦引いて今まで通りのバグモンスター対策アイテムを使用するように』
「はい、分かりました」
運営スタッフの放つ鎖によって何とか動きを抑え込んでいるビリディアを眺めていると、ファイさんから通信が入って来た。
ファイさんは運営スタッフ用のエリアでバグモンスターデータの監視を行っており、もし何か異変などがあれば、すぐにその情報が共有される手筈となっている。
「それじゃあ……行ってきます!」
「うむ、頑張って来るのじゃ!」
「ナツさん、気を付けて!」
「危なくなったら助けに入る。だから心配せず、思いっきりぶつかって行け!」
「ナツちゃんの雄姿はしっかりと動画に収めるから、後で鑑賞会しようね♪」
ミシャさんの最後の言葉につんのめりそうになりつつも、私はそれを何とか堪え、意識を集中してビリディアの元へと向かった。
「決戦前の大勝負、普通に勝つだけじゃ駄目だよね。……それなら……ロコさんもギンジさんも出来なかった、ノーダメージ撃破で弾みをつける!」
こうして、私とバグモンスタービリディアとの大勝負が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます