209. 私の異常性
「ねぇ、ナツちゃん。……ナツちゃんには何が見えてるの?」
ミシャさんからそう問われ、私はその質問の意味が分からず困惑した。
「えっと……。すみません、どういう意味ですか?」
「さっきの模擬戦中、ロコっちや白亜君の魔法を発動前に予知してた様な動きがあった。それに、明らかに見えてない位置のペットの行動も見えてたよね?」
「え? いえ、そんなことは……。ロコさんや白亜の魔法は予知とかじゃなくて、その予備動作を見て……あれ? ……パル達の行動もちゃんと見て……いや、私正面を見ながら後ろも見てた?」
あまり意識していなかったけれど、ミシャさんから問われて先ほどの模擬戦の状況を思い出そうとすると、確かに見たはずなのに見れるはずが無いという状況に思い当たり、私の困惑は更に大きくなっていく。
私は確かに魔法が発動するという予備動作を見た。けれど、それと同時に魔法が発動される予備動作の前に回避行動をとったという感じもする。
私は確かにパル達の位置やどんな様子だったのか見ていたのだが、常にロコさんや白亜の動向に注視していたという記憶もあるのだ。
「あっ、もしかしたら、新しいデバイスの所為かもしれません! 新しいデバイスを使いだしてから、何だか頭がすっきりする感じがあって、戦闘中とか明らかに前のデバイスより状況把握が出来るようになってる気がするんですよ」
これは本当に感じていた事だった。新しいデバイスになった事で世界が鮮明に色付き驚いていたのだが、デバイスの効果はそれだけに留まらなかった。
戦闘中など集中している時は明らかに前より思考が軽くなっていたし、色々よく見えるようになっていたので状況把握が楽になっていたのだ。
まだまだ未熟ではあるけれど、パリィやキャンセリングタイムなどタイミングが難しい技術を熟せるのも、恐らく新型デバイスの効果も大きいと思う。
「次世代デバイスか~。う~ん、でもなぁ……。デバイスの処理能力が上がると確かに映像の解像度が高くなるから、それが戦いで有利に働く事はある。でも、それだけじゃ理屈に合わないだよにゃ~」
ミシャさんが腕を組みながら唸りだした。
正直、私もデバイスの性能だけで片付く話ではないと思っている。けれど、それ以外に思い当たる事がなく……。と言うより、あまりに自然過ぎて気付いてなかった異常性に、自分でも若干怖くなってきているのだ。
「……ナツよ、理屈に合わないのはそれだけでは無いのじゃ。お主とペットじゃが、声掛けもせず、視線も合わせずに意思疎通が出来ておるな?」
「それはプログレス・オンラインの機能ですよね? ロコさんもお互いの動きを合わせて戦ってますし、全てを言葉で指示しなくてもペットがロコさんの意図を理解して動いてますよね?」
これは以前ロコさんに教えられた事だ。
プログレス・オンラインではペットとテイマーの思考をリンクさせて、疑似的に第六感のような繋がりを作る機能がある。
これは全てのテイマーが最初から使える機能では無く、ペットとの友好度を高く保ち、尚且つ連携による戦闘を繰り返す事によって解放される機能なのだ。
私はこのリンク機能を、ギンジさんと行った猿洞窟の卒業試験中に発現した。
「確かにこのゲームにはペットとのリンク機能が存在する。じゃがそれは、テレパシーの様に意思疎通が出来るという事ではなく、あくまで『何となく察する』という勘レベルの事なのじゃ。それに、わっちとペットがお互いの動きを合わせられるのも、全てを口に出して指示せずともわっちの意図を察して動くのも、事前の度重なる反復練習によるものじゃしの」
ロコさんの話を聞いて、私は唖然としてしまった。私はリンク機能の事を完全に勘違いしていたのだ。
私は普段からパルやモカさんの考えている事を何となく察する事が出来ている。最近ではクロの考えている事も察する事が出来るようになってきた。これがリンク機能による物なのか、仕草から判断している事なのか分からないけど、戦闘中になるとこの感じ方が明確に変わって来る。
戦闘中に集中力が高まって来ると、パル達の動きや考えている事が明確に分かるし、私の考えている事もパル達に伝わっているのだ。
以前からロコさんは、私とペットとの繋がりがとても強く、お互いの意思疎通もよく出来ていると感心していたそうだ。けれど、今日の私達を見て、その連携精度の高さに異常性を感じたらしい。
心合わせの指輪を手に入れてからは、私はペットの安全性を考えて融合による戦いをメインにやって来ていた。ペットを表に出して戦うのはレベリング目的の時ぐらいだった為、今までロコさんに違和感を持たれるような機会が無かったのだ。
「……以前から時々、戦っている最中に凄く調子が良くなる時があって、そうなると本当にペットの動きや考えている事が分かるようになって、私の考えている事も言葉を通さずにペットに伝わるようになるんです。最近では、新しいデバイスになってその感覚が顕著になってきた感じがします」
実の所、集中力が最高潮に達する事で察する事が出来るようになるのはペットの事だけではない。
敵モンスターや味方も含めて、全てが繋がっているような感覚になり、その動きや考えている事などが何となく分かるようになるのだ。
今までは、反応速度のステータス向上や戦闘経験の蓄積などの要因によって、詳細な状況把握が出来るようになってきたのだと思って深く考えてはいなかった。
けれどこれも私の異常性の1つなのだとしたらと考えると、私が異常な存在なんだと思われるのが怖くなってその事をロコさん達に伝える事が出来なかった。
「もしかするとこれは、共感覚の一種なのかもしれないね」
「共感覚って何ですか?」
「共感覚って言うのは、ある情報を別の感覚とリンクさせて感じ取れる能力の事を言うの。例えば、世の中には音を波として知覚出来る人が居たり、数字を色やブロックとして知覚できる人が居る。……ナツちゃんは新しいデバイスを使うようになってから、以前より戦闘中の状況把握が出来る様になったんだよね? だとすると、高性能なデバイスによって受け取れる情報量が増えて、その中の何かしらの情報を共感覚で理解しているのかも」
――私は普通の人とは違った形で、情報を認識出来てるって事?
デバイスから送られてくる情報を、私は普通のプレイヤーとは違った形で知覚する事が出来る。その為、処理能力が大幅に向上し、より多くの情報を受け取り処理が出来るようになった新型デバイスを使う事で、その知覚能力が大幅に向上している。
そう考えると、確かに理には叶っている気がする。……ただ、それだと私の思考がペットに伝わっている理由がまだ分からない。
私は私の知られざる異常性を目の当たりにし、漠然とした不安を抱える事になった。
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